築41年賃貸マンションの空室をアーティスト活動拠点に! 工房、DJブース、ダンスフロアなどカオスで楽しい空間が話題 赤羽異地番街

東京都北区赤羽。大衆居酒屋がひしめく「赤羽一番街商店街」があり、最近は再開発が進む人気の街である。その住宅街にある築古賃貸マンションの一角に、異彩を放つアーティストの活動拠点「赤羽異地番街」(あかばねいちばんがい)がある。住人が普通に暮らす中、敷地内にあった未活用の倉庫や空き部屋を若手アーティストに貸し出して、マンションや周辺地域の活性化を目指す取り組みを潜入レポートする。
工房、DJブース、ダンスフロア……。扉を開けたら広がるカオスな世界
JR赤羽駅を下車し、赤羽一番街商店街や東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅などを通り過ぎて約20分歩くと、閑静な住宅街の中に年季が入った築41年の賃貸マンション「赤羽パールマンション」が姿を現す。同マンションは1927年に創業した業務用電熱線などを製造する赤羽冶金株式会社の工場や事務所がある敷地内に立っている。
工場の裏口のシャッターをくぐり、すぐ右手にある108号倉庫の銀色の扉を開けると実験や製作を行う工房があり、地下には音出しスペースやDJブース、さらに隣りの部屋の地下にはダンスフロアもある。この築古賃貸マンションの一角にあるカオスなクリエイション拠点が赤羽異地番街である。大衆居酒屋で賑わう赤羽一番街(あかばねいちばんがい)と読み方は同じで、漢字の「一」を「異地」と名付けた。

アーティストの創作活動拠点である赤羽異地番街がある「赤羽パールマンション」。竣工は1984年(写真撮影/片山 貴博)

赤羽異地番街は、赤羽パールマンションの108号倉庫(写真の銀色の扉)を開けた1階と地下フロア、その左隣の部屋の1階と地下フロアなどから構成される(写真撮影/片山 貴博)
「赤羽パールマンションの未活用だった倉庫を工房として活用し、現在、私を含めて3組のクリエイターが活動しています。活動内容は多岐に渡り、1組目が、私ことGakki(がっき、芸名)がディレクターを務める『キンミライガッキ現代支部』という団体です。新しい楽器を製作し、音楽・アート・産業といった分野で活用しています。2組目がインテリア家具の製作やDJ活動を行う建築家・デザイナーの曾原翔太郎(そはら・しょうたろう)さん。3組目の2024年に入居した4人組のダンスカンパニー『Reconu(りこにゅー)』はコンテンポラリーダンスを行っています」と、「キンミライガッキ現代支部」というアート団体の代表として創作活動を行いつつ、赤羽異地番街の管理やイベント企画などを行うアートディレクターのGakkiさんは説明する。

左から小磯捺未さん、中川鈴音さん、曾原翔太郎さん、Gakkiさん(写真撮影/片山 貴博)
入居者が日常生活を送る賃貸マンションの一角にアーティストの創作拠点があるのは珍しく、その異彩な雰囲気は写真の端々から見て取れるだろう。「アーティスト・イン・レジデンスといった有名なアーティストをアトリエ付きのレジデンスに招聘(しょうへい)して創作活動を行ってもらうことで地域を活性化する試みは比較的行われているものの、赤羽異地番街のように住人が暮らすマンションの一角に創作拠点を設ける取り組みは全国的に稀有だと思います」(Gakkiさん)
アーティストの創作活動支援と築古賃貸マンションの活性化を目指す
赤羽異地番街の目指す目的は2つある。1つがアーティストの創作活動支援。そして、もう1つが築古賃貸マンションの活性化である。赤羽パールマンションの管理を請け負い、このプロジェクトをプロデュースしたハウスメイトマネジメントの伊部尚子(いべ・なおこ)さんは振り返る。
「約3年前、赤羽パールマンションのオーナーから『築年数が古くなり空室が増えて困っているが、リフォームに費用をあまりかけられない』という相談を受けて本プロジェクトが始まりました。現地調査したところ、未活用の倉庫があったため、そこを利用できることを特典としてアーティストの入居を募集開始することにしました。実際の募集に当たっては、コンセプト賃貸を紹介するウェブマガジン『ワクワク賃貸』に協力を依頼しました。
過去に別の物件でアーティストの入居を募集したことがありましたが、そのときは活動中に音が出ることが問題となり、入居をお断りしたアーティストが複数いました。しかし、今回は敷地内に工場もあり、日中はある程度の音が出ても問題ないため、そこを強く訴求して募集したところ入居者が集まりました」
2023年に入居したのが、アーティスト・ディレクターのGakkiさんと建築家・デザイナーの曾原翔太郎さんだ。「学生時代は大学に工房があったので創作活動に没頭できましたが、卒業後は拠点がなくもどかしい日々が続きました。私が行う家具デザインは多くの材料や製作器具が必要で、作業中は音も出ます。なので、この募集を知った時はすぐに応募しました」(曾原さん)

銀色の扉を開けたら広がる工房。写真はGakkiさんが創作楽器の製作を行っている様子(写真撮影/片山貴博)

工房の地下には音出しスペースやDJブースがある。Gakkiさんが製作する自動楽器の音出しに使ったり、イベントを開催して曾原さんがDJを務めたりすることも(写真撮影/片山貴博)

DJブースに貼ってあるステッカー。機材に酒をこぼすと故障して活動に支障が出るため聴衆に喚起するのが目的。このコピーは赤羽にあるクラブハウスが発祥で、界隈で有名になりステッカーがネットで販売されている(写真撮影/片山貴博)

老朽化が進んだ和式の便所を家具デザイナーでもある曾原さんが大胆にリノベーション(写真撮影/片山貴博)
リノベーションをDIYで行いダンスフロアに改装。1月に初公演を開催
2024年3月に入居したダンスカンパニー「Reconu」の小磯捺未(こいそ・なつみ)さんは活動拠点があることの喜びを話す。
「拠点なく創作活動を続けるのは大変です。練習や公演をするにも公共施設などを借りる必要があり、移動する手間や施設利用料もばかになりません。練習時間も制限されます。また、私たちが取り組むダンスは音が出るため一般住宅を借りて行うのも非現実的です。今回、改装や音出しができる場所を借りられたことは願ったり叶ったりでした」
入居後、ダンスに欠かせないという耐久性の高いリノリウム床材を敷いたり、スポットライトを設置したりするなどのリノベーションをDIYで行った。その後、そこを拠点として作品作りや稽古に取り組み、2025年1月にはこの場でダンス公演を初開催した。
「観客自身が地下のダンスフロアまで降りるというギミックと、閉鎖的な雰囲気も相俟って観客の想像力がより掻き立てられたのか、作品鑑賞の没入度も高く好評のうちに終了しました。今後もこの拠点を生かした表現を追求した公演を定期的に開催する予定です」と、同じ活動メンバーの中川鈴音(なかがわ・りおん)さんは話す。

ダンスカンパニー「Reconu」の小磯さん(写真左)と中川さん(写真右)。入居前は「赤羽の街で私たちの活動が受け入れられるか不安もあったが、それも杞憂で今は楽しい」と語る(写真撮影/片山貴博)

地下のダンスフロアに至る入り口。閉鎖的な空間によって想像力が搔き立てられる(写真撮影/片山貴博)

地下に広がるダンスフロア。ここでダンスの稽古や公演を行う(写真撮影/片山貴博)

Gakkiさんの力を借りてDIYでリノベーションを行った(写真撮影/片山貴博)

2025年1月開催のダンス公演「アーグルトンの家」の舞台写真。非日常的な空間ならではの表現を研究した約60分の作品を上演(写真/赤羽異地番街より提供)

2024年8月に赤羽異地番街の全テナントを使って芸術祭を開催(写真/赤羽異地番街より提供)
オーナー、管理会社、アーティストが連携してこその成果
赤羽異地番街の魅力は、活動内容が異なるアーティストが共存する雑多性にある。多彩な才能が交じり合うことで、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなる。
「新しい入居者を募集する際、私たちとは異なるダンサーやミュージシャンなどのアーティストに入居してもらいたかった。実際、先日のダンス公演を見ると、これまでにない人の往来や交流が生まれて赤羽異地番街の魅力や存在感はさらに高まったと思います」(Gakkiさん)
赤羽異地番街のプロジェクトが始まって約2年間が経過し、3年目に突入した。プロジェクトを担当する伊部さんに手応えを聞いた。
「3組6名のアーティストが入居して未活用の4部屋が埋まったので賃貸募集という観点での成果も上々です。Gakkiさんと曾原さんがイベントを積極的に開催してくれたおかげもあり、地域住民との交流も深まっています。さらにオーナーとアーティストの信頼関係も高まり、現在は物件清掃をアーティストに委託することに。清掃報告はコミュニティアプリで行うため、異変があると即教えてもらえるので助かっています」
プロジェクトの開始当初は未活用のスペースを若手アーティストに貸し出すことが目的であり、ここまでの成果は予想していなかったかもしれない。ただ、実際にイベントなどを行ってマンションや地域の住民などと交流が生まれるなどオーナーも想像以上の手応えを感じているはずだ。オーナー、管理会社、アーティストが連携してこそ得られた成果なので、単に「型」を真似るだけで成果が出るほど甘くないが、新規の入居者獲得に苦しむ築古賃貸マンションを活性化するためのモデルとして注目に値するだろう。

賃貸マンションと工場(写真左)の間にあるスペース。赤羽異地番地のイベントで使われることも(写真撮影/片山貴博)
「赤羽と言えばアートの街」と言われるようにしたい
今後の抱負を、オーナーや管理会社から任されてGakkiさんと共同で赤羽異地番街の入居管理やイベントを企画するディレクターの曾原さんは語る。
「赤羽という街は飲み屋街のイメージが強く、芸術文化のイメージが希薄です。ただ、実際は舞台や音楽関係の住民なども多く、潜在的なポテンシャルは高いと思います。私の夢はアートを通じた街づくりです。創作活動やイベントに加えて、同じ敷地内にもう1つある『リバーサイド赤羽マンション』の部屋を改装してギャラリースペースとして貸し出す取り組みも始めました。赤羽異地番街の取り組みを通じて、将来的に『赤羽と言えばアートの街』と言ってもらえるよう頑張りたいです」

曾原さんが同じ敷地内にある「リバーサイド赤羽マンション」の部屋を改装して作った「Gallery IOI」。アート作品を展示するギャラリースペースとして提供している(写真撮影/片山貴博)
未活用の倉庫を若手アーティストの創作活動拠点として提供することで、築古賃貸マンションの活性化に取り組む「赤羽異地番街」。オーナーと管理会社の活性化したいという想いに、若いアーティストの情熱や才能が掛け合わさることで新たな息吹を吹き込み、再生の一歩を歩み始めようとしている。住人や周辺地域も巻き込み、より大きな力になれば、赤羽をアートの街に変える可能性も秘めている。
●取材協力
・赤羽異地番街
・株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子(いべ・なおこ)さん

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