【オフィシャルレポ】吉川晃司、デビュー40周年ツアーファイナルで魅せた磨き上げられた輝き
以下、オフィシャルライヴレポート
「40周年ツアー、すべて満員御礼です。ソールドアウトありがとうございます。雪で来られなかった方もいるようですが、その方々にも届くように思いを込めて、120パーセントで歌います」との言葉に、盛大な拍手が起こった。吉川晃司の『KIKKAWA KOJI 40th Anniversary Live 』のファイナル公演、2月8日、9日の武道館2DAYは大盛況の中で開催された。”楽しんでほしい”という吉川の思いと”40周年を一緒に祝いたい”という観客の思いが混ざり合い、武道館の中は熱くて温かな空間が出現した。今回のツアーは2024年10月 5日の相模女子大学グリーンホールからスタートし、武道館まで26公演が行われる予定になっていた。1月18、19日の福岡と熊本公演が吉川の感染性胃腸炎により、5月1、2日に延期となったため、ステージは2本残っている。だが、この2日間が大きな節目のステージであることに変わりはない。
オープニングSEが流れ、ステージの上に設置された巨大なKマーク型のLEDスクリーンに、デビューからこれまでの40年間に発表されたアルバムとシングルのジャケット画像が次々に映し出されると、大きなどよめきが起こった。さらにバンドのメンバーの写真が映し出されていく。生形真一(Gt)、藤井謙二(Gt)、ウエノコウジ(Ba)、湊雅史(Dr)、ホッピー神山(Key)という百戦錬磨の強者5人が結集した。ソロシンガーでありながらバンドサウンドにこだわり続けてきた吉川だからこそのオープニング映像だ。
ファイナル公演の始まりの合図は雄叫びだった。吉川がシャウトして始まったのは「TARZAN」だ。気迫あふれる歌声によって、会場内の空気が一気に引き締まっていく。グリーンの照明が降りそそぎ、観客のリストバンドもグリーンの光を放っている。武道館が密林と化し、ステージの中央にでは不屈の男が仁王立ちして歌っている。この曲の歌詞にある<そんなもんじゃないぜ>というフレーズを何十年にもわたって、自らに突きつけ続けてきた男が歌う「TARZAN」だからこそ、強い説得力を持って響いてくる。ツアーの本数を重ねる中でブラッシュアップし続けてきたバンドの演奏もタイトでソリッドだ。
硬質なギターのカッティングで始まったのは「SPEED」。ロマンティックかつダイナミックな歌と演奏に客席が揺れている。吉川の伸びやかな歌声に応えるように熱烈なシンガロングが起こった。曲のエンディングで、狙い澄ましたような鮮やかなシンバルキックが炸裂すると、悲鳴のような歓声があがった。観客の胸も同時に撃ち抜くキック。音楽表現と体現とが一体となった、痛快かつ爽快なステージは唯一無二だ。
40周年ツアーなので、代表曲や人気曲、懐かしい曲も並んでいる。1985年発表の「You Gotta Chance〜ダンスで夏を抱きしめて〜」は初期のみずみずしさに加えて、現在の剛健さが加わり、ロックテイストの色濃い2025年の「You Gotta Chance〜ダンスで夏を抱きしめて〜」として響いてきた。
Kマーク型LEDスクリーンから光の洪水のような映像が映し出される中での「El Dorado」では、強靱な歌声と演奏で観客全員をエル・ドラド(黄金郷)へと誘っていくかのようだった。吉川が40年かけて鍛え上げてきたものの1つが歌声である。バランス良く鍛えた筋肉がそうであるように、吉川の喉は瞬発力と持久力と柔軟性と機動力を備えていて、余分な要素が削ぎ落とされている。吉川の歌声には人々を鼓舞する力が備わっているのだ。
吉川が黒のレスポールを手にして、藤井、生方とのトリプルギターでの「Honey Dripper」では、キレ味抜群のバンドサウンドが圧巻だった。すさまじいグルーヴに身も心も激しく揺さぶられた。ホッピー神山の自在なピアノの演奏で歌われたのは「ロミオの嘆き」だ。憂いを帯びた深みのある歌声が染みてくる。シンガーとしての吉川の表現力の豊かさに酔いしれた。LEDスクリーンから、まるでナイトクラブのゴージャスなライトを再現したようなキラキラ感あふれる映像の中での「ギムレットには早すぎる」は、スイングジャズやロカビリーのテイストを採り入れた歌と演奏が新鮮に響いた。軽快なステップを踏みながら歌う吉川からは、大人の色気がにじみでていた。
「プリティ・デイト」はツアーが進む中でどんどん進化してきた曲だ。広島公演以降は、<Oh Pretty Date>という歌詞に沿って、”OPA”という人文字のフリが付くようになった。吉川の手の動きに合わせて踊ると、クセになりそうだ。ともに踊る楽しさも吉川のコンサートの醍醐味の1つ。思う存分に体を動かしたあとは、喉を使う曲が続く展開となった。「恋をとめないで」で吉川が歌詞の一部を替えて、初日は<武道館の夜だぜ>、2日目は<ファイナルの夜だぜ>と歌うと、待っていましたとばかりの喜びの声があちこちからあがった。吉川の歌声と1万人のシンガロングが混ざり合う光景はとても麗しくてかけがえのないものだ。だが、感極まった次の瞬間には、熱狂と興奮が訪れる。吉川もギターを手にして、トリプルギター編成で怒濤のバンドサウンドが展開されたからだ。「GOOD SAVAGE」ではウエノ、生方、吉川、藤井が横一列になって演奏するシーンが見どころだが、武道館では4人が同時にしゃがんで演奏するシーンもあった。パフォーマンスも日々進化しているようだ。
本編最後の「Juicy Jungle」では印象的なイントロが流れると、大きなハンドクラップが起こった。銀テープが発射されると、会場内に祝祭のような高揚感が漂っていく。もちろん観客全員、踊る気も歌う気も満々だ。LEDスクリーンにはカラフルな紙吹雪などの映像が映し出されている。吉川の手の動きに合わせて、観客が手を振っている。リストバンドと銀テープがきらめいて、館内がキラキラと輝いている。吉川が「サンキュー! 愛してるぜ、武道館!」と叫び、シンバルキックを決めると、割れんばかりの歓声が起こった。吉川の名前を呼ぶ声は男性、女性、子どもなどさまざまだ。カラフルな歓声からは観客層が幅広くなっていることがわかる。アンコールを求める客席では、ウエイブも起こった。
「武道館、39回目です。40年やって39回ですが、めざせ100回です」との吉川の発言に大きな拍手が起こった。さらにこんな言葉。「40年経ってやっとわかったのは、笑顔で元気で再会することが一番だということ。もはや音楽のエゴはありません。みなさんが盛り上がってくれてこそ、です」。この日のステージからも、吉川がエンターテインメントの役割を意識して、ステージに立っていることが伝わってくる。「音楽のエゴはない」とのことだが、吉川が常に探究心と向上心を持ち続けているのは間違いないだろう。楽しませることとさらなる高みを目指すことを両立していくのが吉川の流儀だからだ。
アンコールでは、1stアルバム『パラシュートが落ちた夏』1曲目の「フライデー ナイト レビュー」も演奏された。スクリーンからは初期の吉川のライブ映像も流された。10代の吉川も光り輝いていたが、60代目前の吉川はより確かな光を放っていた。原石の輝きではなく、磨き上げた輝きだからだ。
「今年はおもしろいことをやるので、楽しみにしていてください。曲も徐々にできあがりつつあります。還暦なので還暦にしかできないことをやろうと思っています」とのこと。この日のステージからも数々の発言からも、吉川が先を見据えていることがわかる。こんなにも未来が楽しみになる周年ツアーのファイナル公演は珍しいのではないだろうか。吉川がMCで、公演翌日や翌々日に筋肉痛になる人もいるはずと語っていた。腕を動かしまくって、肩甲骨の可動域が広がった人もいるかもしれない。ファイナル公演の武道館は、観客にとって、コンサートを楽しむ場であると同時に、トレーニングの場にもなっていたようだ。トレーニングとは明日に備えるもの、筋肉痛は成長へのパスポートである。全員がムキムキになって再会するのもおもしろそうだ。吉川本人だけでなく、参加した全員が次の機会に笑顔で再会するために、元気や英気を養う夜となった。
なお、「40th Anniversary Live Tour Final」の模様は、2025年5月にWOWOWで独占放送&配信されることが決定している。詳細はWOWOW公式サイトをご確認いただきたい。
文:長谷川誠
撮影:平野タカシ
番組情報
WOWOW『吉川晃司 40th Anniversary Live Tour Final』
2025年5月 独占放送&配信
https://www.wowow.co.jp/music/kikkawa/
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