映画『復讐のワサビ』ヘマント・シン監督&小池樹里杏インタビュー 「自分の心に平安をもたらそうと思ったら、まずは許すことから」

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インドのリアリティ番組出演をきっかけに俳優の道へ進み、その後独学で映画制作を習得したヘマント・シンの長編監督デビュー作、映画『復讐のワサビ』が全国順次公開中です。

いじめというシリアスなテーマを扱いつつも、サスペンス、コメディ、ドラマなど、さまざまな要素が凝縮されたエンターテインメント作品に。

本作に込めた想いをシン監督、そして本作の主演であり、カノ/ワサビ役の小池樹里杏さんに聞きました。

■公式サイト:https://hemafilms.com/wasabi/ [リンク]

●本作を撮ることでいじめをなくしたいと思われたそうですが、どういう経緯、想いで映画化を進められたのでしょうか?

シン監督:この脚本を書いている時、ニュージーランドの少年のいじめに関する動画を目にして、それが心に引っかかって夜も眠れないくらい気になってしまったんです。なので、それをきっかけにいじめをテーマにした映画を作ることにしました。

劇中ではカノという少女が顔の傷のせいでいじめを受け、それが原因で社会にも爪弾きにされ、家庭環境下でも暴力を受け、母親の死という悲劇に見舞われてしまう。彼女が復讐の権化のように変わってしまう姿を描いているのですが、だからといって復讐という形で社会に憎しみの心を返すことがはたしていいのか、ということを描きたいと思いました。

小池:本作のためにプロデューサーとヘマント監督とゼロから一緒に作ってきました。(日本での)コネクションも友人も少ない中で日本で映画を作りたいという彼の願いを叶えるため、今日まで準備をしてきましたし、この役を演じることを背負ってきました。この映画を作ったこと、カノを演じられたことを誇りに思っています。

●カノ/ワサビ役を演じてみていかがでしたか?

小池:カノとワサビはこの作品の象徴でもあるように、いじめを受けてしまい、世の中や社会に対して復讐するという感情が勝っているんです。結果的に間違えてしまうので彼女の幸せを願っていた客観的な目があったのですが、自分が演じる上で客観的になってはいけないので、少しでも“今ちょっと辛い”と思わないように役作りをしなければならないのが大変でした。撮影が終わってからもなかなか役が抜けなくて大変でした。

シン監督:英語のことわざで、“傷ついた人が人を傷つける”とか、“2つの悪いことをしてもいいことには繋がらない”という言い方がありますが、ヘイトをヘイトで返しても何も生まれないということを伝えたかったんです。マハトマ・ガンディーの「“目には目を”では世界が盲目になるだけだ」という言葉があるように、最終的には許すという心が大事だということを伝えたくて、このテーマで作りました。

この映画にはヒーローが出てきませんし、主人公は正義のヒーローではありません。実際の世界は、そういうものじゃないですか。そういうことも伝えたかったのです。

●本作を撮ったことで自分へのフィードバックと言いますか、自分自身が改めて気づいたことはありますか?

シン監督:確かに映画のテーマを選ぶ際、自分がとても気になっていること、自分の声(心?)に引っかかるものということでいじめというテーマにしたのですが、映画を作ってみてから自分でもハッとすることはありました。

そもそもいじめは誰しも実は人生でいろいろな形(立場)で経験するものだと思うのですが、自分ではいじめとは思ってない、たとえばちょっとした言葉の使い方、悪口が、人の人生を変えてしまうかもしれないという気づきはありました。そういう気づきを得て、自分ももっと気をつけようという気持ちにはなりました。

●小池さんも先の記者会見では、個人的に共感できるテーマでもあると言われていましたが、こうして完成した作品を観てご自身の中で何か思うことはありましたか?

小池:わたしはこのプロジェクトの立ち上げからお手伝いをさせていただいたということがあり、もちろん主演を担うという責任も背負っていたのですが、それだけではなくて、この映画を成功させるために何が必要なのか、どんなことができるのかというところでずっと戦ってきました。そういう意味では、少し参加する形が特殊でした。

彼(監督)は日本のことも何もわからない上で映画を作りたいという夢だけを持ってきてという状態だったのですが、こうして映画を日本で撮れてすごく細かいことまでいろいろとお手伝いをしました。ロケ地の交渉をキャスティングも含めてやってきたので、 実は映画をまだ客観的に観られてはいないのですが、初めて家族ではない仲間ができた気がしています。

●今日はありがとうございました。最後に映画をご覧になる方たちへメッセージをお願いいたします。

小池:この映画はぜひ映画が好きな人、日本映画が好きな人に観てほしいと思います。というのも海外の人が日本に来て、日本で作品を撮った視点は、なかなかないと思いますし、この作品で描かれていることは、決して他人事ではありません。今、現代社会の中で生きている若者の人たちにも共感できるものが絶対にあると思っているのでぜひ観てほしいです。

また、人を見た目で判断していないか、人が悪いことを言ったらすぐ炎上するような、SNSも含めてそういう時代だからこそ、少し待って、一歩踏み留まり、本当に大丈夫か自分の言動に責任を持てるような強い心を持つ。余白を与えられるような作品だと思っているので、復讐という意味が一体何なのか、どこから来るのかということも考えてほしいです。

シン監督:実際の世の中にはヒーローはいないので、自分の心に平安をもたらそうと思ったら、まずは許すことから始めてください。 それはとても難しいですし、自分もやってみたけれど、なかなかできることじゃないんです。それがこの映画のメッセージなので、ぜひそれを感じてください。

■ストーリー

顔の傷が原因で、子供時代から執拗ないじめの被害者であったカノ。
トラウマと言い知れない不平等に苦しむ彼女は、深く傷ついた感情を常に引きずっていた。

運命が織り成す様々なシナリオの中で、次々と展開する出来事に導かれ、カノは自身の秘められた可能性を見出す。

そして、貧しさにあえぐ村の生活から抜け出し、より明るい未来を目指す決意をする。

しかしながら、母親が壊滅的な出来事に巻き込まれたことで、カノは過酷な道を行くことを強いられる。

その結果、彼女の人生の軌道は永遠に変わってしまうことになる。

(C) 2024 Hema Films.

(執筆者: ときたたかし)

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