住民主体で渋谷を変える! アプリで参加「shibuya good pass」

渋谷のまちづくりに“参加できる”? 「shibuya good pass」はじまる

100年に一度と言われる大規模な再開発が進む「渋谷」。筆者はそんな街に暮らして20数年が過ぎた。新しいビルが次々に建ち、駅へのアプローチが変わり、その変化についていけない気持ちになることがある。街のイメージと住民の間に大きなギャップが生まれそうだった。
そこに博報堂と三井物産が共同で進める、生活者を中心としたまちづくり構想「生活者ドリブン・スマートシティ」が進んでいると聞いた。すでにスタートしている、渋谷エリア向けに開発したデジタルサービス「shibuya good pass」について博報堂ミライの事業室の大家雅広さんと三井物産エネルギーソリューション本部New Downstream事業部の寺西五大さんに話を聞いた。

デジタル活用で生活者の声を集め、まちづくりに活かす「生活者ドリブン・スマートシティ」

筆者は東京都内でいろいろな区に住んでみたが、渋谷が一番長くなってしまった。渋谷に住んでいると言うと「あんなにぎやかなところに住めるの?」と言われることもある。おまけに渋谷駅前は再開発中だ。住む街としてのイメージはつきにくいかもしれない。

ところが都心のまん中なのに、意外に住み心地がいい。町内会の活動もしっかりしている。ただ大きなビルがどんどん建って、毎週のように駅までの道のりが変わるので、少し取り残されそうな不安があった。

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

そんななか、生活者を中心としたまちづくり構想「生活者ドリブン・スマートシティ」を実現するために、博報堂が渋谷エリア向けに開発したデジタルサービス「shibuya good pass」がスタートしたらしい。これは博報堂と三井物産が共同で進めるまちづくり構想で、テクノロジーが主役ではなく生活者が主役のスマートシティだそうだ。

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

「渋谷エリアにおける暮らしをより良くしていくために、デジタルアプリサービスを通じて、生活者の声や応援を集めます。その声を、さまざまな都市サービスに反映させていくとともに、みんなの声を可視化することで、生活者共創によるまちづくりのモデルをつくっていきます。モビリティ、エネルギー、ワークプレイス、都市農園、スポーツなど、さまざまな都市サービスとの連携も予定しています。生活者が主体的に関わる創造的なまちづくりを通じて、次世代の持続可能なスマートシティモデルの実現を目指したいと思っています」(大家さん)

渋谷でできるgoodな体験のための「shibuya good pass」

「今回、私たちが開発したshibuya good passは、行政、企業、生活者が力を合わせてよりよい渋谷の街をつくっていくことを実現するサービスです。『みんなでつくる、goodな渋谷』がキーメッセージ。スマートフォンで利用できるデジタルサービスとして、2021年夏よりベータ版の提供を始め、すでにいくつかのプロジェクトがスタートしています」(大家さん)

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

登録は無料で、会員になると渋谷で展開される活動やプロジェクトに参加したり応援したりできるほか、渋谷エリアでのさまざまな提携サービスを利用することができる。カフェのメニューを試したり、クーポンを利用できたり、「ありのママカフェ」というママたちの座談会や料理講座やピラティス教室などイベントに参加したりといったサービスが受けられる。

なかでも昨年実施された“388 FARM β”(ササハタハツファームベータ)は代表的なイベントだ。「ササハタハツ」とは、京王線笹塚駅・幡ヶ谷駅・初台駅のそれぞれ頭文字を採ったエリアのこと。エリア内にある、玉川上水旧水路緑道は、渋谷区の事業として再整備計画が進められている。再整備コンセプトは「FARM」。地域の人々で食と暮らしを楽しみ、こどもから大人、年齢や障がいの有無に関係なく、誰もが参加できる場所に生まれ変わろうとしている。その再整備コンセプトを体現する実験イベントが“388 FARM β”(ササハタハツファームベータ)だ。

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

農・食・コミュニティに関する社会課題や地域課題を解決するために、生産者直売マルシェ・体験イベント・ワークショップなどが企画された。注目すべきは「みんなの声”でつくるGOODなideaギャラリー」というテーマで、緑道沿いに渋谷の街に対する“みんなの声”が書かれたポスターを設置したこと。さらに当日来場した方たちの声として、これから再整備が進む緑道やこの町でやってみたいことを集めた。設置されたポスターのビジュアルはshibuya good passのInstagramにも連動していて、いいね!の数に応じて、近くのデジタルサイネージにも“みんなの声”が可視化された。

こういったカタチで、一般の人々の意見が行政やプロジェクトで届くのはわかりやすいし、オープンな意見交換の場にもなる。すでに「仮設FARM」を設置して一定期間利用してくれる人の募集も始まっている。今後どのように活用していくか、また住民自身がどのようにかかわっていくか、注目していきたいと思う。

「花やハーブを育てる菜園で、コミュニティを広げたい!」と「ササハタハツの原風景をみんなで考えたい」が同率1位だった(画像提供/shibuya good pass)

「花やハーブを育てる菜園で、コミュニティを広げたい!」と「ササハタハツの原風景をみんなで考えたい」が同率1位だった(画像提供/shibuya good pass)

新しい地域交通「shibuya good mobi」など、エネルギーやインフラからも考える

またイベント参加だけではなく、地域のエネルギーやインフラについても、一般の人が意見を出し、どのシステムを利用するか選択できるシステムを生み出している。

「三井物産のエネルギーソリューション本部は2020年4月に発足。グローバルな社会課題である気候変動問題の産業的解決をビジネス成長の機会と捉え、さまざまな事業領域において蓄積した知見、事業基盤、ならびに顧客・パートナー基盤を結集しました。三井物産ならではの複合的かつ機動的な取り組みで次世代領域における新事業創出にチャレンジしています」(寺西さん)

「good energy」は地球環境にやさしい再生可能エネルギーを地域で共同購入し、まちづくりに還元するサービスだ。電力の共同購入希望者が一定数集まったところで、新電力をはじめとする電力会社が参加のもと、一番安い電力供給者を決めるリバースオークションを行う。共同購買によって、電気代を安くするとともに、コストダウンが図れた部分の一部で地域の活動を援助することが出来る、
例えば、「シブヤ大学」(誰もが参加できる学び場づくり)、「TEN-SHIP アソシエーション」(高齢者の方々の困りごと支援)、「stride」(障害を抱える方々の就労支援)、「渋谷の遊びを考える会」(子どもたちの遊び場づくりを通じた子育て支援)などのNPO法人や一般社団法人、コミュニティ運営のために寄付されるといったことだ。地域コミュニティ単位での電力共同購入をサポートするリバースオークションのシステムも導入しており、多くの人が利用するほど安く利用できる可能性も高まる。

ささはたまちのお手伝いマネージャー「TEN-SHIPアソシエーション」(画像提供/TEN-SHIPアソシエーション)

ささはたまちのお手伝いマネージャー「TEN-SHIPアソシエーション」(画像提供/TEN-SHIPアソシエーション)

「shibuya good mobi」は、WILLERと連携した月額定額乗り放題で半径約2kmのエリア内を回遊できるモビリティサービスで、すでにサービスを開始している。
渋谷は比較的交通の利便性が高い街だが、エリア内を自由に回遊できるような移動サービスがなく、同サービスを利用することで行動範囲が広がったり、お子さんの送迎が快適になったり、自分時間が増えるなどライフスタイルが変わり、より生活が豊かになる。アプリで車両を呼び出すと、好きな時間に好きな目的地まで移動でき、月額定額料金のためおサイフを気にすることなく何度でも利用できる。同時にどのような人がどのようなニーズで移動しているかを継続的に把握できるため、そのニーズを汲み取って走行ルートやサービスが最適化していくこともできる。交通事業者から一方的に提供されるのではなく、地域に暮らす人々の共創によってブラッシュアップされていくモビリティサービスだ。

(画像提供/shibuya good pass)

(画像提供/shibuya good pass)

どちらのサービスも提供されるだけでなく、自分が参加・利用することで地域に貢献できたり、自分の暮らしをより快適に変えていくことができる点が注目だ。

「shibuya good pass」がこれから目指すもの

現在の会員は女性が多く、特に30代40代が中心だそうだ。渋谷区はもともと住民の女性の割合が多い。2021年のデータで、男性が約11万716人、女性が11万9790人と、女性が9000人多い。それだけ女性に暮らしやすい環境が整っているかも知れない。現に私自身も都内での暮らしは渋谷が一番長くなった。今後、それがどのように発展していくかも見守りたい。

このほか、渋谷に住む人や通う人、働く人、事業者や行政など渋谷に関わるすべての人々が、好きなオフィスを、好きな時に、選んで使えるワークプレイスサービス「shibuya good place」など、約 10 カテゴリーの連携サービスの実証実験を開始。また市民参加型の活動として、市民の声をまちづくりや政策に反映させるためのオープンプラットフォーム「decidim」を活用した「shibuya good talk」の実証実験と、地域の企業活動・市民活動を応援するクラウドファンディングの取り組み「shibuya good idea fund」も開始している。

博報堂と三井物産は、こうしたアイデアをまず渋谷で実装し、その後は国内の複数の都市に展開する計画だそうだ。どんな都市でも、働く人、住む人、遊びに訪れる人や企業、行政がうまく連携を取れるようになるのはテーマの1つだろう。どんなに大規模な開発が進もうとも、そこには人間同士のコミュニケーションは必要だ。官民一体となった双方向のつながりが生まれることに期待したい。

●取材協力
shibuya good pass

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