『真・女神転生V』レビュー:我々の判断が試される……! 2021年の今プレイするべきRPG

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神の敗北!? 天使たちが追いやられる世界

本作の世界「東京ダアト」についてマップ面から触れたが、本作の東京は、これまでのシリーズの東京とは異なる。そもそも「女神転生」シリーズの舞台は基本的に毎回異なっている。繋がりが明示されているのはファミコン版『女神転生』と『女神転生II』、スーパーファミコン版『真・女神転生』と『真・女神転生II』。そしてニンテンドー3DS版『真・女神転生IV』と『真・女神転生IV FINAL』くらいだろう。

「東京ダアト」の見た目は、砂漠化し、荒廃した東京。そのビジュアルは、『真・女神転生』のミサイルによって崩壊した東京や、『真・女神転生III』の「東京受胎」に近い。ただそれらと違うのは、この世界が悪魔によってもたらされ、天使たちが集落を形成しているという点にある。これは物語序盤において明示されることだが、本作の「東京ダアト」は、神が悪魔に敗北したことでもたらされたのなのだという。

既に神は敗北している。そんな中、天使たちは人間を守りつつ、集落を形成しているようだ。おそらく「ダアト」とは、「Dirt」=不浄を意味しているのではないかと筆者は思う。天使たちにとって、不浄の東京……ということかな、と。

これから本作をプレイする人のために極力ネタバレを避けるが、今回のこの「東京ダアト」の設定は、筆者にとって物凄く新鮮だった。正直、プレイする前は、『真・女神転生III』と似てるな……なんて思ってたのだが、プレイした今は全然違う感触を味わっている。それは、人間たちと天使たちとの関係の差からもたらされているように思う。

これは個人的な趣味だが、正直、筆者はこれまでの天使(唯一神)陣営が好きではない。なぜかと言えば、高圧的に感じるからだ。社会に秩序が必要というのは分かるし、そのためにはルールを守らなきゃいけないというのも分かる。だが、人間には欲望もあるし、個人の自由だってあるだろ?……と思ってしまう。

なので、これまでの作品ではどちらかというと、悪魔の陣営に感情移入してきた。そもそも、悪魔だなんだという表現だって、唯一神サイドが別の宗教の神を自分の理屈で貶めているだけだしね。

しかし本作では、天使(唯一神)陣営に一定の理解を示せると感じてしまった。とはいえ、本作において天使(唯一神)陣営の態度や方針が変わったわけではない。過去作同様、態度は高圧的だし、神の理念に従わない人間を敵扱いするのも相変わらず。じゃあ何がこれまでと変わったのかと言えば、「社会の見せ方」だろう。

これまた個人的な価値観だが、筆者にとっては、これまでの天使(唯一神)陣営の作る「社会」はろくなもんじゃなかった。天使(唯一神)陣営が作った「社会」が実際に描かれるのは『真・女神転生II』と『真・女神転生IV』。それがどんなものだったかといえば、『真・女神転生II』ではハイテクによって何から何まで管理される、SF的ディストピア。『真・女神転生IV』では、中世ヨーロッパ的社会だった。

つまり、天使(唯一神)陣営が作ったのは、彼らにとって人間を管理しやすい一方通行の「社会」ということ。

本作で描かれているのは、現代の日本と変わらない、人それぞれ多少の不満はあったとしても、それなりに暮らしていける社会だ。何から何まで自由というわけじゃないが、個人の自由はちゃんとある。この設定が、ストーリー面で本作の魅力を深めている。

先に書いた通り、社会に秩序が必要で、そのためにはルールを守らなきゃいけない。それはそうだろう。社会なんていう大きな規模を考えるまでもなく、複数の人間がグループになって行動する時点で、なんらかの秩序が必要になってくる。全員が全員、あらゆることにおいて勝手気ままに行動していいというのであれば、その時点でグループという形は崩壊する。なので、グループを作り、グループ単位で衣食住を作り、共有しようなんてことは、ルールなしには実現不可能だ。そんなことは筆者に限らず、たいていの人が考えていることだろう。

一方で、全員が納得するルールを作るというのは恐らく不可能だ。たとえば、テストの採点ルールを作るとしよう。とりあええず、100点満点で90点以上は合格というルールを設定したとする。一見、このルールに問題があるようには思えないはず。そこそこ納得のいく採点ルールに思えるのではないだろうか。けど、何故合格ラインは90点なのだろうか。確かに、50点なら、合格ラインから程遠いので失格もやむを得ないのかもしれない。

だが、89点ならどうだろうか? 1点差という事は、概ね合格ラインといえる。間違えたのは、ケアレスミスか何かだろう。実力的には90点を出した人間と、さほど変わらない。もし、テストにおいて一定ラインの実力を持つ人間を採用したいのであれば、89点であったとしても十分と言えるのではないだろうか。だが、点数で合格/不合格を決める場合、どこかにラインを引かねばならない。「大体90点くらいなら合格」というあいまいなルールでは、誰も合格/不合格を判断できないからだ。

一方で、90点という合格ラインの根拠そのものについて深く追求しだすと、明確な根拠を見つけるのは難しい。全員に納得してもらうのが困難というのはこうした点だ。どうしたって不満は生まれてしまう。また、ここまで厳密な話じゃなくとも、ルールを決めている人間が高圧的だったり、ルール自体に多少の不備があったり……と、様々な点が不満の元となる。でも、だからといって、ルールや社会がいらない! とまではならない。

本作が突きつけてくるのも、こうした課題だ。「東京ダアト」という崩壊した状況にあって生きていくためには、人間同士が集まり、グループ、共同体を形成しなければならない。となると、一定の秩序やルールは必要だ。けれども、秩序やルールが生まれれば、そこにはルールの破綻という問題や、統率者が本当に的確なのかといった疑問が生まれる。

そこにNOを突き付け、壊してしまっていいのか? そもそも、NOを突き付けたところで、生きていくために結局別の共同体を形成するなら、そこでも似たような問題が起きるんじゃないのか?……筆者はプレイしていてそんな哲学のような思いを抱えた。これは、宗教的な問いかけを含むと同時に、我々が生きる現代日本にも共通する、社会的な問いかけでもあるといえるだろう。

本作にも、これまでのシリーズ作同様、選択肢から選ぶシーンが用意されている。これまでのシリーズなら、筆者は「高圧的だから天使(唯一神)陣営には反発する」だとか、「悪魔ったって、唯一神が勝手に貶めているだけの存在なんだから、悪魔の味方をする」だとかいったノリで選んでいた。しかし、本作では「社会の見せ方」が変化したため、これまでのシリーズのようなノリでは選べなくなってしまった。選択ひとつひとつが非常に悩ましい……だが、それがおもしろい。

現代に生きる我々の判断が試される……! 2021年の今プレイするべき一作

長くなってきたので最後にまとめると、本作『真・女神転生V』は、これまでのシリーズにおける「判断」要素を深めた一作といえるだろう。プレスターンバトルの判断、マップ探索時の判断、ストーリーにおける選択肢の判断。これらを深めることでに加えて、ゲーム的にはローグライト要素を強化し、ストーリーにおいては宗教的テーマと現代的テーマを見事に融合させた。

今すぐでなくとも楽しめる、ゲームの歴史に残る一作だと思うが、テーマに共感する上では、2021年の今こそプレイすべきだと思う。「メガテニスト」でよかったと思わせてくれる一作だ。

文/田中一広

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