スリングショット猟の意義と法律解釈

スリングショット猟の意義と法律解釈

今回は野尻抱介さんのブログ『野尻blog』からご寄稿いただきました。
※写真には気分を害する可能性がございますのでご注意ください。
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※この記事は2013年01月22日に書かれたものです。

スリングショット猟の意義と法律解釈




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http://www.nicovideo.jp/watch/sm19764352?via=thumb_watch

新年早々、こんな動画を公開した。
現在の日本で、誰でも無免許・無許可で野鳥や野生動物を狩ることが許されている――と言ったら、まさかと思うかもしれない。案の定、動画の冒頭では「違法行為です!」という自信満々なコメントが相次いだ。遵法精神が横溢しているのなら結構なことだが、肝心の法律をよく知りもせずに人を非難する態度を見る限り、「他人が勝手なことをしているのが気にくわない」「合法なら我慢するが違法なら叩くぞ」という単純なメンタリティのような気もする。
動画の進行とともにコメントは変化してゆく。法律解釈が説明されると違法の指摘は鳴りをひそめ、狩りの場面になると「かわいそう」「残酷」という感情論が現れる。そして捕獲された鴨が解体されて肉になると、「おいしそう」が支配的になるのだった。「かわいそう」も「おいしそう」も素直な気持ちであろう。私だってそう感じた。良くも悪くも、感じたことがストレートにコメントされるのがニコニコ動画の面白いところだ。

実世界は複合的で、快楽ばかりを提供するゲームのようにはできていない。野生生物は美しく、気高く、賢い。しかし愚かで、臆病で、不潔で、醜くもある。希少種があれば増えすぎた種もいる。仕留めれば痛快だし、かわいそうだ。食べれば美味しいし、不味いこともある。こうしたことを全部ひっくるめて抱えていくのが人のいとなみである。

スリングショット猟はこれらすべてを体験させてくれる。そしてヒトという生き物自身が、狩猟採集で生存するためによくチューニングされており、現代生活ではその才能の多くを眠らせていることに気付かせてくれる。これは、ちょっと較べるものが思いつかないほど素晴らしい学習機会である。昔の子供にとって日常の一部であったことを思えば、もっと広く行われてもいいのではないだろうか。

頸動脈を射貫かれ、血の筋をひいて漂うヒドリガモ。

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タモ網で回収したところ。

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肛門からバードフックを差し込み、腸を抜き取る。肉の味を落とさないための処置。

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カルガモの調理例。

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ハシボソガラス(左)とキンクロハジロ(右)の頭骨。ガラといっしょに頭部を煮て肉や脳を除き、ポリデントで漂白した。鴨のくちばしの先端に感覚細胞が集まっているのがわかる。もちろん肉もおいしくいただいた。

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スリングショット猟にまつわる法律解釈について、動画の説明では不十分なので、以下に補足しよう。

(1) スリングショットは銃刀法の適用を受けない。たとえ金属弾を使っていても、エネルギーをゴムに蓄える点で銃と異なるからだ。したがって無免許・無許可で使える。それでいいかどうかは議論を要するが、ともかく現状ではそうなっている。

この後の話は鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣法)*1、同施行令*2、同施行規則*3がソースになる。これだけでは不完全で、環境省の告示、通達等、および都道府県の条例、告示等が関わる。私は県庁に問い合わせて県条例を含む適法性を確認した。地域によってはスリングショットが禁止されているかもしれないから要注意である。

*1:「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」 『法令データ提供システム e-Gov』
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO088.html

*2:「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行令」 『法令データ提供システム e-Gov』
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14SE391.html

*3:「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則」 『法令データ提供システム e-Gov』
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14F18001000028.html

(2) スリングショット猟は法定猟法(網、わな、装薬銃、空気銃)に含まれないので、鳥獣法の記述においては狩猟ではない。したがって狩猟免許や狩猟税は不要である(鳥獣法第2条4項)。

(3) スリングショット猟は禁止猟法ではない。(施行規則第10条3項)。よってスリングショット猟は鷹狩りや素手による捕獲と同じ、「法定猟法以外の猟法」(自由猟法)に当たる。

(4) 鳥獣法の定める大原則は「野生鳥獣の捕獲は禁止」である。ただし許可を得れば可能になる場合がある。さらに無許可で狩猟鳥獣に限って捕獲できる場合があり、それは「狩猟」と「法定猟法以外の猟法」であると明記されている(鳥獣法第11条)。
ここがよく誤解されていて、狩猟者でも「無許可で狩猟鳥獣の捕獲ができるのは狩猟のみ」と思い込んでいる人がいる。鳥獣法に「法定猟法以外の猟法」が明記されたのは平成14年なので、周知が不十分なようだ。

(5) 自由猟法だからといって、なんでも自由にできるわけではない。可猟区域において狩猟期間内のみ、狩猟に準ずる規則を守ったうえで許されるのである。狩猟期間は地域や対象によっても異なるが、大半は11月15日~翌2月15日までである。期間外は素手でスズメを獲ることだって禁止だ。

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その他にも細かい規則があるので、「狩猟読本」と「鳥獣保護区等位置図」を精読しなくてはならない。これらは書店では買えないが、地元猟友会に問い合わせると入手方法を教えてくれる。私の場合は県民局森林保全課でもらった。無料である。狩猟読本は大日本猟友会から通販で買えるが、位置図は地域ごとに異なるので、地元で入手しなければならない。
狩猟読本はA4で274ページもある大きな本で、法規、狩猟鳥獣の知識、鳥獣の保護管理、実猟の心構えや手続き、銃器やわなの仕組み、感染症、猟区、鳥獣の解体方法など、狩猟に必要な知識が網羅されていて、読むだけでも非常にためになる。スリングショット猟を始める気があるなら、まずこの本を読むべきだろう。というか、これ以外に同等の知識を得られる本は商業出版されていない。あわせて読むなら岡本健太郎『山賊ダイアリー』や千松信也『ぼくは猟師になった』がおすすめだ。

狩猟の制度を知ると、完全とはいえないにしても、狩猟鳥獣がよくコントロールされていることがわかる。猟期の終わりには捕獲した種と頭数、場所を報告する義務があり、これが来期の捕獲対象種や捕獲制限にフィードバックされる。狩猟とは鳥獣保護と対立する行為ではなく、むしろその一部である。狩猟鳥獣に含まれてしまったほうが、その種は安泰ではないか、とさえ思う。
しかし、自由猟法の場合は報告義務がないので、もし大勢がスリングショット猟をやるようになると、コントロールが効かなくなる懸念がある。法定猟具に較べると圧倒的に効率が悪いのだが、多人数でかかれば無視できない捕獲数になるだろう。

「子供が真似したらどうするんだ」という声もあった。確かに、スリングショットは危険な武器になりうる。私の作ったスリングショットはパチンコ玉に13Jのエネルギーを乗せられる。より強力なバージョンなら20Jに達する。弓矢の1/3程度、18禁トイガンの10~20倍だ。鳩の胴体なら貫通するし、急所に当てれば大型の鴨を一発で殺せる。
ただしこれは大人の私が自分用に最適化したゴムを使った場合であって、子供にはまず引けない。弓矢と同じで威力は使用者の腕力に依存するから、子供が使うぶんには危険なことになりにくい。また、射撃精度もトイガンより格段に悪い。悪さをするにも充分な訓練が必要で、使い始めてすぐに正確な射撃ができるトイガンとは扱いを変えるべきだろう。

諸々考え合わせると、スリングショット猟は、いずれ規制されるのもやむなしと思う。私見では、所持や標的射撃は簡単な手続きで行え、法定猟法に含め、狩猟に使うなら免許を必要とする――ぐらいが着地点だと思う。どうせ同等の知識が必要なのだから、手間は変わらない。
この議論に参入するなら、実際に体験してからにしてもらいたいと思う。さもなければ、事故や悪用のマイナス面につりあう価値を持つことが理解されないだろう。

執筆: この記事は野尻抱介さんのブログ『野尻blog』からご寄稿いただきました。

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