連鶴の話
今回は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。
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連鶴の話
さて筆者の方は最近、連鶴というものに凝っています。どんなのかというと、一枚の紙に切り込みを入れ、正方形がいくつかつながった形にしてそれぞれ折り鶴を折るというものです。たとえば下図左のように切った紙からは、右のような4羽が輪になったものができてきます。
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こうした連鶴は、昔から考えられています。1797年に出版された「秘伝千羽鶴折形」という本にまとめられており、実はこれが世界最古の折り紙の本です。こちらのページ*1に紹介されていますので、興味のある方はご覧下さい。解説書*2もいくつか出ています。
*1:『折紙探偵団』
http://www.origami.gr.jp/SenbazuruOrikata/index.html
*2:改訂版 つなぎ折鶴の世界―連鶴の古典『秘伝千羽鶴折形』 [単行本] 岡村 昌夫 (著)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/488023978X/
この「千羽鶴折形」という本、パズル的要素が詰め込まれており、最初の折り紙の本でありながら非常に完成度が高いのです。そのためか、このあと連鶴というジャンルはあまり発展することなく現代に至りました。
ところが最近、池田総一郎氏の「つなぎ折り鶴―一枚の紙から折り出す「連鶴」の技」*3という本が登場し、これが非常に革命的で、今までにない工夫をいろいろと持ち込んでいます。
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*3:つなぎ折り鶴―一枚の紙から折り出す「連鶴」の技 [大型本] 池田 総一郎 (著)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4817081406/
工夫のひとつは、紙の連結部位をいろいろ替えたもので、これがいろいろなバリエーションを生み出します。
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作品名「立鶴-乱」「立鶴-直」というそうです。
で、新工夫の最たるものは、変則用紙からの折り鶴です。折り鶴は正方形から折るものですが、実は菱形・凧型・矢じり型、そして三角形などからも作ることができます。このことは昔から知られていたことで、何ら目新しいことではありません。筆者が小学生のころに読んだ本にはすでにこうした変則折り鶴が載っていましたし、数学的な研究対象となったことさえあります。
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凧型(緑)、菱形(橙)、三角形(赤)からの折り鶴
池田氏の本では、一枚の紙に切り込みを入れてこれらの形に分割し、それぞれ折り鶴を折り上げたものが多数掲載されています。当然、正方形の組み合わせからは決してできない作品がたくさん生まれ、今までの限界をあっさり超えてしまいました。
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それぞれ雲津(もづ)、塔尾(とのお)、天坂(てんざか)
しかし、この変則用紙からの連鶴というのは、別に誰が思いついていてもおかしくなかったアイディアです。何しろ、30年前から同じ本に「変則用紙の鶴」「連鶴」が並んで紹介されていたわけですから、言ってみれば目の前にあったものを組み合わせただけです。筆者を含め、なぜ誰も思いつかなかったのだろう、くらいのものです。
実のところ、優れたアイディアというのはこういうものだと思うのですね。ヒントは目の前にあり、それを組み合わせたり変形したりずらしたりするだけ、しかしそこから無限の作品が生まれる――というような話は、他にもいろいろあることでしょう。これらの考案者である池田氏も、これを思いついた後はいくらでもここから作品が生まれ、「宝の山にぶち当たった」と歓喜したのではないかと想像します。
何で誰も思いつかなかったのかと考えてみると、ひとつには「折り鶴というものがあまりに完成されていて、見慣れすぎていた形であるから」ではないかと思います。それを変形させ、羽や首が長かったり、左右非対称になったりしたものは、面白いけれどちょっとある意味で気持ち悪く、ここからさらに発展させようという気が起きなかったのかもしれません。勝手に工夫のデッドエンドを設定してしまっていたのですね。
で、ひとつこの壁が打ち破られれば、そこからのアイディアも続々と出てきます。まあたとえば筆者は化学方面の人間ですので、正六角形をベースに作ってみようかくらいのことはすぐに出てくるわけです。そのうち、ペンローズタイル*4から作る「準結晶連鶴」も折ってみようか、などと思っております(笑)。
*4:「折り紙準結晶」2011年11月11日『有機科学美術館・分館』
http://blog.livedoor.jp/route408/archives/51964890.html
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商売柄、こういうのを作りたくなる。
有機化学の方でいえば、たとえば先日ChemASAPで紹介*5したこちらの論文など、よく知られたクロチルボランの反応と、シクロプロパンの開裂反応を組み合わせたもので、別に突飛なアイディアではありません。修士課程の学生さんあたりが思いついていてもおかしくはなく、あれ、これを誰もやってなかったのかと思うような話です。しかし、こうして発表されてみれば実に有用な反応ですし、ここからさらに新たな工夫が出てきそうでもあります。
*5:「【反応】Enantioselective Homocrotylboration of Aliphatic Aldehydes」2012年12月27日『ChemASAP』
http://blog.livedoor.jp/chemasap/archives/21662002.html
どんなジャンルであれ、こうしたアイディアはたぶんまだまだ転がっています。普段から問題意識を持っていろいろなものを眺めていれば、組み合わせやひねり次第で、ひょいと素晴らしいアイディアに出会うこともあるのだろうな、と思う次第です。
執筆:この記事は佐藤健太郎さんのブログ『有機美術館・分館』からご寄稿いただきました。
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