還暦を過ぎても”電流爆破”は現役! 稀代のカリスマ・大仁田厚が”邪道”を歩き続ける理由とは?

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還暦を過ぎても”電流爆破”は現役! 稀代のカリスマ・大仁田厚が”邪道”を歩き続ける理由とは?

 突然の質問だが、「名プロレスラー」といえば誰の名前を思い浮かべるだろうか。ジャイアント馬場にアントニオ猪木、天龍源一郎やジャンボ鶴田……。評価の基準は様々だが、これらのビッグネームは王道の名レスラーとして誰もが認めるところだろう。一方で、”邪道”を生きる名レスラーといったら誰か? 私がまず真っ先に思い浮かべる名前が、大仁田厚氏だ。

 元は全日本プロレスに「新弟子第一号」として入門し、ジャイアント馬場に師事していた大仁田氏。感情むき出しの荒々しいファイティングスタイルから「炎の稲妻」と呼ばれ人気を得たものの、膝の大怪我で引退を余儀なくされる。ここまでならよくある不幸なレスラーの話だが、大仁田氏はここからが違う。世間の目や評判を気にせず、泥臭くとも必死に食らいついて”邪道”のレスラーとして一時代を築いたのだ。その最たる功績のひとつが、「ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ」。日本プロレス史に大きく残る同プロジェクトをやり抜いた男の生き様が、『人生に必要なことは、電流爆破が教えてくれた』(徳間書店)という一冊に描かれている。

 大仁田氏のプロレス人生は、最初から”邪道”で始まったわけではない。相手の技を受けきるジャイアント馬場流プロレスを身につけ、当初は馬場、猪木、鶴田に続く”全日本第4の男”と目されていた。そんな大仁田氏を馬場が可愛がっていたのは周知の事実で、本気で養子縁組を考えていたという噂もあるほど。そんな馬場も、左膝蓋骨粉砕骨折という大怪我を負った大仁田氏をプロレスラーとして食わせていくことはできない。後楽園ホールでマイティ井上と引退を賭けた試合に負けた大仁田氏は、一度は間違いなくリングを降りた。当時の引退というのは今のように演出的な意味を含まないガチの引退を意味していたので、大仁田氏はそれから現場作業員などの肉体労働をこなして”空白の一年”を過ごしたという。

 しかし、学歴も経験も資格もない大仁田氏は定職につけず、いくつもの会社で面接に落ち続けた。「俺の人生、もう終わりかな」と惨めで情けない気持ちになってきたところで、大仁田氏の心にプロレスに対する熱い感情が込み上げてきたと語る。

 ”何でもきっかけなんだよ。人間ってきっかけがないと動かない。あのとき、得られるものもなかったけど、失うものもなかったわけでさ。それで「もう終わりだ」なんて言っている場合じゃないじゃん。それで缶コーヒー飲みながら決断したんだよ。「俺のいるべき場所は、リングだ」って。”(本書より)

 その後、現役復帰した大仁田氏は、全財産の5万円を元手に、インディープロレス団体「FMW」を旗揚げ。他の大手団体とは全く違った”なんでもやるスタイル”がプロレスファンに受け、一躍時の人となった。「FMW」を大きく躍進させたのが、ご存知「ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ」。ロープの代わりにリング四方へ有刺鉄線を張り巡らせ、触れると仕込んである火薬が発破する仕組みだ。もちろん有刺鉄線は肌に当たれば皮膚が裂け、火薬による爆破を食らったら火傷を負う。本物の血を流しながら爆発の中で戦うレスラーを初めて見た時の衝撃は、今でも鮮烈な記憶として焼きついている。

 関節技や華々しい投げ技ではなく、見ただけで「痛みが伝わるプロレス」を実現させた大仁田氏。デスマッチ路線を進むことになった背景には、経営が苦しいインディー団体としての苦悩があったという。大仁田氏も選手として表舞台に立つ以上、凶悪なシステムを用意すれば痛めつけられるのは自分自身。それを理解していても、ファンに「そこまでするか」と言わせるため頭をフル回転させ続けた。しかし大仁田氏は体もそう大きくはなく、ジャンボ鶴田やタイガーマスクのように華麗な技もない。「じゃあどうするんだ?」と自問自答した大仁田氏は、以下のように考える。

 ”自分の持っている「これしかできない」を最大限にやるしかないんだよ。それが電流爆破。有刺鉄線に引っ掛かって血を流して、UWFの関節技よりリアリティのある痛みを伝えるしかなかったんだ。それ以外できないんだから。”(本書より)

 どんなに痛くても苦しくても、自分ができることをひとつずつ確実にこなしていく。アイデアだけでも行動だけでもなく、ひらめきを実践するというパワーが大仁田氏と「FMW」をここまで押し上げたに違いない。すでに還暦を過ぎた大仁田氏だが、まだまだ電流爆破デスマッチ現役。自分が本心からやりたいと思ったことに全力を出す面白さを、いまだに感じ続けているという。

 ”やりたいことをするために頑張ることの楽しさやうれしさ、そして、目標に達したときの幸せや達成感みたいなものを感じられる人生の方が絶対面白いよ。無難にちょうどよく生きてたって、俺はそんなの息苦しくってたまんないよ。”(本書より)

 自分が直面している物事に目標を設定して、達成する喜びを感じられるのはどの立場、年齢の人も同じ。「無理をしない」「分相応」といった風潮が蔓延する現代社会だが、たとえ泥臭くても「これしかできない」を全力で実践するほうが人生を楽しめるに違いない。

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