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『千日の瑠璃』120日目——私はビデオテープだ。(丸山健二小説連載)

 

私はビデオテープだ。

まほろ町に一軒しかないレンタルビデオ店の棚の隅でずっと眠っていた、ビデオテープだ。商売上手の店長は、気取り屋の客にこう言って私を薦めた。「これは知る人ぞ知る名画中の名画なんですよ」と。すると、元は大学教授だったという男はそのひと言で私を借りたくなってしまい、湖畔の別荘へ持ち帰った。私としては張り切って九十分のあいだ、音声はともかく、素晴らしい映像を送りつづけたつもりだった。

しかし、残念ながら理解はしてもらえなかった。奥さんは、正直に、冷徹に、胸のうちを語った。「これのどこが名作なのよ。要するに女の腐ったような男の話じゃない」と身も蓋もない言い方をした。ところが、弁の巧みな主人のほうは、この良さは凡人にはわからないだろうと言い、自己流のもっともらしい解説を加え、そうすることで自身も納得しようと努めた。これぞ正真正銘の傑作だと言って、私をさかんに持ち上げた。

文学の古典にも匹敵する作品だなどと言って、彼はもう一度私をデッキに差しこみ、己れに対する嘘にも気がつかず、大画面のテレビの前に寝そべった。奥さんは窓の向うの雪に覆われた雑木林へと眼を移し、こう言った。どんな映画だろうと、どんな文学だろうと、野鳥一羽分の感動も与えることはできない、と。傑作中の傑作というのは、たとえばオオルリであり、たとえばミソサザイである、とそう言った。
(1・28・土)

丸山健二×ガジェット通信

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