床屋があいてないからアルカイダ〜安田純平の戦場サバイバル
「お前、俺たちのことアルカイダだと思ってるだろ」
反政府武装組織・自由シリア軍のある拠点でくつろいでいた私に、最前線の町からやってきた顎ヒゲの男が言った。
「ええっ。そうなの?俺も?」
私の隣で9カ月の子どもをあやしていたこの拠点の隊長が、ヒゲ面をくるっとこちらに向けて悲しそうな声を上げた。
「だって俺たちヒゲが生えてるからな」
最初の男がにやにやしながら言った。
隣国イラクの外相は7月、「イラクからアルカイダがシリアへ入国している」と警告した。混乱状態のシリアにそうした外部勢力が入り込み、支援欲しさにこれを受け入れる集団があることは十分考えられる。シリア政府は当初から反政府側を「外部から来たテロリスト」と断じている。
内戦の続くシリアで、「国際テロ組織アルカイダの信奉者が増えている」といった報道が欧米メディアからもたびたび流れている。「戦況が悪化し続けているなかで、過激なイスラム主義を掲げる集団が出てきている」といった内容だ。
ただ、そうした報道に登場するアルカイダ信奉者の中には、外国記者の取材を拒否することもなく「他の宗教や宗派もOKだ」といったコメントをしている人もいて、イスラム国家を望むと語るよくいるイスラム教徒に見えることも多い。
さらにそこに、決定的証拠であるかのように「そういえばヒゲ面だ」「確かにヒゲが生えている」という記者の注釈がついていることがある。ステレオタイプな「イスラム過激派」像に納得してしまう読者もいるのかもしれない。
「アルカイダと言われるのが嫌ならヒゲ剃ればいいじゃないか」
それで解決するなら簡単なことだと私は愚かにも提案したが、彼らは即答した。
「床屋あいてないじゃん」
ヒゲの濃いアラブ人は床屋でヒゲを剃ってもらったり抜いてもらったりする人が多い。しかし、反体制派の解放区は政府軍による徹底的な空爆と砲撃にさらされており、床屋があいてないどころかほとんど人が住んでない町もある。そうした場所で戦う自由シリア軍のメンバーには確かにヒゲ面は多い。
床屋があいてないためにアルカイダと言われてしまう男たち。子どもも家もある彼らは明らかに地元住民で、これは連中のネタなのだが、シリアの混乱ぶりを垣間見た気がした。
【写真説明】
1枚目:政府軍による空爆と砲撃で廃墟と化した町。床屋はあいていそうもない=2012年7月25日
2枚目:ヒゲ面が多い最前線の町の自由シリア軍=2012年7月25日
安田純平(やすだじゅんぺい)フリージャーナリスト
1974年生。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』
https://twitter.com/YASUDAjumpei
1974年生フリージャーナリスト。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』
ウェブサイト: http://jumpei.net/
TwitterID: YASUDAjumpei
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