関電の電力は足りているというアホな記事をばらまく新聞社
今回は疑似科学ニュースのメカAGさんの記事からご寄稿いただきました。
関電の電力は足りているというアホな記事をばらまく新聞社
「関電、大飯再稼働なくても電力供給に余力」2012年7月18日『CHUNICHI Web』
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012071890094758.html
なぜか記事の中のグラフには2012年07月16日までしか書かれていないが(18日の記事だからグラフを書くのが間に合わなかったのかもしれないが)、本文の記事には猛暑となった17日の最大需要電力が2540万キロワットだったと述べられている。
猛暑となり17日の最大需要はこの夏一番の2540万キロワットに達したが、10%以上の供給余力があった。
ちなみに大飯原発なしの供給力は
「今夏の電力需給見通しについて」2012年5月12日『関西電力株式会社』
http://www.kouiki-kansai.jp/data_upload/1337148860.pdf
のp.13によれば2542万キロワットと算出している(他の電力会社からの融通110万キロワットを含む)。
つまり大飯原発を稼働しなかったら、供給力2542万キロワット、需要2540万キロワットとなり、ギリギリだったということ。
* * *
だいたい言ってることがおかしいだろう。
政府の節電要請から16日までの2週間の関西電力管内の電力需給で、最大需要は2301万キロワットにとどまり、出力118万キロワットの大飯原発3号機(福井県おおい町)が再稼働しなくても、供給力を9%下回っていたことが分かった。
16日までは最大需要が2301万キロワットだったという。それが供給力を9%下回ったというのだから、上記の関電の発表の原発なしの供給力2542万キロワットを基準に計算しているのだろう。2301/2542=0.91。1-0.91=0.09。
一方、
猛暑となり17日の最大需要はこの夏一番の2540万キロワットに達したが、10%以上の供給余力があった。
17日の最大需要が2540万キロワットで、それに対して供給力は10%以上の余力があったというのだから、こちらの基準は
「<週間でんき予報-供給力の内訳>」2012年7月23日『関西電力』
http://www.kepco.co.jp/setsuden/graph/weekly-oshirase.pdf
の2870万キロワットを想定しているのだろう(19日の予定の値だが、17日もそんなにかわらないはず)。2540/2870=0.89。1-0.89=0.11。当然これは原発稼働時の供給力。
途中で分母をなんの断りもなしに変えて、ひと続きの文章にすることが許されるのか?
政府の節電要請から16日までの2週間の関西電力管内の電力需給で、最大需要は2301万キロワットにとどまり、出力118万キロワットの大飯原発3号機(福井県おおい町)が再稼働しなくても、供給力を9%下回っていたことが分かった。猛暑となり17日の最大需要はこの夏一番の2540万キロワットに達したが、10%以上の供給余力があった。
最低でも後の文章は「原発稼働の状態で10%以上の供給余力があった」と書くべきだろう。しかも
政府は夏場の電力不足を理由に強引に大飯原発の再稼働に踏み切ったが、節電効果など需要の見通しの甘さが浮き彫りになった。
と、予想が違ったと結論している。どこが違ったというのだろう。
* * *
さっするに「予想より電力需要は低かった」という主旨の記事を準備していたら、17日の電力需要が思いもよらぬほど高くて、しかしいまさら記事の主旨を変えるわけにはいかず、あわてて取り繕ったというところだろう。14~16日の電力需要が気温のわりに低いのは休日だったからではなかろうか。ちょうど一週間前の7~8日も電力需要は下がっているし。需要予測の見通しが甘いのはこの記事を書いた人間の方である。
普段「マスコミは信用ならない」とか言ってる人たちも、こういう記事だけは大喜びで「それみたことか!やっぱり電力会社は嘘つきだった」とツイートしてるし。孫正義まで。
孫正義2012年7月18日『Twitter』
http://twitter.com/masason/status/225606647270215680
しかも【電力余剰で関電が火力発電8基停止】 http://bit.ly/PQs850 @masason やっぱりか【 関電、大飯再稼働なくても電力供給に余力】 http://bit.ly/SGt9vA
いまや孫正義もエネルギー産業に参入した以上は、「素人考え」と笑ってすまされないのだが。
* * *
発電力118万キロワットの大飯原発を稼働させると、なぜ供給力が2870-2540=330万キロワットもアップするか?内訳を見ると原発を稼働させない場合
「今夏の電力需給見通しについて」2012年5月12日『関西電力株式会社』
http://www.kouiki-kansai.jp/data_upload/1337148860.pdf
のp.13によると
原子力 0
揚水 223
融通 644
火力 1472
水力 203
合計 2542
となっている。一方19日の予定供給力を見ると、
「<週間でんき予報-供給力の内訳>」2012年7月23日『関西電力』
http://www.kepco.co.jp/setsuden/graph/weekly-oshirase.pdf
原子力 118
揚水 432
融通 628
火力 1410
水力 281
地熱等 1
合計 2870
となっている。増えているのは原子力と揚水だ(水力も若干増えているが、ダムの貯水量にもよるだろうから、これはよくわからん)。原発を稼働させたことで夜間の電力供給に余裕ができ、揚水発電にまわせる分が増えたのだろう。原発稼働によって揚水発電力が増えることは、これまで何度も説明されていること。ということで、俺には大飯原発を稼働させたから乗りきれたとしか思えないのだが。
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あと火力発電所を8基止めたという話がある。7月6日の時点の話で現在も止めているのかわからないが、火力発電は電力需要に応じて動かしたり止めたりできるが、原発の場合、止めたり動かしたりするのは効率が悪いのだから仕方ないだろう。
「関電、火力フル稼働見送り 電力需給ひとまず安定」2012年7月14日『日本経済新聞』
http://www.nikkei.com/article/DGXNASHD1301V_T10C12A7LDA000/
関電もこうした需要増を見越し、止めていた石油火力発電所を徐々に稼働。9日時点では12基中5基しか動いていなかったが13日には8基を稼働させて、火力だけで供給力を約200万キロワット積み増した。
この記事によると、タイトルとは逆に7月9日の時点では5基しか動いてなかった火力発電所を13日には8基稼働させたとある。7月6日に止めた8基と、トータルでどういう計算になるのかわからないが、要するに電力需要に応じて止めたり動かしたりしているのだろう。そういう調整ができるのも原発が動いているからだと思うのだが。
日経の記事では
7月02~06日 最大需要 2000~2100万キロワット
7月10~12日 最大需要 2200万キロワット
7月13日 最大需要 2300万キロワット
とある。これに冒頭の中日新聞のデータを加えると、
7月17日 最大需要 2500万キロワット
となる。天気によって7月6日の頃と17日では400万キロワットほど需要に差があるのだから、その分を火力発電所の発電量で調整するのは、当たり前ではなかろうか。
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追記
火力で揚水しろよ、と言ってる人がいるけれど、
「今夏の電力需給見通しについて」2012年5月12日『関西電力株式会社』
http://www.kouiki-kansai.jp/data_upload/1337148860.pdf
のp.13の表に示されている通り、関電のすべての火力発電所を稼働させた状態(1923万キロワット)で(揚水も含めて)、供給量が2542万キロワットなんだよね。だから最大需要が2542万キロワットを超えたら、どのみち原発なしでは無理。
ちなみに1923万キロワットの内訳は
「原子力発電所に関する四大臣会合(第6回)終了後枝野経済産業大臣記者会見配布資料」2012年4月13日『経済産業省』
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/pdf/120413-1.pdf
のp.16にある。関電の自社の発電所の1472万キロワットに加えて、神戸製鋼所など民間から買い上げ分451万キロワットの合計が1923万キロワットになっている。
稼働していないのは多奈川第二発電所の2基計120万キロワットと、宮津エネルギー研究所の2基計75万キロワットで、長期停止中なので再稼働には3年ぐらい必要らしい。たぶんメンテナンスされてない状態で放置されてて、稼働させるには補修からやり直さないとダメなんじゃなかろうか。
出力が100%でないものがあるが、コンバインドサイクル発電は大気温度に影響されるから夏は出力が低下するらしい。これを読む限り1923万キロワットというのは稼働できる火力発電所をすべて稼働した状態の発電量ということになる。むしろ本当に全部この状態で稼働できるの?と心配になるほどだ。
原発が動いているから余裕ができて、火力発電所の一部を止めているのを、余裕があるなら原発のほうを先に止めろというのは、おかしい。
また他から融通してもらった電力で揚水しろというのも、揚水のためのポンプの能力に限界があるので、深夜など本当に電力が余っていてポンプがフル稼働している時間帯に他から電力をもらっても有効には使えない。
上記の資料の参考2を見るとわかるが、グラフの黄色い棒の最大長は一定になっている。これ以上電力をもらっても棒の長さは伸びない。日中の発電能力が増加すれば、ポンプを稼働できる「時間」が増え、結果的にくみ上げる水の量が増えることで、揚水発電量が増える。
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追記2012-07-23
面白いエントリ。7月18日の電力は原発を稼働しなくても足りていたという主張。
「大飯原発が必要だったか試算してみた」2012年7月22日『アナログとデジタルの狭間で』
http://d.hatena.ne.jp/tei_wa1421/20120722/p1
グラフから目視と電卓で大雑把に計算すると、上記の値に近くなったから、ちゃんと計算すれば上記の18日の供給力は最大2740万キロワットというのは正しいのだろう。
では関電の事前の発表「原発を稼働させない場合の最大供給力は2542万キロワット」とどこが違うか。上記のサイトに示されている関電のグラフ
「大飯原発が必要だったか試算してみた」2012年7月22日『アナログとデジタルの狭間で』グラフ1
http://f.hatena.ne.jp/tei_wa1421/20120722165524
を見れば分かるように関電は約3000万キロワット(2987万キロワット)を前提としている。他の資料でも基本的に関電は最大3000万キロワットを確保しなければならないと考えていることが節々に見て取れる。
んで、3000万キロワットを前提とした電力需要のグラフが折れ線グラフなのだ。一方、18日の最大使用量は約2500万キロワットだった。つまり500万キロワットほど低い。
「大飯原発が必要だったか試算してみた」2012年7月22日『アナログとデジタルの狭間で』グラフ2
http://f.hatena.ne.jp/tei_wa1421/20120722171604
こちらの折れ線グラフ(黄緑色)を見ると、ほぼ上記のグラフを下に500万キロワット分移動した形をしているのが分かる。
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折れ線グラフが下に移動したことで、揚水発電のくみ上げに使える時間とそれを消費する時間が変わる。大雑把には
3000万キロワットを想定 くみ上げ 8時間 消費 12時間
2500万キロワットを想定 くみ上げ 10時間 消費 9時間
となる。7割が発電に使えるとすると
3000万キロワットを想定 486*8*0.7/12=226キロワット
2500万キロワットを想定 486*10*0.7/9=378キロワット
となる。3000万キロワット想定だとトータルの供給力は関電の計算だと2542万キロワットだから、2500万キロワット想定だと、上記の差分で2694万キロワットで、だいたい計算が合う(上記の記事と厳密に合わないのは俺の計算の方が大雑把だから)。
もっと直感的にいえば、3000万キロワット想定の場合、朝の8時からすでに揚水発電に頼らなければならない。夜も21時まで揚水発電を使用しなければならない。一方2500万キロワットだと、朝の9時から夜の19時までですんでいる。他の時間帯はくみ上げに使えるのだ。グラフの山が下がった分、飛び出ている(揚水発電に頼る)時間帯が減っている(ポンプがフル稼働できない時間帯は、40%と60%をあわせて1時間分といった計算をしてるから、時間帯と稼働時間は厳密には合わない)。
もちろん単純に下に500万キロワット分移動するだけでなく、熱帯夜などで夜間の消費電力が増えればグラフの形も変わるだろう。所詮はこうしたグラフは単純化したモデルでの計算に過ぎない。
* * *
で、まあ結果論としては18日は稼働させなくても間に合ったかもしれない(ダムの貯水量などで変化する水力の発電量が想定と同じという前提で)。ただ冒頭の中日新聞の記事がでたらめなことには変わりないし、最大使用電力が2500万キロワットで収まったのは、しつこくて申し訳ないが結果論に過ぎない。17日以前は「なんだ2300万キロワット程度で足りてるじゃないか」と言ってたわけで。
予測はあくまで予測であり、誤差はつきもの。中日新聞の記事のように予測が当たった、いや外れたと、結果に一喜一憂しても意味がない。誤差を含めて余裕のある供給力を確保することが大事。
執筆: この記事は疑似科学ニュースのメカAGさんからご寄稿いただきました。
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