「在宅勤務」の経験を経て、“次世代のリーダー”を目指す――Amazonがカスタマーサービス職の「在宅勤務」を促進する狙いとは?

「在宅勤務」の経験を経て、“次世代のリーダー”を目指す――Amazonがカスタマーサービス職の「在宅勤務」を促進する狙いとは?

米国・シアトルに本拠を置き、オンラインストアとして世界最大規模を誇るAmazon.com。あらゆるジャンルの商品を扱い、取り扱い点数は数億タイトルを超える。

Amazonが掲げるビジョンは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」。同社では従業員すべての行動・判断の軸として「Our Leadership Principles」と呼ばれるプリンシプル(原理原則、信条)が定められているが、その14項目のうち1番目に置かれているのが「Customer Obsession(カスタマーオブセッション)」

「いかなるときもカスタマーを起点として考え、行動する」という決意が込められている。それにより、可能な限り簡単な仕組みを作ることができる。それだけに、お客様の声を聞くカスタマーサービス(以下、CS)部門は、Amazonの組織・戦略の中心に位置づけられているのだという。

CS部門において、Amazonのサイトやサービスを利用するカスタマーからの問い合わせに対応するのがカスタマーサービスアソシエイト(CSA)だ。Amazonでは多くのCSAが「在宅勤務」を実践している。日本でECサイトを運営するアマゾンジャパン合同会社でも、在宅勤務のCSAは全国47都道府県で在宅勤務が可能だ。CS業務へ在宅勤務という柔軟な働き方を取り入れた背景、運用上のポイントなどについて、アマゾンジャパン合同会社のカスタマーサービス ディレクター、スコット ジョーンズ氏にお話を伺った。

▲アマゾンジャパン合同会社 カスタマーサービス ディレクター

スコット ジョーンズ氏

在宅勤務で効率よく業務を行う

「人生とは複雑なものです。優れたスキルやクリエイティビティを持つ方々の中には、様々な理由でオフィスに出勤してフルタイムで働くことが難しい事情によって、その力を十分に活かせていないという実情がある。その力を、私たちが最も大切にしているお客様のために活用してほしいと考え、個人の事情に応じて在宅勤務ができる仕組みをつくったのはごく自然な流れでした。」

在宅勤務は、自宅での勤務が可能な点に加え、日勤・夜勤のフルタイムやパートタイムといった多様な働き方を提供している。Amazonとしては、可能な限り、会社のニーズと社員のニーズを調整し、長く働ける環境を作りあげることを目指している。

日本では現在、より進歩した労働環境ということを念頭に「働き方改革」が、国全体の課題となっている。育児や介護といった家庭の事情で、オフィス勤務という形態でを続けることが難しい方でも活躍できる機会を設けるために、在宅勤務制度の導入を検討する企業は多い。しかし、うまく運用できるかどうかを不安視し、二の足を踏んでいるケースも多いようだ。

新しい取り組みに不安を持つ理由として、マネジメントとの関り方が通常と異なることによって、パフォーマンスを上げることが難しいのではないかということが考えられる。その問題についてスコット氏は「在宅勤務でもパフォーマンスのレベルの心配をする必要はありません。」と語る。

「オフィスで勤務していると、チームメンバーとの会話や意見交換などは『ランダム』に行われることが多いと思います。メンバーに話しかけるのも、ランチに誘うのも、特に意識せず行われています。オフィスにいることで、自然とコミュニケーションが生まれます。一方、自宅で1人で勤務していると、オフィスとは異なり、“意図をもって”コミュニケーションが生まれます。それぞれの形に違いはありますが、環境に適した形となります。つまり、在宅勤務という環境においても、意識と目的を持つことで、効率的な働き方とコミュニケーションができるということです。私は北米で1万人の在宅勤務者を統括するリーダーを務めましたが、その経験上、在宅勤務者はオフィス勤務者と変わらないパフォーマンスを提供することが可能だと知っています。北米で在宅勤務プログラムをスタートした当初は細かな問題や課題もありましたが、それらを解決して運用ノウハウと仕組みを確立できたので、日本へ導入することができたのです」

また、緊急性の高い問題が発生したとしても、適切に対応できる仕組みも整っているという。サポートの仕組みを整えることで、在宅勤務はスムーズに実現することができる。

「在宅勤務者はチームメンバーや上司、あるいは人事担当者、さらには部門のディレクターである私ともリアルタイムで対話できるシステムを導入しています。航空機のパイロットがフライト中、地上の管制官とやりとりして問題解決を行うのと同じ、あるいは宇宙飛行士が宇宙ステーションで地球のクルーからの指示を受けるのと同じように、距離はまったく問題になりません。テクノロジーにより、リアルタイムでつながれる仕組みが整っていますから」

モチベーション維持の秘訣は、「リーダーシッププリンシプル」の浸透

在宅勤務では、オンとオフの切り替えがしづらく、仕事へのモチベーションを保てないのではないか――在宅勤務制度の導入をためらう企業からは、そんな声も聞こえてくる。Amazonでは、その点をどのようにクリアーしているのだろうか。

「大前提として、私たちは社員を信じています。Amazonのリーダシッププリンシプルの項目の一つに『Ownership(オーナーシップ)』があります。これは社員全員が当事者意識を持ち、ワクワクしながら仕事に取り組むということ。CSでは、基本的にはマニュアルやガイドラインを基に業務を行いますが、CSAは自身の判断をもって行動を起こすことができます。そういった考えのもと、お客様への対応だけではなく、業務の改善提案にも期待しています。

また、『Learn and Be Curious(ラーン・アンド・ビー・キュリオス)』=新たな可能性に好奇心を持ち、自分自身を向上させ続ける、というプリンシプルもあります。こうしたプリンシプルを最初に明確に示すことで、理解・共感いただける方を採用していますし、導入研修時にもしっかりと意識付けを行う。もちろん、このプリンシプルにもとづいてスキルアップしていくためのトレーニングも実施しています。社員一人ひとりが自身のスキルをどんどん向上させていくという意識を持ち、しかもチームでそれを目指しているため、在宅勤務によるパフォーマンスの差といったことはまったく心配していません」

在宅勤務経験を経て、次世代のリーダーとなる

CSAは契約社員として採用されるが、正社員登用制度もあり、実際に登用された実績も多数ある。また、リーダー、コーチ、マネジャーといった上位ポジションへのキャリアステップも用意されている。在宅勤務というと、リーダー職やマネジメント職へのキャリアアップにはつながる機会が少ないと考えている人も多いだろう。しかし、Amazonの場合はそうではないようだ。

「キャリアの開発という面において、在宅勤務のようなバーチャルオフィスで仕事をしている在宅勤務者には、通常のオフィス勤務者と変わらず、チャンスが多い」と、スコット氏は捉えている。

「大切なのは働く『場所』ではない。『マインドセット(心構え)』なんです。それを認識し、自分自身のスキルアップや経験を重ねていくことで、可能性を広げることができます。在宅勤務というスタイルで働いているのはCSAだけではありません。今や北米など海外では財務、人事、アナリストなど、あらゆる職種の人が在宅で、バーチャルオフィスといった環境で勤務しています。今後それが当たり前になり、バーチャルで働く人がどんどん増えていく次のステージでは、在宅勤務の経験は決してマイナス要因にはなりえません。バーチャルで働く経験をいち早く積み、この働き方で成果を挙げるスキルを身に付けている人は、働く場所を問わずリーダーを務めるために必要な要素を習得できているということです。ですから私は、この先、経験してきた働き方にとらわれず、在宅勤務者からも、それ以外の経験者同様に、どんどん次世代のリーダーが生まれてくることを楽しみにしているのです」 WRITING 青木典子 PHOTO 石山慎治

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