ピコ太郎とBABYMETALの切り拓いた先に【世界音楽放浪記 vol.11】

ピコ太郎とBABYMETALの切り拓いた先に【世界音楽放浪記 vol.11】

2016年は、日本音楽にとって画期的な年だった、ピコ太郎の「PPAP」が全米ビルボードチャートの77位に、BABYMETALの「METAL RESISTANCE」がアルバムチャートの39位にランクインした。J-Popが「日本ファン」だけでなく、その外側にある、はるかに大きなレイヤーである「一般の音楽ファン」の評価を受けはじめた証だった。

昨年、ロンドン大学のSOAS(東洋アフリカ研究学院)で講義を行った。どのようなミュージシャンが、いま「日本ファン」以外の支持を獲得しているか、「男女」で明確に論じることができるという話もした。1つ目のカテゴリーは男性バンド。「英語の歌詞で、メインストリームのサウンドの、ロックバンド」。VAMPS、ONE OK ROCK、MAN WITH A MISSION、coldrain、Crossfaithらだ。2つ目のカテゴリーは女性アーティスト。「日本語の歌詞で、ノンビブラート、高中域のヴォーカル、アイドル的要素」。きゃりーぱみゅぱみゅ、Perfume、SCANDAL、初音ミクらだ。この2つを掛け合わせると、BABYMETALが生まれる。また、ピコ太郎の「PPAP(Pen Pineapple Apple Pen)」は、「21世紀の童謡」だったと私は考える。この曲は、全世界の子供たちが英語で口ずさむことができる、史上初の日本の歌だった。

海外の視聴者によるリクエスト総数で決定する「J-MELOアワード・アーティスト部門」で、グランプリに輝いたのは「L’Arc-en-Ciel」「the GazettE」「SCANDAL」「BABYMETAL」の、たった4組だけだ。それらの曲を聴いたドイツからの留学生は、こう語った。

「J-Popは全然ポップじゃない。彼らはロックよ」。

その発言に、私は日本音楽の現状と可能性を同時に感じ取った。視聴者調査の結果を見れば、一目瞭然だ。ジャンルを「中身」と「器」に分けて考えよう。「中身」は1位に輝いた「ロック」だけ。以下「アニソン」「女性アイドル」「ビジュアル系」と「器」が続く。日本のジャンルは、その名前を聞いただけでは、どんな音楽的傾向なのかが分からないものが多数を占めているのだ。「アニソン」は、アニメの付属物である主題歌や挿入歌。「女性アイドル」は、アイドル活動の一部としての音楽活動。「ビジュアル系」は、文字通り音楽ではなく外見の総称だ。(J-MELOリサーチ2015)

これに対し、アメリカの音楽ジャンルは「ロック」「クラシック」「ジャズ」など、名称から音色が想起されるものがほとんどだ。K-Popという器も、「ダンスポップミュージック」という中身と直結している。全米チャートで、PSYが2位(2012)、BTSが1位(2018)に輝いたのは、そのことと無関係ではないであろう。これに対し、J-Popの特徴は多様性。雅楽からヒップホップまで、時代を超えた世界中の流行音楽が日本化されたものだ。

日本では、すぐに音楽をジャンル分けし、そこから外れると「それはロックではない」「クラシックではない」というように排除したがる傾向が見受けられる。私はそれを「音楽原理主義」と呼んでいる。しかし、全ての正統は、元々は異端だった。「個々の名前」を聴いたら、どんな個性を持った音楽なのか想起できる。そんなアーティストが次々と日本から世に出ることを、待ち望んでいる。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

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