知らないと損する「敬語」表現。使い方の“正しさ”よりも大切なのは?―山口拓朗の『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』
あなたは、自分の語彙力に自信がありますか?
「その場で適切な言葉が出なくてあせった…」
「『言葉遣いがなっていない』と上司に怒られた」
「正しい敬語の使い方がわからない」
「相手に応じて言い回しを工夫することが苦手だ」
「教養のある人たちの会話についていけない」
「言葉や表現に自信がなくて、人と話すことが億劫だ」
このような悩みをかかえてる人や、さらに語彙力に磨きをかけたい人の“強力サポーター”となるのが、新刊『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』で話題の山口拓朗さんの短期連載(全5回)です。
「紛らわしい語彙や言い回し」から「武器になるビジネス語彙」「実践的なモノの言い方」まで、全5回に渡って語彙力アップのヒントをお届けします。
第3回のテーマは、「[知らないと赤っ恥]間違えやすいNG敬語表現」です。
敬語を適切に使うスキルは、ビジネスパーソン必須!
モノの言い方のなかでも、社会人が特に押さえておきたいのが「敬語」ではないでしょうか。他者を敬いながら信頼関係を築いていく日本社会で、敬語は極めて重要な役割を果たしています。一方で、その複雑さゆえ、適切とはいえない使われ方をすることも少なくありません。
「敬語が少しくらい間違っていても構わない」と思う人もいるかもしれませんが、そう開き直るのは早計です。
敬語を適切に使えないことのリスクは想像以上に大きいからです。 相手に「呆れられる」 だけならまだしも、場合によっては「信頼を失う」「 怒りを買う」「敵意をもたれる」「見下される」など、さまざまなペナルティを科せられる恐れがあります。
いくら仕事の能力が高くても、敬語を含むコミュニケーション能力が低ければ、社会的評価を落としかねないのです。
謙譲表現を使った“おかしな尊敬語”に注意
敬語には以下の3種類があります。
尊敬語:相手や相手の行動に敬意を払うときに使う
謙譲語:自分がへりくだることで、間接的に相手を立てる(敬意を払う)ときに使う
丁寧語:「借りる→借ります」のように、相手や内容を問わず、表現を丁寧にしたり、上品にしたりするケースで使う
敬語の使い方の中でとりわけ多いミスが、尊敬語と間違って謙譲表現を使ってしまう、というものです。
✕ 松村社長が参られました。
○ 松村社長がお越しになりました。
○ 松村社長がお見えになりました。
○ 松村社長がおいでになりました。
○ 松村社長がいらっしゃいました。
「参る」は「来る」の謙譲語です。
「今から参ります」のように使うものであり、敬うべき相手の行為に使うものではありません。このケースでは「来る」の尊敬表現(「お越しになる」や「お見えになる」など) を使います。
✕ 調査報告書を拝見されてください。
○ 調査報告書をご覧ください。
○ 調査報告書をご覧になってください。
○ 調査報告書をご覧くださいませ。
「拝見する」は「見る」の謙譲語です。
したがって、敬う相手の行為には使えません(「拝聴」「拝受」なども同様です)。一方、「見る」の尊敬語は「ご覧になる」であり、「見る+ください」の正式な尊敬表現は「ご覧になってください」です。少し敬意は下がりますが、省略型の「ご覧ください」でもOKです。もう少し柔らかい表現にしたいときは「ご覧くださいませ」と言ってもいいでしょう。
✕ 先ほど清水社長が申されたように〜
○ 先ほど清水社長がおっしゃったように〜
○ 先ほど清水社長が言われたように〜
「申す」は「言う」の謙譲語です。
相手を敬う場面では使えません。尊敬語の「おっしゃる」か「言われる」を使います。なお、相手に言葉の意味を確認する目的で聞き返すときに「○○と申しますと?」と言うのも不適切です。「○○とおっしゃいますと?」であれば問題ありません。
✕ 商品Aの納期の件は、うかがっておりますか?
○ 商品Aの納期の件は、お聞きになりましたか?
「うかがう」は「聞く」の謙譲語です。
へりくだる形で「商品Aの納期の件は、うかがっております」のように使います。相手を高めるときには「聞く」の尊敬語である「お聞きになる」を使います。
✕ 忘れ物いたしませんよう、お気をつけください。
○ 忘れ物なさいませんよう、お気をつけください。
「いたす」は「する」の謙譲語です。
敬うべき相手には使えません。 尊敬語の「なさる」を使います。
✕ 筆記用具をご持参ください。
○ 筆記用具をお持ちください。
「持参」は<持って参る>という意味の謙譲表現です。
「筆記用具を持参します」のように、へりくだる際に自分の行為に対して使う表現です。「持参」に「ご」をつけても尊敬表現にはなりません。正しい言い方は、尊敬表現を使った「お持ちください」です。あるいは「ご用意ください」などの表現で対応してもいいでしょう。
いきすぎた「二重敬語」を使っていませんか
「失礼にならないように」と気を配ることは大事ですが、慎重になりすぎるあまり「二重敬語」を多用してしまうのは危険です。「二重敬語」とはひとつの言葉に同じ種類の敬語を重ねることをといいます。つまり“過剰な敬語”です。
例えば、「田原社長がおっしゃられました」は、「言う」の尊敬語「おっしゃる」に尊敬の助動詞「れる」をつけた二重敬語です。この場合は「田原社長がおっしゃいました」で十分です。「近藤さんもご出席になられます」も二重敬語です。適切な尊敬表現 は「近藤さんもご出席になります」です。 【誤】お話しになられる
→ 【正】お話しになる
【誤】おいでになられました → 【正】おいでになりました
【誤】お帰りになられました → 【正】お帰りになりました
【誤】お承りしました
→ 【正】承りました
【誤】お求めになられました → 【正】お求めになりました
「二重敬語」がクセになっている人は注意しましょう。せっかくの相手を敬う行為も、相手に“くどい”“慇懃(いんぎん)無礼”“過剰”と思われたら本末転倒です。
正しさよりもニュアンスの差を見極めながら敬語をくり出そう!
敬語をマスターするためには、自分の敬語が適切かどうかを見極めること。
そして、もしも適切でないことが判明した場合は、その後の会話で修正していくこと。このプロセスを踏むことが肝心です。
もっとも、「適切かどうか」という表現自体がクセ者でもあります。
例えば、「〜いただけますでしょうか?」は、厳密にいえば二重敬語です。本来の表現は「〜いただけますか?」です。とはいえ、本来の表現では“言い方がキツい”“敬意が足りない”と感じる人も、世の中には少なからずいるようです。
このように、セオリーとしては適切でも、実際には(相手にとっては)適切ではない、というジレンマも敬語にはつきものです。
日本語の敬語には<唯一の正しさ>があるわけではなく、<ある程度の正しい範囲>があるにすぎないのです。この正しさは時代によっても変化します。したがって、私たちには、そのつど細かいニュアンスの差を敏感に嗅ぎ分けながら、そしてまた、世の中で使われている敬語の傾向とともに、自分自身の感覚(使って違和感があるか)などを見極め、使い分けていくスキルが求めらるのです。
あなたも、この機会に、自分が使っている敬語に意識を向けてみませんか?
著者:山口拓朗
『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』著者
伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)他がある。最新刊は『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』(PHP研究所)。
山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/
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