“前代未聞”のメガヒット商品は「創造力」ではなく「想像力」から生まれた

“前代未聞”のメガヒット商品は「創造力」ではなく「想像力」から生まれた

「週明けに企画会議があるので、週末からもう憂鬱で」「とりあえず企画を持ってこい、と上司によく言われるので、本当に困る」「お客さんから企画の提案を求められているんですが、どういうものを出したらいいのか」「企画書って、何からどう書けばいいんでしょうか」

企画に、あるいは企画書づくりに頭を悩ませている人は本当に多いようです。しかし、「企画」という言葉に惑わされてはいけない、と語るのは、著書『企画書は10分で書きなさい』の著者で、たくさんの書籍企画に携わっているブックライターの上阪徹さん。

企画のイメージが変わる、「企画の作り方」のヒント、全5回です。

プロフィール

ブックライター 上阪徹さん

上阪徹事務所代表。「上阪徹のブックライター塾」塾長。担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売り上げは200万部を超える。23年間1度も〆切に遅れることなく、「1カ月15万字」書き続ける超速筆ライター。

1966年生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『JALの心づかい』『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか』『社長の「まわり」の仕事術』『10倍速く書ける 超スピード文章術』『成功者3000人の言葉』など。

自分目線に落とし込みやすくするために

企画の「真の目的」や「ターゲット」について頭を巡らせることで、企画はグッと考えやすくなる、という話を第2回ではお届けしました。

企画を考えるときに、真の目的やターゲットに頭を向けるなんて面倒だなぁ、と思われるかもしれません。とにかく面白いものを考えればいいじゃないか、と。

もちろん、それができて周囲からも高く評価されているのであれば、まったく問題はないでしょう。ただ、そうでない人、企画に苦しんでいる人には、ターゲットに、しかもできるだけセグメントしたターゲットに頭を向けたほうがいいですよ、と私は申し上げています。それはなぜかというと、企画をしやすいから。セグメントされたターゲットに訴求しやすいから。

もっというと、「自分目線」にも持っていきやすいからです。ターゲットを想像するといっても限界があります。そこで生きてくるのが「自分目線」です。自分もターゲットの一人として、「課題」に向き合ってみるのです。

実際、自分自身もターゲットに組み入れられる、という企画は少なくありません。今の自分のみならず、過去の自分も含めて、です。

ターゲットを絞り込むと

自分目線に落とし込みやすくなる

メガヒット商品、アキレスの「瞬足」はいかに生まれたか

かつて取材した大ヒットプロジェクトにアキレスの「瞬足」があります。年間150万足売れれば大ヒット、という業界認識の中で、年間600万足を記録したことがあるそうです。2003年のデビューから、すでに累計5000万足を突破。文字通りの超メガヒット商品です。

この商品はどのようにして生まれたのか。ただ漠然と子どもたちを意識して「面白い靴」を求めたことで、生まれたわけではまったくありませんでした。子どもたちの課題に目を向け、ターゲットをセグメントしたからこそ、生まれた靴だったのです。

それが、「運動会で転んでしまう子ども」でした。ここから生み出されたのが、運動会で転ばずに走れる、という極めてわかりやすいコンセプトだったのです。

子どもの向けた面白い靴、と、運動会で転ばずに走れる靴、と。さて、どちらがイメージがわく企画でしょうか。子どもたちに支持される企画でしょうか。

子どもに向けた面白い靴

運動会で転ばずに走れる靴

企画の背景には、開発チームのまとめ役になった人物の仕事スタイルがありました。会社の同僚から「お前はどこから給料をもらっているのか」と揶揄されるほど、取引先に尽くす営業で、小売りの最前線の厳しさを肌で学んでいました。

今、売れている商品はこれからの死に筋、と取引先には教わったそうです。常にユーザーである子どもたちの変化に目を向けないといけない、と。

左右非対称という前代未聞の靴ができた

そこで彼が続けたのが、子どもたちの靴の写真を撮り続けることでした。徹底的な子ども目線を持っていたのです。そして、自分の子どもが小学生になったとき、運動会という場に出会います。

その後、企画会議で偶然、運動会が話題になります。自分の子どもの運動会経験もそうですが、誰もが運動会を経験しています。そこから、転ばない、コーナーで滑らない、というキーワードが出てきたのです。

実は「瞬足」は前代未聞の靴でした。裏面が左右非対称になっているのです。だから、コーナーで滑らない。これは、誰もが腑に落ちた企画だったといいます。競合他社とも明確に差別化できました。漠然と速く走る、といったものではなく、子どもの気持ちに寄り添ったシューズにできたのです。

過去の、あるいは家族としての「自分目線」に落とし込み、自分が受益者だったとしたら、という想像を働かせることができたからこその大ヒット企画でした。

自分が過去に経験した「自分目線」なら、他の意見や考え方に下手に惑わされることもありません。また、経験に基づいて「面白い」を説明できるのです。

「相場観」で周辺の情報を把握しておくメリット

企画の考え方としてもうひとつ、「相対的に考えてみる」があります。私はこの考え方を「相場観を捉える」と呼んでいます。

例えば、わかりやすい例だと書籍の企画があります。私が「会計」に関わる本を出版社から頼まれたとします。さて、どんな企画を立てるべきか。

もちろん「真の目的」を探り、「ターゲット」を意識し、「自分目線」も考えてみるのですが、もうひとつ大事なことは、周辺相場を探ることだと思っているのです。そのために行うのは、実際の書店で会計の本の売り場に行ってみることです。

書店の会計売り場では、どんな本が売られているのか。どんな本が目立つところに置かれていたり、平積みされていて(つまり、注目されていて)、どんな本が売れているのか。

仮に「真の目的」「ターゲット」「自分目線」からいい企画が出たとしても、すでに書店に同じような本が並んでいるのであれば、意味がありません。もうすでに、同じような本が出ているわけですから、また新たに同じような本を作る必要はないですし、それでは読者には支持されません。

書店の会計売り場に行ってみる

同じような本を作ってもしょうがない

立てなければいけない企画の周辺にヒントがある

一方で、売り場に行けば、つかむことができるものもあります。それは今、会計の分野ではどんな本が求められているのか、どんな本が売れているのか、ということです。これは、企画をする上での大きなヒントになるはずです。

例えば、文字の多い教科書のような本よりは、イラストが散りばめられたライトな本がウケている。そんなことが見えてくるかもしれません。すでに会計について、ある程度、わかっている人向けの本はたくさんあるけれど、会計の入門書的なものは意外に少ない、ということに気づけるかもしれません。

自分が手がけようとしている企画について、「相場」を認識しておくのです。そうすることで、ズレた企画を出さずに済むようになります。また、「相場」は企画書を書く際にもロジックとして使うことができます。

これは他の企画も同じです。例えば商業施設でキャンペーンを行う。その日、他にはどんなキャンペーンが行われる予定があるのか。あるいは、前週、前々週はどうだったか。もっといえば、キャンペーンの会場の付近にはどんなものがあるのか。そうした相場観を探っておいた上で、企画を立てていく必要があるのです。

自分自身も「相場観」に組み込まれている

周辺のさまざまな状況を理解することで培われる「相場観」ですが、ひとつ大事な相場があります。それは、実は自分自身も相場のひとつである、ということです。

企画を立てるとき、自分がどんな位置づけにあるのか。それを理解しておく必要があります。例えば、新入社員が企画を立てるときと、40代のベテラン社員が企画を立てるときには、周囲の受け止め方はまったく違ってくるのです。

40代が新入社員のようなフレッシュな企画を出すことは、なかなか難しいと思います。それは、それなりにいろんなことを知ってしまっているからです。逆にいえば、それなりにいろんなことを知ってしまっている、ということを理解しながら、企画に向き合わないといけない、ともいえます。

ただ、企画は誰かが見るものですから、40代のベテランが新入社員のような企画を立てていたら、どんなふうに相手に映るのか。それは理解しておく必要があると思います。なんだ、こんなこともわからないのか、なんてことになりかねない。やはり40代のベテランにふさわしい企画やロジックが求められると思うのです。

若い社員にしか出せない企画を出せばいい

逆に、新入社員や20代の若い社員には、40代のベテランが出すような企画は実は期待されていないと私は思っています。若い社員にしか出せない企画。いろいろなことを知りすぎていないからこそ、出てくる企画に挑むべきなのです。

絶対にやってはいけないのは、20代の若い社員が背伸びをして40代のベテランが作るような企画を立ててしまおうとすることです。もちろん、優れた企画が出ることにこしたことはありませんが、周囲はそれは求めていない。

むしろ、20代らしい大胆な企画に挑んでほしい、現場に即した20代のフレッシュな人たちにしかできない企画に向かってほしいと思っていると思うのです。

20代の若い人は、若い人なりの企画を

背伸びして、40代のベテランのような企画を出す必要はない

社内であれ、お客さま向けであれ、自分が周囲からどんな「相場観」で見られているか。それを認識しておく必要があります。

このことが理解できれば、自分の身の丈に合わない、背伸びしたロジックも作ることはなくなります。自分なりの「真の目的」「ターゲット」「自分目線」「相場観」から企画を、企画書を構成していけばいいのです。

必要なのは、「創造力」よりも「想像力」

企画をどうやって作るのか、私なりの考え方を書いてきました。世の中では、企画というと「創造力」「クリエイティブ力」といった言葉がイメージされるのかもしれませんが、私はそれは違うと思っています。

求められるのは、「創造力」よりも、むしろ「想像力」なのではないか、と。「真の目的」を想像する力であり、「ターゲット」をイメージする力であり、「自分目線」に落とし込んでいく力であり、「相場観」を広げていくことができる力。

これらは、まったくゼロのものを創造することではありません。イマジネーションを広げていくことで可能になるのです。どのくらい、目的やターゲットや周辺状況について想像ができるか。

むしろ、企画に求められるのは、ロジックなのです。ひらめきや勘が必要ないとは言いませんが、それは最後の最後。それよりも、どうして、その企画なのか、きちんと説明ができることが大切なのです。

では、ロジックとは何か。それを構成しているものがすなわち、「真の目的」であり「ターゲット」であり「自分目線」であり「相場観」だと私は思っています。

これらについて徹底的に「想像力」を働かせることで、ロジックを組み立てていくことができるのです。

 

次回、第4回は、「デスクから離れると企画は考えやすくなる」をお伝えします。

 

 

参考図書

『企画書は10分で書きなさい』

著者:上阪徹

出版社: 方丈社

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