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「大切な人を守ることが難しい世の中になった」 映画『KOTOKO』監督・塚本晋也インタビュー

塚本晋也監督

 『鉄男』『悪夢探偵』――新作が常に国内外で注目され、『ブラック・スワン』のダーレン・アルノフスキーをはじめとする世界の有名監督たちから、熱狂的に支持されている塚本晋也監督。そんな塚本監督が「最も尊敬するシンガソングライター」だと公言する歌姫”Cocco”を主演に迎えた最新作、『KOTOKO』が2012年4月7日に公開される。

 繊細さゆえに、息子を必死で守ろうとする母親が、過剰な防衛本能からときに暴力的になってしまう、というショッキングなシーンがありつつも、作品の根底にあるのは「大切なものを守りたい」という「母親の強さ」だ。Coccoにインタビューを重ね、彼女の実体験などを織り交ぜながら物語に昇華させた本作は、監督曰く「Coccoさんに近づく旅」。Cocco、そして塚本晋也という二人の鬼才が寄り添い、ぶつかり合いながら作り上げた『KOTOKO』は、まさしく二人の魂がこもった「共同作品」に仕上がっているとも言えよう。

 折しも撮影直前に東日本大震災が発生し、一時は撮影を延期しようと思ったこともあるという。本作を「今だからこそ作りたい」と確信した心のうちを、そして映画に込めた思いを語ってもらった。

(武田敦子)

■映画を見終わった後、一瞬は「絶句」する

――この映画の撮影を開始したのは昨年の3月でした。撮影を開始する直前に東日本大震災が起きたとのことですが、映画に影響を与えましたか?

 脚本は、震災の前後で書き変えてはいないです。でも、震災が起こったあとに、自分の周りのお母さんたちが子供のことを心配して、ものすごく神経質になり、エキセントリックになりました。ちょうど琴子が映画の中で子供のことを守るあまりにエキセントリックになるのと、すごく近い感じがして。

 だから、より実感を込めて琴子を描けたと言えるかもしれませんし、今だからこそ「母親たちの不安をきちんと描ける。描くべきだ」と思ったんですね。映画が完成して、「今、不安に思っているお母さんたちに、この映画を見てもらいたい」という気持ちが湧きました。

 また、Coccoさんは震災のあと、ずっと家で折り鶴を折っていました。スタッフもみなCoccoさんの気持ちを受けて折り鶴を折りました。映画の中の大事なポイントで折り鶴が出てくるのは、Coccoさんの提案です。あの折り鶴は彼女の祈りの結晶なんです。また撮影自体も、Coccoさんの強い後押しがあって始められることができました。

――映画の中では、母親が愛する息子を守りたいがあまり他者に暴力的になったり、そのような自分が生きていることを確認したいために自らを傷つけたりするシーンがあります。子供を持つ母親がこの作品を見るのは、精神的に少し辛いと感じましたが・・・

 実は7年間介護していた僕の母親が亡くなったあとに、この映画を作り始めたんです。Coccoさんも一児の母親ですし、ちょうど母が亡くなったあと一周忌までの間に作った映画でもあるので、母親としてのCoccoさんの側面から、Coccoさんの世界に近づく旅であると同時に、母親への「感謝」だとか子育ての大変さへの「エール」のような気持ちがあります。自分としては、子供を持つ母親にかなり共振しながら作った映画なんです。

 ただ、その「お母さん像」っていうのは、テレビやドラマで描かれているような美しくて優しい「子供を愛してるわ」という側面もあるんだけれど、それは母親全体のなかの「あるパーセント」なんですよね。それ以外のパーセントでは、琴子のように過敏になりすぎる側面も絶対にあります。

 もちろん琴子も映画の中で明るい母になるシーンがありますから、その陽の部分と陰の部分をしっかり描いたほうが、きっと共振感があると思ったんです。Coccoさんも、そういう琴子を演ずるのに全霊で関わってくださった。そして、『KOTOKO』を全女性への真の讃歌だと言って、主体的に演じてくださったんです。

 映画を見終わったあと、一瞬は絶句するんだけれど、一方でとても大事なものを感じてもらえるという気がしています。

■「子供が危険にさらされる恐怖」と「母親の隠れた攻撃的な一面」

――塚本監督にとっての「母親観」が、作品に影響を与えているのでしょうか?

 今までの経験や気分があるからこそ作品ができるので、もろに影響はありますよね。

 これまで7年間、母親を介護していた間にできた映画『悪夢探偵2』でもお母さんが出てきたりしますし、「母と子」というテーマはずっとありますね。そもそも自分の作品全体に言えることですが、いつも「母親がいつか消えてしまう恐怖」に満ちているというのがあるんです。「大切な人が消えてしまう」という喪失感に怯えている主人公ばかりが出てきますし。『バレット・バレエ』(2000年)も『ヴィタール』(2004年)もほとんどがそうですね。

――息子を愛しすぎるがゆえに、精神的に不安定になっていく母親・・・こうした琴子という人物を描こうとしたきっかけはなんでしょうか?

 Coccoさんのお話を聞いているうちに浮かび上がってきたストーリーです。たくさんいただいたお話の中からそのことが残ったのは、震災が来る前から「これから大切な人を守るのが難しい世の中になっていく」という激しい恐怖が自分自身の中にあったんです。ボワ~ッとした日常で安穏としていると、急に「戦争」のようなものが顔を出す、という恐怖が。

 今、80歳、90歳くらいの戦争を体験した人たちにインタビューをしているのですが、その人たちに話を聞くと、「100パーセント戦争はあっちゃいけない」と言うんですね。自分が体験しているから。

 だけど戦争を体験していない人が、いろいろな事情から「戦争をそろそろしなきゃいけない」という風に思う意見が多くなってきています。「戦争を始める」と決めた人はいいんですけれど、その戦争に実際に行くのは自分たちの子供の世代なわけですから。子供が危険な目にさらされる、というのが僕の最も恐怖を感じるところなんです。

 この琴子は、過去に暴力を受けていたという設定なんですね。だから普通の人を見ていても、恐ろしいもう一人の同一人物が見えてしまう。これは、Coccoさんが、実際にものが二つに見える、という話から作ったものなんです。

 Coccoさん自身は、恐ろしいもう一人の人物が見えるわけではないのですが・・・。琴子は、映画の中でもう一人の同一人物の「悪意」に襲われますよね。その襲ってくる「悪意」を、「戦争」のイメージに膨らませていったというのが、今回の映画の背景的なテーマでもあります。

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