【ITビジネスマンの寺業計画書】お坊さんのカーライフ

【ITビジネスマンの寺業計画書】お坊さんのカーライフ

お坊さんの日常生活というと、住職という呼称から想像されるようにお寺に住み、お経を誦んだり掃除をしたり時間が来たら鐘を鳴らしたりするもの……と思われる方が多いのではないでしょうか。

実際には日中、月参りやお年忌などの法要で外出している事が多く、お寺にいる時間がそれほど長くあるわけではありません。僕のお寺では、お彼岸やお盆に本堂でおこなう法要を除けば、お檀家さんの家にお伺いして読経することがお坊さんのお勤めと言ってもいいほどです。(※関東や関西などの地域や、宗派の違い、またお寺の形態によって随分違いがあるようです。)

職場=仕事をする場所という意味でいえば、お檀家さんのお仏壇の前が一番長くお勤めをしている場所になります。住まいでもあるお寺からお檀家さんのお宅に通勤させてもらっていると言えるかもしれません。

東京で働いていた頃は主に電車、場合によっては(連日のように)深夜タクシーで帰宅するのが僕の通勤スタイルでした。満員電車に押し込まれる日々の中で悠々自適にマイカー通勤できたらなぁと妄想していました。お坊さんになって、車がメインの交通手段となり、期せずして憧れのマイカー通勤生活を実現することができました。今回は車でのお参りについて触れながら、お坊さんのカーライフをご紹介します。

お坊さんが乗っている車といえば「ベンツ」や「アウディ」などの高級外車を想像されるかもしれませんが、実際の所そんなお坊さんはごく一部。お坊さんにとって本当に必要な車は軽自動車だと思います。地域によっても事情が異なるかもしれませんが、僕の場合、普段お参りさせていただいているのは細い道が入り組んだ村の中です。時間通りにお参りを進めていくためにも、さらには駐車スペースの観点からも、小回りがきく車での移動が不可欠です。

「お坊さんは駐車違反で捕まらない」特別な存在だと聞いたことがありますが、そんな話も先ほどの「ベンツ」同様に都市伝説でしょう。お檀家さんのご自宅に駐車スペースがない場合は、たとえ短い時間であっても最寄りのコインパーキングにしっかり駐車しなければなりません。

さて、車で移動するのはもちろん、歩いてお参りできる距離ではないという理由が第一ですが、加えて色々なものを積んで移動できるということがあります。僕の愛車の運転席をご紹介しましょう。

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お坊さんの運転席
1.ワイパー操作のレバーに数珠をぶら下げています。運転中は腕にかけた数珠が邪魔になるので自然とこの位置にぶら下げるようになりました。小物入れにも予備の数珠をいつくか入れています。慌てて出かけしまって「あ!数珠がない」という時もこれで安心です。

2.日よけのベルト部分に扇子を差してあります。浄土宗のお坊さんが数珠同様に普段持ち歩くもののひとつとして扇子があります。日常的に持ち歩く赤色に加えて、お坊さんのお葬式で利用する白色、身内のお葬式で利用する黒色の3種類をこのように差して収納しています。

3.普段のお参りは1軒あたり15分〜20分程度のお勤めですが、一座一座が真剣勝負で件数が多くなると体力をかなり消耗します。渋滞などで食事時にずれ込んでしまう場合も頻繁にあります。そんな時は車に戻って適宜水分補給や栄養補給。水筒や、簡単に塩分補給ができるナッツなどを常備しています。

4.iPhoneやiPadはもはやお参りには必須のツールです。カーナビを取り付けていますが、住所入力の手間などを考えると、お寺で管理している住所録と連動してグーグルマップで地図が表示できる機能がとても便利です。GPSで自分が移動している地点の情報も表示されますのでカーナビ同様の役割を果たしてくれます。

また突然の訃報やお檀家さんの事情によって急なスケジュールの調整が発生することもあるため、スケジュール機能が威力を発揮します。予定変更が重なるとアナログの手帳では書き込むスペースが足りず、自分でも読めないほどぐちゃぐちゃになってしまいます。グーグルカレンダーで該当する予定を空いている時間帯に移動させることで、スムーズな予定調整が出来るようになりました。出先で予定を変更しても、お寺のパソコンから最新情報を確認できるため、僕が留守にしている時に日程確認のお問い合わせがあった場合も、お寺にいる妻や母親が最新の情報を参照しながら対応できるメリットもあります。

色々なものを積んでおくことが出来るトランクルーム部分にはこれさえあればいつでも駆けつけて読経することができる法具を一式積んでいます。

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お坊さんのトランクルーム
1.浄土宗のお勤めには木魚が欠かせません。木魚がないご自宅にお参りさせていただく場合もありますので持ち歩きできるサイズの木魚を積んでいます。

2.たくさんの方がお集まりになるお年忌などのお勤めでは、皆さんにお焼香をして頂いております。お焼香台や火種になる香炭、お香など一式を積んでおります。移動中にお焼香台が倒れてしまって車が灰だらけになったことがありましたので、今では100円ショップで購入したマジックテープ式の固定グッズを利用するようになりました。お年忌が重なった時もスムーズにお香の補充ができるように、こちらも100円ショップの調味料入れを使っています。

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3.何らかの事情で御塔婆を書く時間が取れなかった、また(あってはなりませんが)持参した御塔婆に誤字があることが分かった場合など、突然のピンチに対応するために経木塔婆と筆のセットを積んでいます。お香典袋やご祝儀袋など、必要なときに手元にないことが多いものも一式揃えております。

4.法衣と洋服一式も必須です。たまたま法務の予定がなく、旅行に出かけている際に訃報が届くことがあります。檀家寺のお坊さんであれば想定の範囲内で対応するべき事案です。ご連絡を受けて、車に戻り、人目を憚りながらも車内で法衣に着替え、そのまま現場へ直行。また逆にお勤めが終わり、そのまま私用で街に出かけることがある場合は洋服に着替えることもあります。

なんだか色々なものが溢れかえっている車内の様子をご紹介させて頂きましたがいかがだったでしょうか?東京から知人が来た時もこのような車でお迎えに上がりますので、「お前の車はお焼香の香りがするね(笑)」と言われてしまいますがそれはもう仕方のないことです。備えあれば憂いなし、どんなときもベストな環境でお勤めさせて頂くための僕なりのお坊さんカーライフなのです。

そんな僕ですが、実は今欲しいのは軽自動車以上に小回りのきく原付自動二輪です。そう、お坊さんといえば…で皆さんが想像される衣姿で袈裟をなびかせスクーターを運転しているお坊さん。これから寒い季節がやってきますので、しばらくは車のほうがいい気もしますが、次の春にはスクーターでより一層「お待たせしないお坊さん」を目指していこうと思います。(半分冗談ですが、あったら便利だろうなぁ)

記事の締めくくりにもう一つだけ、お坊さんが乗っている車の特徴をお話しします。それはナンバープレートに記載された7676という数字です。7676とはナムナム、南無阿弥陀仏の南無南無ですね。すれ違う車で7676ナンバーを見かけたら衣をきたお坊さんが運転している可能性が高いですので要チェックです(笑)。ちなみに私の車のナンバーは尊敬するイチロー選手の背番号51番です。合掌。

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○連載:ITビジネスマンの寺業計画書(『彼岸寺』より)
 

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松島靖朗

松島靖朗:彼岸寺

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