正体不明の巨大生物「プロトタキシーテス」は本当の意味で未知の生物かもしれない!?(彩恵りり)

約4億年前の地球の陸地には、背の高い樹木と呼べるような植物はまだ出現していなかったと考えられているよ。そんな時代において、例外的に背が高かったと言われている生物が「プロトタキシーテス (Prototaxites)」で、なんと高さが8mに達していたと言われているんだよね! 1859年に命名されて以来、プロトタキシーテスの正体は大きな謎とされてきたけど、最近では真菌 (菌類) の仲間、いわば巨大なキノコなのではないか、と考えられてきたんだよね。
しかしエディンバラ大学のCorentin C. Loron氏などの研究チームは、この主張に異を唱える研究結果を発表したよ。プロトタキシーテスは真菌を含め、現在知られているどの生物界に当てはめようとしてもうまく行かないことから、プロトタキシーテスは真菌どころか、現在知られているどの生物の系統にも当てはまらないことが示されたよ! つまりプロトタキシーテスは、「界」レベルで絶滅してしまった未知の真核生物の系統であり、そんな正体不明な生き物が4億年前の地球にいたことを示す貴重な化石が現代まで残ったことになるよ!
※この解説記事の元となった研究は、執筆時点ではプレプリントサーバー「bioRxiv」にのみ投稿されており、査読論文とはなっていません。
高さ8mの巨大な古代の生物「プロトタキシーテス」
今から約4億年前、前期デボン紀の地球の陸地は、おそらく緑色であったと考えられているよ。植物の陸上進出はその前の時代から始まっていたものの、デボン紀前期には水辺から遠く離れた場所でも土壌が発達し、そこに根を張る植物が繁殖するようになり、陸地の広い面積を植物が覆う原始的な森林が発生していた、と考えられているんだよね。
ただし森林と言っても、この頃の植物は背が低く、大半が高さ数cm、大きくても数十cmだったと考えられているよ。高さ数mを超える植物は、早くても中期デボン紀以降になって出現したと考えられているから、私たちがこの時代の地球を眺めても、森林というイメージは抱かないかもしれないね。

【▲図1:プロトタキシーテスは高さ8mという非常に巨大な生物で、4億年前では間違いなく最大の陸上生物の1つだったよ。 (Image Credit: 島宮七月) 】
そんな時代において、例外的に背が高かったとされているのが「プロトタキシーテス属 (Prototaxites)」の仲間だよ。1m超えの高さの植物がいなかった時代において、プロトタキシーテスの高さはなんと8m、最も太い部分は直径1mにも達するとも考えられており、間違いなく4億年前の地球の最大の陸上生物の1つであったと考えられているよ。
プロトタキシーテスの化石は、遅くとも1843年にサー・ジョセフ・ダルトン・フッカーによって最初に発見されたものの、2011年に標本が再発見されるまで長く気づかれていなかったよ。文献に最初に登場したのは1859年、化石を研究したサー・ジョン・ウィリアム・ドーソンの論文の中に登場したよ。
化石を調べたドーソンは、真菌によって部分的に腐敗した針葉樹ではないかと考え、「最初のイチイ」を意味する学名Prototaxitesをつけたんだよね。ただ、プロトタキシーテスの正体はその後1世紀以上に渡って議論の的になり、藻類や地衣類、真菌だとする主張、最大8mというのは高さではなく横向きの長さだという主張、果てはそんな巨大生物自体が幻であり、地面に広がったコケがロールカーペットのようにくるんと巻いたものだ、なんていう主張すらあるんだよね!
ただ、これまでの研究で最も支持されているのは、プロトタキシーテスの正体は真菌だとするものなんだよね。真菌の仲間にはキノコ、カビ、粘菌などがあるけど、目に見える大きさの身体が地面から生えているイメージに一番近いものに喩えれば、プロトタキシーテスは “高さ8mの巨大キノコ” だと言えるかもしれないね。
真菌説は、始めは形態を元に2001年に提唱され、その当時は賛否両論だったよ。しかし2007年にはより具体的な証拠 (炭素の同位体比率) によって、プロトタキシーテスは少なくとも光合成を行う生物であることはあり得ず、土壌中の有機物や生物の死骸を栄養素にしていたのであろうと主張されたよ。光合成を行っていないということは、植物や藻類である可能性が低くなり、一方で様々な有機物や遺骸を栄養素にするということは、これらを分解する真菌に生態が近いことから、この主張は受け入れられるようになってきたよ。
2018年には化石の顕微鏡観察で、胞子を作る子嚢のような構造が確認されたことから、プロトタキシーテスは子嚢菌門 (酵母やアオカビ、冬虫夏草などが属する) の極めて原始的な存在ではないか、という具合に、真菌における具体的な位置づけも提案されたよ。
プロトタキシーテスは少なくとも真菌ではない!
Corentin C. Loron氏などの研究チームは今回、4億700万年前の地層 (ライニーチャート) から産出したプロトタキシーテスの1種「プロトタキシーテス・タイティ (Prototaxites taiti)」の化石を詳細に分析したよ。プロトタキシーテス・タイティは、他のプロトタキシーテス属と比べるとかなり小型で、太さは数cm、高さも1mよりはるかに小さかったと考えられるよ。それでも、この化石の産地で匹敵する生物は見つかっておらず、この地域における最大の生物だったのは間違いないみたい。
まず、化石の断面を顕微鏡で観察してみると、0.2mmから0.6mmの小さなスポンジ状 (髄状) の組織と、0.01mmから0.04mmの細い管がいくつも見られるんだよね。これらは一見すると、カビやキノコと似たような構造に見えるんだけど、詳細に比較してみると、いくつかの特徴は一致しても、残りの特徴が一致しないと、どの真菌に当てはめようとしてもうまく行かないという問題が生じたんだよね。

【▲図2:分析された化石の拡大写真 (h) と、その構造を表した模式図 (i) 。スケールバーは0.05mm。非常に細かい管が複雑に枝分かれしており、その構造は現代のどの真菌にも見られないものだったよ! (Image Credit: Corentin C. Loron, et al. / プレプリントFig.2よりトリミング) 】
また、小さなスポンジ状の組織をさらに拡大して観てみると、それは最小で0.001mmというとても細い管が無数に枝分かれしている構造であることが分かったんだよね。このような特徴は、現代に生息するどの真菌にも見られない、極めて独特な特徴であるとLoron氏らは主張しているよ。
次に、化石に含まれる有機物の化学組成を分析してみたよ。同じ地層に含まれる化石は、同じ変質過程を受けているので、細胞に含まれる有機物も同じように変質するはずだよね。そのため、もしプロトタキシーテスが真菌ならば、同じ地層に含まれる真菌の化石と同じ有機物が見つかるはず、と考えることができるよ。
しかし化学分析の結果は驚くべきものだったよ。現在知られている真菌は、現生種であっても化石種であっても、細胞にキチンかキトサンを含んでいるんだけど、プロトタキシーテスの化石にはその証拠が見られなかったんだよね。また、この地層の真菌化石によく見つかる色素関連化合物も、プロトタキシーテスにおいては全く見つからなかったよ。
以上の結果からLoron氏らは、プロトタキシーテスは真菌の仲間であるとはとても言えないと結論付けているよ。
界レベルで絶滅した生物かもしれない!?

【▲図3:化石に含まれる物質がどの程度似ているかでグラフに置いてみると、プロトタキシーテスはよく知られているどの真核生物とも離れた位置に置かれていることが分かるよね。これらの証拠から、プロトタキシーテスは真菌ではないだけでなく、どの生物とも界レベルで離れていると考えることができるよ! (Image Credit: Corentin C. Loron, et al. / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による) 】
プロトタキシーテスが巨大キノコじゃないとしたら、正体は何だろう? 化学分析の結果として最も近いとされるのは植物や藻類なんだけど、それでもかなり遠いので、とても同じであるとは言えないんだよね。真菌と藻類の合体である地衣類である可能性は、今回の顕微鏡観察によって見られた管状構造からすると当てはまらないと考えられるよ。実はこのナリで動物だった! と言う可能性は、化石に残された細胞の構造から真っ先に否定されるよ。そして、どう見ても多細胞生物なので、原生生物である可能性も否定されるね。
Loron氏らは、プロトタキシーテスをどの生物分類群に当てはめようとしてもうまく行かないことから、プロトタキシーテスは界レベルで全く新しい分類群に属する生物ではないかと考えているよ。つまりプロトタキシーテスは、4億年前の地球にはいたけれど、現在までに界レベルで絶滅してしまった、完全に未知の生物群の存在を示唆しているわけ。正体不明な巨大生物の正体を解き明かそうとしたら、結果として「正体不明」となってしまったというのはなんだかすごいよね!
今のところ、この研究はプレプリント段階だし、小型種の3標本に対する分析結果だから、今のところプロトタキシーテスが完全に未知の系統だとするこの説は大きく覆る余地があるよ。ただ、大昔の地球には化石すら残されていない未知の生物がたくさんいたはずだから、プロトタキシーテスの化石が、界レベルでいなくなってしまった生物群の貴重な物証である可能性は十分にありうるんだよね。
(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)
<参考文献>
Corentin C. Loron, et al. “Prototaxites was an extinct lineage of multicellular terrestrial eukaryotes”. bioRxiv, 2025. DOI: 10.1101/2025.03.14.643340

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