映画「シン・ゴジラ」に学ぶ、非常時におけるベストなチーム編成とは

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(C)2016 TOHO CO.,LTD.

たった一本の映画が人生を変えてしまうことがあります。そんな「運命の映画」には、必ず「刺さるセリフ」があるものです。

映像、音楽、衣装など、総合芸術と呼ばれる映画にはたくさんの見どころがあります。中でも私たちの胸を強く打つのが、登場人物たちが語るセリフ。悩んだとき、落ち込んだとき、人生に足踏みしてるとき。たった一本の映画の、たった一言が、その後の自分を大きく揺さぶることがあるのです。そんな「運命的な映画のセリフ」を、筆者の独断と偏見でお届けするこのコーナー

今回ご紹介するセリフは、この夏、大きな話題となっている『シン・ゴジラ』(2016)から。1954年公開の初代『ゴジラ』以来、何作もシリーズ化され、ハリウッドでもリメイクされた作品の本家日本最新作。アニメ『エヴァンゲリオン』で有名な庵野秀明が脚本・総監督を務めたことでも知られ、その期待感を大きく上回る反響が寄せられています。

『ゴジラ』は一度も観たことがない、という理由から敬遠されるかもしれない本作品。その強烈なビジュアルから怪獣が大暴れするだけのシンプルな映画に思われがちですが、実は私たち日本人がいま考えるべき骨太な社会派ドラマでもありました。劇中で大きな役割を果たす場所、東京は立川の映画館で鑑賞し、びしびしリアリティを感じてきた筆者がお届けします。

※このあと、ややネタバレを含みます。まったくの事前情報なしに作品を楽しまれたい方は、鑑賞後にお読みください。

東京湾上に巨大生物が出現

時は現代。東京湾アクアトンネルが巨大な轟音とともに浸水し、崩落する原因不明の事故が発生。不測の緊急事態に内閣総理大臣はじめ閣僚級のメンバーが首相官邸に集められ、原因の究明と対策を打ち立てるべく話し合いの場がもたれます。

総理に対して各省庁のトップがそれぞれの見解を述べ、原因は地震や海底火山という意見が大勢を占めるなか、内閣官房副長官の矢口蘭堂だけは「何者かが海底にいる可能性があります。巨大な生物と推測します」と指摘。ところが会議では「まさか」と一笑に付されてしまい、内閣総理大臣補佐官の赤坂には「総理レクは先に結論ありきの既定路線だ」とたしなめられる始末。矢口が指摘する通り、実際は「生物」であるというのに。

意思決定の手順を何より優先し、どこか楽観的に事態を見守る閣僚たちの対応が後手後手にまわる一方、のちにゴジラと名づけられることになる巨大生物は東京湾から上陸。圧倒的な破壊力とスピードで蒲田や鎌倉周辺を蹂躙していきます。そうして被害規模が拡大するなか、予測のつかない巨大生物の動きを食い止めるべく、矢口をリーダーとする巨大不明生物特設災害対策本部、略して「巨災対」が急きょ設置されます。

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チームの指針は「査定なし」

役職や手順が重視される閣僚会議とは対照的に、さまざまな肩書きの、さまざまな個性をもつ「くせ者」たちが集められた巨災対。矢口事務局長は開口一番、メンバーたちに対策室の指針を語り始めます。

「本対策室の中では、どう動いても人事査定に影響はない。なので役職・年次・省庁間の縦割りを気にせず、ここでは自由に発言してほしい」

巨災対メンバーの森も補足します。「そもそも出世に無縁な霞が関のはぐれもの、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児。そういった人間の集まりであるからして、気にせず好きにやってくれ」と。

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「出世は男の本懐」と語る者もいる通り、組織に属する者はいかに人事査定のマイナスになることを避け、出世街道を駆け上がれるかを重視する者がほとんど。加点法ではなく減点法で査定されがちな組織においては、突飛なスタンドプレーよりも空気を読んだそつのないチームプレーに終始しがちです。

しかし事態は風雲急を告げています。人智を超えた存在(ゴジラ)と対峙する場面において、個人の出世や降格がちらつくようでは、実のある議論はできません。事務局長はまずそこに釘を刺したと言えるでしょう。「査定なし」を明らかにした上で、忌憚のない「自由な発言」を引き出して、一番の目的である「巨大生物の無力化」をめざす。リーダーの指針は明確でした。

非常時こそ非常識なメンバーを

ゴジラのビルを破壊するほどの巨大なエネルギーは体内の核融合によるものであり、その設定は初代ゴジラから踏襲された「原子力の暗喩」。人類の手に負えないものとどう向き合い、どう付き合うか、ゴジラシリーズはこれまで怪獣映画やパニック映画の体裁で私たちに突きつけてきました。

原点に立ち返った本作も同じことが言えます。政治経済の中心地である東京や、GNP(国民総生産)の40%を占める関東圏を脅かす巨大地震や津波などの非常事態が起きたとき、国はどのように事の対処に当たるべきかを私たちに考えさせる、言わば「災害対策シミュレーション映画」と言えるでしょう。あるいは他国から想定外の侵略を受けた場合の有事対策シミュレーションでもあるのかも。

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劇中で描かれた官邸と巨災対の対比から私たちが学べるとしたら、「平時と非常時は別物」であり、「非常時に必要なのは常識ではなく非常識」ではないでしょうか。役職や年齢、礼儀といった「平時の常識」にとらわれず、一匹狼や問題児など非常識(に見える)メンバーも積極的に取り入れて、いかに自由闊達に知恵を出し合えるか。目標達成のみにフォーカスし、誰の、どんな些細な案でも可能性を信じてくみ上げられる場を用意できるかが事の成否を決めるのだ、と。

私たちが所属する会社やプロジェクトにも非常時は訪れます。毎日が非常時、ということもあるでしょう。そんなとき、私たちは何のために、何を指針に、どのようにふるまうべきなのか。ゴジラの咆哮は私たちに学びと成長の機会をまだまだ与えてくれそうです。

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『シン・ゴジラ』

(C)2016 TOHO CO.,LTD.

2016年7月29日公開

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文:松岡厚志

1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。

イラスト:Mazzo Kattusi

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