「身軽な働き方」を実現するために僕が試したこと —渡り鳥プロジェクト—

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暑い季節は涼しいところへ、寒い季節は暖かいところへ。快適な環境を求めて移動しながら、どこでも同じように働けることをめざす「渡り鳥プロジェクト」。

連載第3回(前回はこちら)は、渡り鳥になるために「身軽になろう」というお話。いつでも飛び立てるように、これまで「重し」になっていたものをいかに取り除いてきたか、進捗を報告していきたいと思います。最近、体も重くなってきたフリーライター兼デザイン会社代表の松岡厚志がお送りします。

仕事道具や環境は、どこまで「軽やか」にできるのか?

すっかり夏になりましたね。僕の事務所にほど近い、東京は井の頭公園でも渡り鳥であるツバメを見かけるのですが、彼らを見ていて気がついたことがあります。それは「彼らは荷物を持ってない」ということ。

当たり前といえば当たり前なのですが、鳥たちは基本的に手ぶらです。元いた場所から衣類や寝具をもってくることはありませんし、思い出のアルバムや捨てられない玩具などは持っていません。もちろん仕事道具もありません。その身ひとつで海を渡ってやってきて、食事や寝床を現地調達するんですね。

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彼らのような生活を真似することは、そもそも羽の生えていない僕たち人間には難しいものです。でも、少しでも彼らに近づくために今ある荷物を減らしたり、軽くすることはできるはず。「渡り鳥」という働き方を実現するには仕事道具や仕事環境を軽やかにしていきましょう、というのが今回の提案です。

僕もできるところから始めています。

FAX自動転送で、外出しやすくなった!

僕が営んでいるデザイン会社は、自社で企画した文房具などを販売するメーカーでもあるのですが、小売店や卸業者からいただく注文のほとんどはFAX経由です。もともとモノを売り買いする業界とは無縁のところにいた身としてはいささか古い手段に感じるのですが、たしかに手書きしたものをカンタンに送れるわけですから、FAXは便利なサービスです。昔からこのやり方に慣れている方々にとっては、別の方法に切り替えるのは煩わしいことでしょう。僕もそこに抗うつもりはありません。

ただそのFAXを、固定電話を設置した事務所でしか受信できないことが個人的に不満でした。外出先で確認することができず、得意先から「さっき注文した件ですけど」と電話があっても「まだ目を通していないんです」と平謝りで返すパターンが多く、おちおちと事務所を空けていられなかったんですね。

そこで先日、FAX付きの複合機を買い替えました。いろいろ検討した結果、brotherの「MFC-J5620CDW」という機種にしたのですが、気に入ったのは「ファクスクラウド転送」という機能が搭載されている点(他社製にも同様の機能があります)。これは受信したFAXをEvernoteやDropboxといったクラウド・ストレージに自動的に転送し、その都度メールで通知してくれるすぐれもの。相手方の送信手段はFAXのまま、こちらはメールで受け取れるわけです。しかも受信内容をネット経由でいつでも参照できる。これでひとつ、「事務所に居なきゃいけない理由」を減らすことができました。

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ちなみに、これからFAXを開設するなら「eFax」を利用するのも一手です。これは市外局番から始まるFAX番号を取得し、そちらに届くFAXをすべてメールで受信できる便利なサービス。送信もメールでできます。わが社は得意先の数が多く、FAX番号を切り替えてすべての得意先に案内したり、新しい番号を名刺に刷り直すのが手間だったので、今ある番号を活かす方法として「複合機で転送」にしましたが、いずれはeFaxに切り替えたいと思っています。

「電話」「書類」「郵便物」も転送できるサービスがあった!

この「外出先に転送する」というのは、渡り鳥になる上で重要なポイントです。必要なものが自分のところに送られて、自分が今いる場所が仕事場になるわけですから。主導権が場所ではなく自分になります。

そこでFAXに限らず、転送できるものはすべて転送設定します。たとえば固定電話もそう。NTTの「ボイスワープ」に加入すれば固定電話にかかってくる着信をケータイに転送できます。通話料は自分持ちになってしまうのですが、それでも自由に動き回れるメリットに比べれば大したことではありません。

もちろん個人事業主などは固定電話を置かずにケータイ一本で事足りるケースもありますが、法人は銀行口座の開設時など固定番号を要求される場面が少なくないため、起業する際は固定電話とケータイを両方用意して「固定電話をケータイに転送する」のがオススメです。僕ももちろん設定しています。

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郵便物も転送できます。郵便局の「転居・転送サービス」を利用すると一年間は新住所に転送してくれます。ただし期限が一年間までなのと、基本的には転居に伴うサービスのため転送をとりやめて元の住所に戻すのに少々手間がかかります。渡り鳥として移動するなら「別の居場所(転送先)を確保している」「一年近く滞在する」の条件が揃っているのであれば検討に値するでしょう。

もうひとつ問題なのは、契約書などの書類です。普段は保存しておくだけで目も通さないけれど、いざとなれば原本が必要になることがまれにある書類をどうするか。基本的にはすべてスキャンしてクラウド・ストレージに入れておく、またはHDDやUSBなどの外部ストレージに保管して持ち歩くと良いのですが、どうしても原本が必要になったときに、それだけのために移動先から戻ってくるのは面倒です。

そこで個人的にも検討したいのが「ミニクラ」という有料の保管サービス。書類に限らず衣類や本、DVDなど一時的に不要なものを箱単位で預けられるのですが、預けるときも取り出すときも送料がかからないので便利です(本稿執筆時点。保管期間が一年未満のものは別途送料が発生します)。これなら事務所でも移動先でもない中継地点のような場所に保管しておけて、必要なときに必要なものだけを取り寄せることができます。これでまたひとつ、場所から解放されます。

僕はすべての書類のデジタル化が完了してから原本を預けたいと思っているのですが、「ミニクラ」には書類を一枚ずつスキャンしてくれるオプション・サービスもあるようです。A4サイズまでの書類一枚につき51円から(本稿執筆時点)ですので、予算に余裕がある場合はこちらを利用すると手っ取り早いでしょう。

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人の手を借りてできることは、自分でやらない!

ミニクラのように外部のサービスを利用して「人の手を借りる」のも、渡り鳥になる上で便利です。対価を払いさえすれば、自分にとって快適な仕事環境は自分で作り出せます。

僕の個人的な例でいうと、先月から商品の出荷業務をやめました。

これまで自社商品の在庫はすべて手元に置いておき、業者に卸す場合やネットショップで買ってくださった個人の方に商品を届ける際は、すべて事務所から自分たちの手で出荷していました。すなわち事務所が倉庫を兼ねていたわけです。これは究極の「重し」でした。注文を受け、納品書を書き、商品を梱包し、集荷に来てくれる運送会社のドライバーさんに手渡すまでの作業を一貫して事務所で行っていたため、ここを離れるわけにはいきませんでした。

たとえば他社に出向いて打ち合わせをするとなったとき、「17時半に集荷が来るからそれまでに帰らなきゃ」と、常に時間を気にしていたものです。毎日来られるドライバーさんとは日ごろから意思疎通ができていたため、事務所の軒先にその日の荷物を置いて、電話でその旨を伝えれば「依頼主不在」でも(好意で)集荷してくれましたが、そうはいっても梱包などの準備があり、事務所を終日空けるわけにはいかなかったのです。

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このままではいけない、と思いました。もっと自由に出歩いて次の新商品のヒントをつかんだり、積極的に人と会ったりするなどフットワークを軽くしなければ、ジリ貧になると危機感を覚えました。そうでなくても出荷業務ばかりに時間を取られ、もっとも大事な商品開発の時間を確保できていなかったのです。

そこで決断したのが「出荷業務の外部化」。創業7年目にして、とうとう倉庫を別にして、これまで自分たちだけでやっていた出荷業務を外部にお任せすることにしました。まだ移行期間中につき、納品書を作成するなどの受注処理はこちらで行っているのですが、いずれは出荷にまつわるすべての業務を委託して、自分たちは商品開発に専念したいと思っています。

さあ、これで事務所に積まれていた在庫が目の前から消えて、「重し」がなくなりました。委託先に電話やメールで指示するだけで、これまでと同じように商品を出荷できています。たとえ僕が動物園にいても、アラスカにいても、ネットさえつながれば変わらず仕事ができる環境が整いました。

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Light and Flight

FAX、電話、書類、そして在庫。いずれも「外部」と「転送」を駆使して、仕事まわりは飛び立つ準備ができました。

大切なのは、場所にとらわれないこと。「そこに居なければならない理由」をひとつずつ取り除くこと。どこでも仕事ができるようになるためには、そこでしかできない仕事をなくし、場所から解放されること。

最後に渡り鳥になる基本的な心構えとして、「Light and Flight」という言葉を提唱したいと思います。身軽になって、自由に飛び立ちましょう。そう、荷物を持たないツバメのように。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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文:松岡厚志

1978年生まれ、ライター。デザイン会社「ハイモジモジ」代表。主な移動手段は電車と自転車。バイク並にタイヤが太い「FAT BIKE」で保育園の送り迎えを担当し、通りすがりの小学生に「タイヤでっか!」と後ろ指をさされる日々。

イラスト:Mazzo Kattusi

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