直球ハートウォーミングな駅伝小説〜堂場瞬一『チームII』
青山学院大学圧勝のうちに終了した今年の箱根駅伝、関東学生連合チームの健闘も印象に残った大会だった。とはいえ箱根駅伝に興味のない方にとっては、青学の優勝についてはニュースで目にしていたとしても、学生連合の何たるかまではご存じないかもしれない。箱根駅伝に出場できるのは以下。前年の本大会でシード権を獲得していた大学。秋の予選会で好成績を残した大学。そして、予選会で出場権を獲得できなかった大学の中から優秀な個人成績を収めた選手を集めて構成されるチーム。それが学生連合だ(以前は「学連選抜」という名称だった)。学連選抜チームの戦いを熱く描いて感動を呼んだのが前作『チーム』。本書はその7年後の物語である(刊行からちょっと時間が経っているのですが、冬は駅伝・マラソンシーズンたけなわの季節ということで、ご紹介させてください)。
山城悟は日本最高記録を持つマラソン選手。しかしケガに悩まされ、ここ何年かはきついトレーニングとレースから遠ざかっている。さらに所属する企業の陸上部が廃部することになり、今後の身の振り方を真剣に考えなければならない状況に追い込まれていた。浦大地は城南大陸上競技部の監督。今年の箱根駅伝予選会での成績は11位。予選会でシード権を逃した中でトップの大学の監督が学生連合チームを率いることになるため、彼がその任を負うことになった。城南大と学生連合の両方を指導しなければならないというプレッシャーをひしひしと感じている。自信家で他人の気持ちなど考えようとしない山城と、周りの人間を気遣いつい世話を焼いてしまう浦。対照的なふたりの共通点、それは7年前の学連選抜でチームメイトとして箱根を走ったということだった…。
なんというか、性悪説という言葉がこの世にあることを忘れてしまいそうなストーリー展開。この読み心地って何だっけ、と考えたらおとぎ話に似ているのだった。いや、人間の感じ悪いところや計算高いところも描かれているし、単なるめでたしめでたしな話にはなっていないのだけれど、それでも昨今こんな直球のハートウォーミングさってあるだろうか(だって、チームメイト時代にも超鼻持ちならないやつで気遣いのひとつも見せたことのない山城の窮地を救うため、自分の仕事に差し障りが出ることも厭わず「チーム山城」を立ち上げて支援の手をさしのべる人物が続々出てきちゃうんですから!)。
駅伝はチームスポーツではあるが、個人競技としての側面も大きい(卓球や剣道の団体戦などもそうだろう)。駅伝はマラソンを走るための調整でしかなく個人個人がベストタイムで走ればいいだけと考える山城と、チームとしての一体感や仲間のために走ることに重きを置く浦では、そもそもの考え方に相違があるのだ。それらはたぶんどちらも正しいのだろう。それぞれに自分の信じるところがあり、そのうえで相手の考え方も認め合えるのが真のチームメイトといえるのではないだろうか。他者の気持ちを慮ることとは無縁だった山城が、浦や7年前の学連選抜に関わった人々と向き合うことでどう変わっていったか。また、廃部になる所属チームで最後に駅伝を走ってくれと監督から頼まれた山城が下した判断とは。そして、ラストランとして目標を定めていた五輪記念マラソンに出場するのか否か。ぜひお読みになって確かめてみてください。
著者の堂場瞬一氏は、警察小説とスポーツ小説の両ジャンルを軸として、これまでに数々の作品を発表されている(解説によれば、本書は98冊目の作品だそうだ)。この文章を読んで興味を持たれた方はまず前作『チーム』から、他に長距離競技を描いた『キング』『ヒート』(以上、いずれも実業之日本社文庫)へもぜひ手を伸ばしていただければと思う。そうすれば、今後さらに駅伝・マラソン観戦を楽しめること間違いなし。次の箱根駅伝まであとたった350日くらいですよ!
(松井ゆかり)
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