高校中退どん底フリーター → 年商8000万円の会社社長に! プレスラボ代表が語る制作チームがみんな幸せになるマネジメント術

2008年の創業当時から「Webに特化した編集プロダクション」としての方針を打ち出し、8年目を迎える現在も、売上の95%がウェブコンテンツ制作で成り立っている編集プロダクション・プレスラボ。

昨今のコンテンツマーケティングおよびオウンドメディアブームにより追い風が吹いていると言われるコンテンツ業界だが、代表の梅田カズヒコさんは冷静に現在の市場と自社を見つめる。創業8年目を迎えた編集プロダクションの代表に、そのマネジメント術を聞いた。

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梅田カズヒコさん/株式会社プレスラボ代表取締役社長

1981年生まれ。高校卒業後、フリーライターとして、Quick Japanや、WEBメディア黎明期のデイリーポータルZ、フリーマガジンR25などで記事を執筆。その後、編集プロダクション勤務を経てプレスラボを創業。主にWEBニュースサイトの編集やコンテンツ企画・運用(オウンドメディアなど)、ライティング、インタビュー、コラム執筆、WEB PRプランニング、ソーシャルアカウント運用などを行う。

不登校、高校中退、腐ったレタスをちぎって食べたフリーター時代

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「トラブルだらけの人生だから、だいたいのことは慣れっこなんです。僕の人生最大のトラブルは、17歳のときに通っていた大阪の進学高校の雰囲気になじめなくて中退したこと。かつてのクラスメイトが高校に通う風景をアパートから眺めていて、僕は人生のレールを踏み外してしまったんだと認識しました。そのあとパソコンで調べて、週3日の登校と定期テストさえ受ければ卒業できる通信制の高校の存在を知りました」

ピンチを救ったのが、パソコンで見つけたインターネット上の情報だというのが、その後の運命を暗示しているよう。会社経営をしていくなかでトラブルや挫折はなかったのかと尋ねると、梅田さんはこう答える。

「高校を中退した経験は、今ならたいしたことないと言えるかもしれませんが、当時の僕には人生が終わってしまうぐらいのキツい経験でした。でも、考えてみれば、僕の人生はそういう挫折の連続で。僕は周りからよくポジティブだって言われるんですけど、決してそんなつもりはなくて、ただ世の中にあまり期待していないというか……『ああ、そんなトラブルもあるよね』くらいに思うことが多いんです。悲観と楽観は時に反転するんですよ」

大阪の私立高校に通うために一人暮らしをしたものの、2年で中退。そこから通信制の高校に通い直し、さらに吉本興業の養成所の門を叩いたが、どれもうまくいかなかった。

「でも、お笑いのネタを考えるのは楽しかったし、コントや漫才の台本を書く作業はわりと好きでした。友達が作ったネタを添削したりとか。いま思えばそのときから『書くこと』に興味・関心が強かったし、クリエイティブなことをして生きていきたかったんだと思います」

当時は親に頼るのもなんとなく申し訳なく、仕送りもないなかで極貧生活を送った。家賃も滞納、公共料金もコンビニでは支払いできないぐらいの滞納生活に追い込まれた。

冷蔵庫のなかに、明らかに腐っているレタスがあったんですけど、そのレタスの葉を丁寧に削いで、食べられる部分がどこかにないかと探しているときに、友達に呆れられました(笑)。派遣のバイトをしていたんですが、派遣先の工場に行く電車賃がなくて、早朝のバイトだったので前の日の夜中に自転車に乗って工場の入り口で野宿したこともありましたね」

しかしこのときの経験で、「お金はものすごく大事」「どんなにいやなやつでもおごってくれる人間のことは最大限褒めちぎる」「なるべく安い価格で高カロリーな食材を取るために、エクセルに食べ物の価格表とカロリー表をつける」などの、社会性や技能を身につけていったと言う。

上京後、仕事の変化に合わせるように起業することに

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漠然とクリエイティブな仕事にあこがれ、原稿を書くことがなんとなく自分にむいているのではないかと思い始めた頃に、転機が訪れた。周囲のカメラマン志望やデザイナー志望、イラストレーター志望を集めて自費出版のフリーペーパーを発行してみたところ、その文章を読んだ人が、テープ起こしや簡単なまとめ記事などの仕事をくれた。都合上、名刺が必要となり、フリーライターの名刺を作ることになる。

ライター同士の横のネットワークも増えてきた頃、上京した友達のほうが仕事にありつけていることに気づき、2004年に上京。デイリーポータルZ、R25、クイックジャパンなどのメジャー誌やポータルサイトで原稿を書く仕事を始める。

着々と仕事を受けながらも、不安はあった。「キャリアの長いライターには実力では勝てない」とも思い知った。修業を兼ねて2006年に編集プロダクションに入社。会社員ライターとしてスキルを身に付けつつ、副業としてフリーとしても活動していると、ニュースサイト「下北沢経済新聞」の編集長を任された。

なんとなく『現場でずっと編集やライターをやっていくのかな、この仕事がいつまで続くか不安だな』と思っていた矢先のオファーだったので、編集長という肩書きにはぐっとくるものがあって(笑)、引き受けることになりました。2007年のことですね。そのあと、8年ぐらいやって、今年の11月1日から『下北沢経済新聞』は博報堂ケトルさんに運営を引き継ぎました」

編集長として媒体の制作を指揮するなかで、働き方にも変化が現れた。

「当時勤めていた編集プロダクションには長くは居られないだろうという予感があって、再び独立することを考えていました。ところが、編集長としてライターに原稿を依頼するという業務を考えると、会社を作ったほうが何かとやりやすそうだ、ということに思い立ったんです。会社を辞めたらまたフリーランスに戻るのかと思ったので、同じことをまたやるのも癪なので、ほかの選択肢はないのか考えてみたところ、起業するのはアリかなと思いました」

高校を中退した17歳の少年は、一歩一歩キャリアを積んでいくなかで社長という道を進むことになった。26歳のことだった。

品質を営業力に変えて走り続けた8年

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創業から8年目を迎える同社だが、編集プロダクションという昔から多数存在するビジネスモデルの中で、これまで何を強みにしてきたのだろうか。

「会社経営を永続させる方法は2種類しかないと思っています。一つは会社のサービスに新規性、独自性がある。もう一つは、革新性はないけど営業力がある。このどちらかがあれば、会社はとりあえずやっていけます。起業家は前者を目指すけど、僕のやってきたことを冷静に分析すると後者ですね。

ただ、弊社は2008年の起業当時に、『ネットを中心にやっていく』という方針を決めたのがよかった。『Webの編プロ』というのが当時はほとんどなかったので、そこは一つの強みになってくれました。ただ、それは新規性と言えるほど立派なものではなかったですね。

弊社がその後も生き残れた理由は2つあると思っています。まず、制作物のクオリティがWebにしては高かったこと。そして、みんなに見てもらえるインターネット上で公開できたことにあると思っています。記事をプレスラボの署名で掲載してもらうことができたので、それがそのまま営業ツールになりました。最初からWebに特化したことで、Google検索で『編集プロダクション』と打つと弊社が上のほうに来ることも追い風になりました」

高いクオリティを保つ上で必要なことはなんだろうか?

「それは僕の問題ではなくて、過去や今の社員、お願いしているフリーランスのライターやカメラマン、デザイナーが頑張ってきたからです。仕事に関わってくれた皆さんのおかげです。僕は何もしていません(笑)。あと、強いて言えば、役員の小川たまかの存在が大きかったと思います。『プレスラボという会社として記事を出すときには、高いクオリティを維持したい』という強いこだわりが彼女にはあったので。当たり前なことですが、制作物のクオリティが高いということは、回りまわって会社の魅力になるんですね。社員もすごく良かった。会社が注目を集める時期に、安定して良質な記事を書いてくれた宮崎智之(現フリーライター)とか、ネットでいかにバズらせるか、みたいな課題を持ってTwitterで人気を集めたカツセマサヒコとか、そういう巡り合わせでものすごく恵まれた。

また、弊社をただの下請けではなく、パートナーと感じてくれる素晴らしいクライアントにも恵まれました。どんなに優秀なスタッフがいても、クライアントがとんちんかんだといいコンテンツはできないですからね(笑)」

「記事が掲載されているのを見て、うちでもお願いしたい」といった問い合わせが増えていくのを見て、高い品質がそのまま営業力となることを実感したと言う。

良質なコンテンツを作るために事業会社とクリエイターに中立的な立場をとる

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コンテンツマーケティングやオウンドメディアが注目されて久しいが、梅田さんは良質な記事コンテンツを作るうえで重要なのは「ライターが夢中になれること」だと話す。

「ライターという職業は、なんでもうまく書く人と思われるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。興味がないことをライターが書こうとすると、やっぱりそれが文章にも出てしまう。大事なのは、その人の資質を見破ることですね。もちろん、どんなジャンルでもきちんと文章にできる人も中にはいますが、それは本当に一握りで、ライターというものは自分の強みがあったり、興味があることにチャレンジしたほうが価値を生みやすい。

もちろん仕事なので、書きたくないものを書かなければいけないときもあると思うんですけれど、編集者というポジションはその作品に関わる人みんなに楽しんでもらったり、頑張ってもらったりして、納品・公開までつなげる役割がある。そのなかで『この人、満足しているのかな?』という配慮の気持ちを持つことが大事だと思うんです。ライターの不満もロクに聞けないのに、編集長という肩書きを名乗ってはいけないのでは」

クライアントのいる仕事で、プロダクション(外部)の編集者として案件に関わると言うことは、板挟みに悩むことも多いのではないだろうか?

「よく聞く愚痴が、クライアントに寄り添うべきか、クリエイターに寄り添うべきかという話。『どちら側』という話がそもそもおかしいと思っています。目標は、その案件がうまくいくこと、そのコンテンツが最高の形で公開されることだけ。そのためには、ときに発注側のクライアントに折れてもらうよう説得するときもありますし、ライターに頑張ってもらうしかないと思うときもある。どちらかの立場に寄り添うべきではなく、プロジェクト単位で正しい方向に導くのが編集プロダクションの役目だと思っています」

「楽しくやりたい」に集約されるコンテンツの未来

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複数のオウンドメディアが立ち上がり、その効果も千差万別になっているが、オウンドメディアの運営で大切なことは強固なコンセプトだと語る。

オウンドメディアだけに限った話ではないですが、誰に見られたいのか、何がゴールなのか、そのコンセプト決めがより大事になってきてると思います。とても極端な例ですが、ある会社で就職希望者が5名ほしいというオーダーを受けてコンテンツを作ったとき、もしも5人が見て5人とも就職を希望したら、PV数は最悪5でも目的は達成されるわけです。

ネットコンテンツは今後もターゲットが細分化されていくと思うから、オウンドメディアにしろ、記事広告にしろ、コンセプトをより細かく設定して、届けたい人に届ける努力をすることが、今後作り手に求められるスキルだと思っています。単に面白いコンテンツなんじゃなくて、誰にとって面白い必要があるのか、と考えることですね。

変化していく一方で、コンテンツそのものはずっとなくならないと思っています。人が何かを読みたい、知識を得たいと思う欲求はなくならないはずですから。時代によって『今はフェイスブックが勢いあるな』とか『今はインスタグラムだな』という流行はあると思うんですけど、でもコンテンツを欲しがる欲求自体は、昔から変わっていない。そのことを忘れてはいけないとも思います」

新たなコンテンツが加速度的に増えていく昨今だが、プレスラボとして今後どのように舵を切っていくつもりか聞いてみると、一見楽観的な答えが返ってきた。

一言で言うなら、楽しくやっていきたいですね。人間が仕事に費やす時間って、寝ている時間より長いし、やりたくない仕事で大金持ちになっても達成感は薄いと思うんです。それよりもきちんとやりたい仕事を回していきたいって思っています。

コンテンツって爆発的に儲かったり、結果が簡単に出たりするものではないと思うし、楽しむ姿勢っていうのは、それを作る人たちだけでなく、メディアを運営している人や、その周りの人たちも含めて必要だと思っていて。読み手も含めてみんなが『楽しい』って思えるのが理想なんです。もちろん仕事ですからKPIなどはあるんですけど、みんなが楽しくて満足できた企画は、きっとKPIとはまた別の価値、『やってよかったな』って思える何かを生んで、そのときすぐにリターンがなかったとしても、それがまた別の成功事例を生んでくれると思うので。関わった作り手、読み手が楽しめるような仕事を積極的に作っていく会社にしたいと思っています」

まだコンテンツマーケティングやオウンドメディアの流行は続きそうだが、そこに「楽しい」という発想を持てている作り手はどれほどいるのだろうか。コンテンツ業界の未来が少しでも「楽しい」ものになることを願う。

文・関口光太

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