Katy Goodman(La Sera)インタビュー
昨年、惜しまれながらも解散したニューヨークの女性バンド、ヴィヴィアン・ガールズ。そのメンバーのひとり、ケイティ・グッドマンの新たなプロジェクトが、このラ・セラだ。ヴィヴィアン・ガールズ譲りのアグレッシヴなガレージ・ロック・サウンド。それとコントラストをなすスウィートなメロディと、軽やかに駆け抜けるケイティのヴォーカル&コーラス。昨年リリースされた3rdアルバム『Hour of the Dawn』のコンセプトは、ケイティいわく「レスリー・ゴーアがブラック・フラッグをバックに歌っているような作品」。60年代のガールズ・ポップと80年代のハードコア・パンクのユニゾンを思い描いたそのイメージは、まさにラ・セラの音楽的な世界観、そして何よりケイティ本人のルックスも含めた佇まいにふさわしい。今夏、ラ・セラとしては初となる来日公演を行なったケイティに、大好きな音楽のこと、そして意外な過去と実生活について、さらにはレコーディングが終わったばかりというニュー・アルバム(!)の話を聞いた。
―日本に来るのは何回目ですか?
ケイティ「今回で3回目よ」
―日本に来たら必ず立ち寄る店とかあります?
ケイティ「東急ハンズとか、あとファミマとか。おにぎりを買いに」
―ファミマは日本だけなんだ?
ケイティ「あ、そう言えばサンタモニカに一軒あった。それは日本のコンビニみたいな感じでおにぎりも買えるの。ただ、アメリカのセブンイレブンは日本のコンビニとは違ってて、おにぎりは売ってないから。サンタモニカのファミマは日本にあるファミマみたいんだよ」
―レコード・ショップを回ったりは?
ケイティ「まあ、ちょっとはね。でも、基本的にツアー中に買い物するのが好きじゃないんだよね。移動のとき大変になるから。レコードはしかもかさ張るしね。あ、でも、洋服を買うのは好きだよ。ただ、背が高いから日本では自分に合うサイズを見つけるのが難しいんだよね」
―勝手なイメージですけど、ケイティって新しいレコードをマメにチェックするというよりは、好きなレコードを擦り切れるまで何度も聴くってタイプなのかな?と。
ケイティ「たしかにそんな感じかもね。昔の音楽の方が好きだから。やっぱり名作っていうだけあるっていうか」
―データで音楽を聴いたりはしない?
ケイティ「レコードのほうが好きなんだけど、車を運転してるときとかはデジタルで聴いてる。アナログは決して便利ではないからね」
―去年出たアルバム『Hour of the Dawn』のイメージについて、「レスリー・ゴーアがブラック・フラッグをバックに歌っているような作品」って話していましたよね。
ケイティ「あはははは、そう言えばそんなこと言ってたなあ……すっかり忘れてたけど(笑)。たしかツイートしたんだよね。アルバムの中の“Losing To The Dark”って曲をミックスしてるときに、なんかそんなイメージがパッと浮かんできて」
―じゃあ、あれは事前に描いていたコンセプトではなくて、作り終えた後に沸き上がったイメージだったんですね?
ケイティ「そう、完成したものを聴いて思いついて。『あ、なんかレスリー・ゴアがブラック・フラッグをバックにしてるみたいだな』って」
―「ナンシー・シナトラがミニットメンをバックに歌っている」っていうアイデアだったらどうなってたんだろう?とか勝手に想像したりしてたんですけど(笑)。
ケイティ「あははははは、いいじゃん(笑)、それもアリだね!」
―レスリー・ゴーアと言えば、今年亡くなられましたよね。
ケイティ「そうだよね」
―僕は“涙のバースデイ・パーティ“みたいな代表曲しか知らないんですけど、昔からレスリー・ゴーアは好きだったんですか?
ケイティ「レスリー・ゴーアも私も同じニュージャージー出身だからね。ジャージー・ガール(ニュージャージー出身の女性)ってとこでは一緒。“You Don’t Own Me”とかね。♪(歌い出す)ユ・ドント・オウン・ミー〜、とか大好き。(歌い続ける)……」
―そうしたレスリー・ゴーアみたいなメロディアスでポップな要素と、かたやブラック・フラッグみたいなハードでアグレッシヴな要素が互いの良さを引き立てているみたいなところって、ヴィヴィアン・ガールズにも通じるテイストでもありますよね?
ケイティ「意図的にそうしてるわけじゃないけど、自分が一番好きで得意な組み合わせではあるわね。歌い方にしても、もともとああいう歌い方しかできないから、好きとか嫌いとか関係なしにああなっちゃうのよね」
―ハードなだけでも、スウィートなだけでも物足りない?
ケイティ「たぶんだけど、スウィートな音楽って、どうしても甘くなり過ぎる傾向にあるのよね。それと私が普通に歌い方も、甘くなり過ぎる傾向にあるし。そこは自分でもすごく意識してる。曲がスイートな上に歌い方までスウィートだったら、甘々になっちゃうからね。だから歌詞はわざと意地悪なものにしたり、あえて甘くない要素を取り入れたりしてる」
―そこの匙加減は意識的なんですね。ところで、最近ニュースで知ったんですけど、いま音楽活動とは別にプログラマーの仕事をされていて、また大学でコンピューター系の学問を学ばれているとか?
ケイティ「昔からコンピューターが好きで、学生時代には物理を専攻して学位も取ってるしね。ただ、教師になるのはイヤで。コンピューター・サイエンスと物理学はすごく似てるところもあるし、コンピューターを使うことは今の仕事も通じるし。もともとそういうのが好きなんだよね。問題を解決するのが好きっていうか。問題点を見つけて解決するっていうのかな。問題解決に取り組むって、コンピューター・サイエンスの基本だからね」
―なるほど。けど、正直意外でした。
ケイティ「たしかにミュージシャンとしての印象が強いかもしれないけど、音楽をやる前は物理を勉強していたわけだしね。そこからミュージシャンになり、コンピューター・プログラマーになったっていう感じだから、自分ではぜんぜん意外でもないんだよね」
―ヴィヴィアン・ガールズの頃から、いずれコンピューター・プログラミングみたいなことをやってみたいって考えてたんですか?
ケイティ「そうね、なんとなく、将来そういう方向に行くんじゃないかなってことは考えてたのかも。ヴィヴィアン・ガールズ時代にRubyっていうコンピューター・プログラミングを勉強してたしね。それが4年前くらいで。そのときは完全に個人的な趣味としてやってて、学校に通ってたわけじゃないんだけどね。自分で開発したコンピューター・ゲームで、MTVのインターネット・アワードを受賞したりもしたんだよ」
―いつのことですか?
ケイティ「2011年とか2012年じゃなかったっけかな。カニエに勝ったっていう(笑)。最優秀デジタル企業家賞とかいって、カニエ・ウエストとかニコラス・ジャーとザ・ウェーヴスがノミネートされてる中で、私が勝ったんだよ(笑)」
―ヘー。じつは最初にそのニュースを聞いたとき、好きな音楽を続けるために手に職をつけるみたいな、そういった意味もあってプログラマーの仕事を始めたのかと思ったのですが。
ケイティ「うーん、まあ、結果的にそうなってる部分もあるのかな。音楽での収入って、出たり入ったりで、なかなか安定しないから。それがコンピューター・プログラミングの仕事なら、家や、最悪ツアー先とかでもできるしね。音楽からしか収入がないときによりも心強いってことはあるよね」
―ちなみに、今後、ビョークみたいにアプリでアルバムを発表したり、エレクトロニック・ミュージックをやったりとかっていう可能性もあります?
ケイティ「全然。最近ニュー・アルバムをレコーディングしたばかりなんだけけど、全部アナログで録ってるし。自分の作品は昔ながらの方法で作っていきたいの」
―来日公演ではレインコーツと共演されたんですよね?
ケイティ「超最高だったよ! (日本語で)タノシイ!!って感じ(笑)? ジーナ(・バーチ)と会ったんだけど、すごくいい人で、楽しい人でさ。ライヴ中に私がお客さんの中を練り歩くのと見てて、『私には絶対真似できない!』って言ってた(笑)」
―ある世代にとってレインコーツは伝説なバンドであるように、今の世代にとってはヴィヴィアン・ガールズもそういう存在のバンドだと思うんですね。そういう声をファンから直接聞く機会はないですか?
ケイティ「まだ解散して1年だから、再結成するには早すぎるんじゃないかな(笑)。でも、またいつか一緒にステージに立つ日が来ると思う」
―「ヴィヴィアン・ガールズのライヴが観たい!」ってファンに言われたり?
ケイティ「たまにあるよね。最近ヴィヴィアン・ガールズについて知ったファンから、『生で一回もライヴ観れなかった!』ってフェイスブックとかでコメントされると、申し訳ないなあとは思うけど。でも、これまで8年も一緒に頑張ってきたんだからね」
―まあ、レインコーツもスリーター・キニーもまさか再結成するとは思わなかったですもんね。
ケイティ「私たちもそのうち再結成するかもよ。来年くらいにね(笑)、それはないか(笑)」
―(笑)ケイティにとってヴィヴィアン・ガールズってバンドは、どんな時代、どんな時間を過ごした場所だと言えますか?
ケイティ「そうね、素晴らしい時代だったわよ。一緒に世界を見ることができたし、さんざんツアーしてね。うん、それはすごく良い思い出」
―最後に、先ほど話に出たニュー・アルバムについて教えてもらえますか? どんな感じのアルバムになりそう?
ケイティ「そうなの、ライアン・アダムスにプロデュースしてもらってるのよ。ライアンのスタジオでずっとレコーディングしててね。私もライアンもスミスの『ミート・イズ・マーダー』が好きだから、あんな感じのアルバムになるのかもしれない。スミスっぽい感じというか」
―それって、歌詞が内省的だったり、皮肉が利いててって感じ?
ケイティ「少しはそうなるのかな(笑)」
―ところで、今ってLAで生活されてるんですか?
ケイティ「そうね」
―やはり環境的にニューヨークに住んでたときとは全然違うものですか?
ケイティ「ニューヨークよりもいい感じ。あったかいし」
―そういう空気や生活感って音楽にも反映されるものですか?
ケイティ「どうなんだろう? 音楽のことはわからないけど、とりあえずLAのほうが好き。自分に馴染むっていうか」
―とてもいい場所なんですね、いまのケイティにとって。ニュー・アルバムを楽しみにしてます。
ケイティ「サンキュー。(日本語で)オツカレサマデシタ!」
撮影 三島タカユキ/photo Takayuki Mishima
取材・文 天井潤之介/interview & text Junnosuke Amai
企画・編集 桑原亮子/produce & edit Ryoko Kuwahara
La Sera
2014年に解散した人気USインディー・ガールズバンド、Vivian Girls(ヴィヴィアン・ガールズ)のベース& ボーカルとして知られる、Katy Goodman(ケイティー・グッドマン)のソロプロジェクト。2009年にヴィヴィアン・ガールズと平行しながらソロアーティストとして曲を書きはじめ、 2010年米Hardly Artレーベルと契約。以来<ラ・セラ>として2枚のシングルと3枚のフルアルバムをリリース。50年代~60年代のポップスからの影響をバックグランドに、初期のレイドバックしたガレージ・ロックサウンドから、アルバムごとにスケールアップを果たし、ギタリスト/プロデューサーのトッド・ワイゼンベイカーを中心とする新たなバンドと共に制作された最新アルバム 『Hour of the Dawn』(2014年)では激しいギターサウンドと美しいコーラスワークに彩られたドリーミーなパワーポップを展開。USインディーロックシーンのクイーンへと着実にステップアップするケイティー・グッドマンの最高傑作と評されている。
http://iamkatygoodman.com
https://www.polyvinylrecords.com/#store/la_sera_music_for_listening_to_music_to
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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