誰かのために描くことを意識すると作品に愛が入る ——アノヒトの読書遍歴:のぶみさん(後編)
1999年にデビューした、絵本作家ののぶみさん。今年7月には『ママがおばけになっちゃった!』を出版、これまでに手がけた作品数は160作品にものぼります。そんな、のぶみさん、高校生まではなんとチーマーだったといいます。のぶみさんが絵本作家になったきっかけはなんだったのでしょうか。前編に引き続いてお話を伺いました。
——絵本作家になったきっかけはなんだったのでしょうか?
「専門学校時代に今の奥さんと出会って、彼女のために絵本を描いたのがきっかけなんです。僕、高校のときはチーマーで(笑)。卒業後は優しい女の子がいっぱいいるだろうっていう理由から保育士の専門学校に進むんです。もちろん保育士になろうと思っていたわけではなく。学校には金髪でヒップホップ系の格好で通って。『俺、絵本描いてるぜ』なんてその奥さんの前で大ぼら吹いたんです。で、その日の帰りに画材を買いに行って絵本を描いて。次の日にそれを彼女に見せにいったら、おもしろいなんていってくれて。絵はへたくそだったんですが、今まで人に誉められたことがなかったのですごく嬉しかったんですよね。もっと彼女と話したいなと思ってそこから毎日絵本を描いて持っていったんです」
——今の奥さんを喜ばせるために描いたのが絵本作家のはじまりだったのですね。
「はい。それで彼女にいろんな本を見せていく中で、僕のデビュー作になる『ぼくとなべお』は、彼女が本になるって言ってくれた、それほどできのよかった作品なんです。僕は最初そう思わなかったんですけど、のちにNHK教育番組でも放送されることになります。ストーリーは、小学校での主人公となべおのお話。なべおは普通の子なんですが、なべみたいな人間で主人公の前に突然現れるんです。はっきり言ってなんのメッセージ性もないんですが、なぜかこれがすごくヒットしまして。作中から引用すると、『なべおはよく居眠りをする、疲れているのかな。あ、カツラ! そのとき僕は目を疑った。なべおの頭の中にホワイトシチューが入っていた』という感じのほんわかした内容です」
——この作品ではなべをモチーフにしたキャラクターが登場するんですね。
「そうですね。この作品から7年後に出した『しんかんくんうちにくる』では、新幹線のしんかんくんが登場します。主人公のかんたろうが東京駅に毎日しんかんくんに会いにいくというストーリーなんですが、ある日を境にかんたろうが行かなくなってしまうんです。今度は、心配になったしんかんくんがかんたろうに会いにいくために電車に乗ろうとするんですが、ほかの電車を潰してしまうし、じゃあ今度は道を歩こうと思ってもみんなに迷惑がかかってしまう。しんかんくんはついにおまわりさんに怒られてしまうんですね。そんなときに登場するのが線路くん。彼のおかげで無事かんたろうのところにたどりつけるんです」
——新幹線って好きな子ども多いので人気がありそうですね。
「僕もあとから知ったんですけど、2歳くらいになると子どもってみんな電車が好きになるみたいですね。だから電車が自分の家に来るとなるととても喜んでくれるみたいなんです。実はこの『しんかんくんうちにくる』ですが、これを出す前は全然売れなくて。1冊目の『ぼくとなべお』以降7年も売れなかったんです。必死になって1日17時間ぐらい描き続けるもんだから、髪の毛がバンバン抜けたり、トイレの中でよく泣いたりしましたね。で、ある時、息子の前で『パパ駄目だあ』って弱音を吐いちゃったんですよ。そうしたら、2歳だった息子のかんたろうが『誰か困ったの?』って聞いてきて。いや誰も困ってないな、強いていえば俺だけが困ってるなって気付いたんです。そしたらかんたろうが、『じゃあ、これで遊ぼう』って渡してくれたのが、E4系MAXっていう新幹線だったんです」
——そんなエピソードからこの作品が生まれたんですね。
「どうせ売れないんだったら、この子のために描いてやろうと思ってこの作品を描きました。そのおかげで見事ベストセラーになったんですね。それで気付いたのが、1冊目は奥さんが喜ぶように描いて、この作品はうちの息子がおもしろがるように描いたんです。誰かのために描くことを意識すると絵本に愛が入るんだなって思いました」
<プロフィール>
のぶみ/1978年生まれ。絵本作家。
1999年に絵本作家としてデビュー。これまで160冊以上の絵本を出版。ほかにも、NHK教育番組では作詞やアニメーションなども担当。代表作に『ぼく仮面ライダーになる!』シリーズや、『しんかんくん』シリーズなど。今年7月には、最新作『ママがおばけになっちゃった!』を出版。
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