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衝撃の“未完”からクラウドファンディングで“規制”のない続編製作へ 漫画『クリームソーダシティ』作者・長尾謙一郎インタビュー

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2014年5月、週刊ビッグコミックスピリッツに連載されていた長尾謙一郎先生の漫画『クリームソーダシティ』が“とある権力からの勧告”を受けて突如打ち切り、“未完”を掲げて連載終了となり、大きな話題を読んだ。

『クリームソーダシティ』は、かつて原宿系めちゃパラPOPな音楽ユニットを組んでいた主人公2人が、“正しいことをする(DO THE RIGHT THING)”非営利団体を組んだ末に政治家を銃撃、その瞬間“クリームソーダシティ”という不思議な世界に飛ばされてしまうという、可笑しさと怖さが渦巻く長尾節全開の作品。
単行本は2巻まで販売されているが衝撃的な展開の最終話で締めくくられており、多くの読者の心に底の見えないぽっかりとした穴を空けたことだろう。

しかし今年5月、長尾謙一郎先生がクラウドファンディングサイト『FUNDIY』を利用して『クリームソーダシティ』続編製作のためのクラウドファンディング(資金募集)をスタートした。出資へのお返しとして、“『クリームソーダシティ』にあなたが登場する権利”や、作者自身が漫画の主人公のように支援者に対して“DO THE RIGHT THING(トイレ掃除、ペットの散歩など)してくれる権利”などもあり、かなり意欲を感じるものとなっている。

FUNDIY『長尾謙一郎「クリームソーダシティ」続編制作プロジェクト』
https://fundiy.jp/project/eOvjCaErcxxthC3X[リンク]
※7月10日まで続行中

『ガジェット通信』では、長尾謙一郎作品読者の記者2名でインタビューを敢行。この『クリームソーダシティ』の続編製作について、そして状況が大きく変わりつつある現在の漫画業界、青年誌が抱える問題について、長尾先生ご本人にお話を伺うことができた。

漫画『クリームソーダシティ』作者・長尾謙一郎インタビュー

記者1:まず最初に、『クリームソーダシティ』が打ち切りとなった理由ってなんだったのでしょうか。
長尾:……それ聞きますか? じゃあ、「××××××が×××××だったんです!」「ええ~~~っ!!」って書いておいてください(笑)。
記者1:伏せましょうか(笑)。
長尾:いまは漫画にしてもなんにしても、表現が難しい時代ですからね……。なんだろうな、“表現を規制する社会との心中”とか“自分の中にいるダークカウンタープレイヤーをびっくりさせる方法”とかにしておきましょうかね(笑)。

記者1:今回、『クリームソーダシティ』の続編をクラウドファンディングで描こう、となった経緯はなんだったのでしょうか。
長尾:『ギャラクシー銀座』っていう作品のあたりから、「これからはウェブでやっていく時代なのかもなぁ、未来の漫画の形ってそうなのかなぁ」と思ってはいたんですね。で、2014年5月に『クリームソーダシティ』が未完で終わって、「ちょっとクラウドファンディングやってみようかなぁ」なんて思っていて。そのとき抱えてる仕事が落ち着いた10月くらいにはもう気持ちが冷めつつあったんですけど、今回の『FUNDIY』の方から「やりませんか」と言ってもらって。
永井(『FUNDIY』スタッフ):ちょうど色々いいタイミングが重なったんですよね。
長尾:そですね。あと物語って運命があるので、途中で「おしまい!」って封じ込めることはできないんですよね。描いてる僕は「あれは終わったんだなぁ」くらいに思っていたんですけど……終われないんですよね。ドラマチックな漫画だなと思いますね。漫画の持つ運命が勝手に導いてくれたという感じがしますね。

5話制作分の目標金額達成 しかし“完結”までには足りない

記者1:『クリームソーダシティ』の終わりの構想ってもうできているんでしょうか?
長尾:もちろんもちろん。いま2巻しか出てないんですけど、最短で3巻のつもりだったんです。なのであと15話くらいあれば終わるかなと。ただ、15話分のお金を一気に集めようとするとかなりの金額になってしまうので、今回のクラウドファンディングもひとまず目標額が5話分(200万)ってことになってるんですね。
記者1:今回のクラウドファンディングで5話分描いたら、また新たにクラウドファンディングで資金を集めて、という想定なんでしょうか?
長尾:う~~ん……いちおう、今回のクラウドファンディングは目標金額を達成してるんですよね。
記者1:いま目標金額200万のところ235万までいっていますよね(6/3時点)。クラウドファンディング自体は7月10日まで続くので、5話分以上集められそうですね?
長尾:出資してくださったみなさんの中には結構「終了までがんばってください!」とコメントして下さる方もいて。「5話で終わると思ってるのかなぁ~」と思っちゃって。でも15話、必要なんですよねぇ……。
永井:それでは目標金額を追加して「500万円達成すれば完結」ということでどうですか?
長尾:……それはいいですね、やっぱり完結させたいからなあ。少し考えてみます。

漫画業界には「けっこう無茶なことを許してもらった」

記者1:私、以前、佐藤秀峰先生にインタビューをしたことがあって。秀峰先生は漫画業界にすごくお怒りになっていて、ご自身で漫画onWebというウェブコミックのサイトを立ち上げてらっしゃいましたけど。長尾先生も漫画業界には何か一家言あるのでしょうか。
長尾:全然ないです。僕は出版社とケンカしたことはないんですよねぇ。お世話になりっぱなし、あと迷惑かけっぱなしです(笑)。あと、ちなみに秀峰さんとは親友です。
記者1:作品の内容について出版社から何か言われたことは?
長尾:「こうしましょうよ」って言われることもあんまりなくて、俺いつもほったらかしですねぇ。原稿見てもらって、「ワッハッハ~!!」って笑ってもらって。でもさすがに、「これはちょっと………」って言われることはある(笑)。でもそれでケンカになることはないです。「ダヨネ!」でおしまい(笑)。けっこう無茶なこと許してもらってますよ。
記者1:(笑)。ちなみに「これはちょっと」と言われた作品ってどの作品ですか?
長尾:全部(笑)。「今回の話は絶対単行本に載せるなよ!!」と上層部の方々から言われたことありますね(笑)。でも愛蔵版が出たときにこっそり入れました。すみません(笑)。「これだけは!これだけはだめだ!」と円卓の人たちに怒られたようです(笑)。
記者2:『おしゃれ手帖』を改めて読み返すと、「これ載せちゃうんだ!」という内容もありますけども(笑)。
長尾:結構いつもねぇ「やばいかな~!」と思うことをやるんですけど、意外と編集者の方、「いいんじゃない」って言ってくれるんですよね。

音楽業界のインディー>メジャーの地殻変動が漫画業界にも起こる

記者1:クラウドファンディングを使ってインディーズで作品を描くとなると、「これはちょっと」と規制されることも一切ないわけですけれども。続編の制作のためにインディーズで描くという方法を選んだのはそのためなんでしょうか?
長尾:うーん。……音楽業界とマンガ業界って、5年くらい差があるんですよ。メジャーの音楽ってある意味今死んでるってのが定説じゃないですか?でもインディーだと、テレビとかには出ないけどすごくいい音楽がいっぱいあると。5年くらい前からそういう状態になっていて。知り合いにインディーの人が多いんだけど、そういう人たちは「いまメジャーでやってる人たちはかわいそうですよ。なかなか出せないし、給料も全然もらえないし」と言っていて。インディーの子らの稼いでる額って全然違うんですよ。音楽業界ではそういう地殻変動が起こってるんですよね。
記者1:えええええ。
長尾:当時『PUNK』って漫画描いてたんですけど、「長尾さん、大きな出版社で『PUNK』やってもほんとのパンクじゃないんじゃないですかねえ」なんて言われたりして。「なるほどなあ」と。ピストルズなんてEMIやVirginなんかのレコード会社から出してましたけど、大きなところに入って内部を破壊するパンクというのもありなんだけど……たぶん漫画もそのうち、インディーズでやる人も増えるんじゃないかと。インディーズとはいっても、ディストリビューター(流通業者)っていうのがいて、作ったものを小売店に拡散してくれるんですよね。それでいいじゃん、と思うんですよね。

“数字”頼みのメジャーでは“創造”ができない

長尾:業界全体で漫画雑誌が売れなくなってきていて。2000年くらいの頃はそれを単行本でペイできてたらしいんですけど、今できてないんじゃないかと思うんですよね。で、メジャーっていま、斬新なものが出せなくなってるんですよ。なにかに似ているとかで、前例があって数字的な説得力がないとだめなんです。あれに似てるでしょ、ってことでやっと企画が通るんですよ。昔は「こういう理屈だから面白いんですよ」っていうロジックの部分だけで通ったんですけど、今はそれがなくなっちゃったんですよね。ロジックではどうにもならなくて、数字でやっと会話できるという状態になってしまう。
そうすると作品が亜流ばっかりになる。斬新っていうだけで、「ダメー!」ってなっちゃうんですよ(笑)。「こんな斬新なもの出せるかぁ!!」って(笑)。でもまず第一段階として、表現っていうのは斬新じゃないとダメなんですよ! だから「新しくないとやりたくない!」って漫画家はやりづらいでしょうね。
記者2:「こんな斬新なもの出せるかぁ!!」ってすごい(笑)。
長尾:言われたことはないですけどね(笑)。ただ、数字に牛耳られているような場では、“創造”ができないんですよ。これマジな話なんですよね。「いや、できますできます!」っていう人いるかもしれないですけど、残念ながら数字に縛られていると無理ですね。そんで“理屈”に縛られててもなかなか創造できないんですよね。
昔はね、編集者と漫画家は土曜も日曜もなく働いて、お祭り騒ぎだったんで、夜中も朝もウワ~~~ッてバカんなって描いて。ああいうときってね、すごい作品って出やすいと思いますね。ハイになってるんですよね。
今はもう数字でしか話せなくなったので……なかなか難しいですね。みんな気付いてないかもしれないですけどね、どういうことが起こってるか。
記者2:気付いてないっていうのは怖いですね。長尾先生の作品を見ていると斬新なことばかりやってこられてるなと感じますけど、今はもう数字だけでしか話せないとなると、あのテンションでの作品作りって難しいですよね。
長尾:うーん、編集者からも「変わってほしい!」と言われるんですよ。でもずっと変わり続けてるんですよ。「いつもどおり変わってるんですけど」とは思うんですよね。

漫画を、ひとりで作るか・編集者と作るか

記者2:それではなおさら『クリームソーダシティ』を成就させたいですよねぇ。
長尾:させたいですねぇ。いちおう、今後の漫画家のひとつの型になっていく可能性があるので、ちゃんとやんなきゃなあと思ってるんですけど。
記者1:大きな前例になりますよね。
長尾:なりますね。今まで漫画ってだいたい漫画家と編集者ふたりで作ってるわけですけど。んで決定権っていうのが2人の“合議”、それは妥協かもしれないし、芸術の「無」かもしれない、「爆発」とも言える。それが良さだなあと思ってたんですけど、よくよく作家ってものについて考えると――たとえばピカソが絵描いてて、誰かに「これどうしたらいいかなあ?」って聞いてたら、「ピカソ、がっかりだなぁ~~!」って感じじゃないですか(笑)。
記者:(笑)。
長尾:でもよーく考えると、漫画家が編集者に「これどうですか?」って聞く行動、それは読者は分かんないですけど、どこかピカソの絵には負けますよね。もう次元が違う、ひとりで決定していく、完璧に世界と対峙する。ふたりでだと、なあなあな「これでいきましょっか~」「今これ笑いましたよね~」みたいなやりとりがあるんですけど、一人で決定していくほうがパワーのあるものになるんじゃないかと。その分「これで本当にいいのか」というプレッシャーは大きいですけどね。そのプレッシャーを乗り越えてできたものは、ふたりで作ったものよりパワフルになる可能性がある。
……まぁ編集者とつくるのが漫画のいいところでもあるんですけどねえ。編集者と話してるうちに全ての矛盾が無に帰する時はあるんですよね。なかなかひとりではそういうことがないですから。そういう意味では、フリーの編集者を雇うっていうひとつの形もありなのかもなぁとも思いますね。編集がいると、どこか理性的な作品にはなるでしょうね。漫画作りって絵画とは違って左脳的っていうかねえ、理性で構成されないとなかなか読みやすくならないところもあるんで。編集者が必要かな…とも思うんですけどね、分かんないですねまだ。

この物語は空前絶後、人類史上最高傑作になる!

記者2:佐藤秀峰先生のように、ウェブで雑誌を作って、というパターンもありますし、色んな様式が出てきそうですよね。
長尾:色んなやり方が出てくるでしょうね。クラウドファンディングだって沢山の方法のなかのひとつで、今後もいろんなかたちが出てくるんじゃないかと思いますよ。……漫画業界はいま神話の冒頭部なんですよ。何が起こってるか分かんない、主人公かなと思った奴がすぐ死んだり、しばらく本題に入らないような(笑)。そういう状態ですね。
1400年代にグーテンベルクの印刷革命というのがあって。それまで600年近く当たり前になってたことがひっくり返って、活版印刷っていうのが出てきたんですね。で、インターネットの革命が起きたときに、「いやー俺たちは紙にこだわりたいんだよ。紙がいいよねえ」って言ってるのって、俺もそうだったんですけど、それは実はどういうことかというと、印刷革命が起こってグーテンベルクが活版印刷の聖書を作ったときに、それまで聖書っていうのはそれまで修道士かなんかが写本してたか、もしくはほとんど一冊しかないって状態だったと思うんですけど、そこで「活版印刷の聖書なんか聖書じゃねえ!」って言ってる、頭のカタい人と一緒なんですよねぇ。
記者2:あー、ほんとだ。
長尾:でもいま残念ながら聖書を写本したものってみんな持ってないですよねぇ。革命が起きちゃったんで、乗って行くしかないという感じですよね。インターネットの理念は”大きな体制を壊す”ですからね。だから大きな出版社が電子書籍を出してもうまくいかないんですよね。今はとてもおもしろい時期にいるんだなあと思いますよねえ。
あと、ちょっと前まで、大きな出版社で描けなかった人たちっていうのは消えるしかなかったんですけど、これからはねえ、「じゃあ自分でやりますかあ」ってできますからねぇ。
記者1:記者1:でも長尾先生の作品って誰かに抑圧されてる感じはないですね(笑)。
長尾:ないでしょう(笑)。なんかの雑誌で取材がきたんですけど、編集者のほうにも取材が行っていて。編集者の一言に「のびのびやらせてます。」って書いてあって(笑)。どういうことか分かんなかったんですけど、たしかにのびのびやらせていただいてたなと。たまに「僕どうしたらいいですかね」って聞くんですけど、「じ、自由でいいですよ!」って返ってきて。
記者2:幸せな環境ですね(笑)。
長尾:はい、幸せ一杯です(笑)。当時は分かんなかったんですけどね、でも本当にのびのびやらせてもらってますよ。広い意味でね(笑)。

記者1:では最後に『クリームソーダシティ』の続編を楽しみにしてる方にメッセージをいただけますか。
長尾:この物語は空前絶後、人類史上最高傑作になる!! 刮目せよ。(ニューヨークタイムズ紙)
記者1:本日はありがとうございました!

―――

今回、かなりフランクにインタビューに応じてくれた長尾先生。実は『クリームソーダシティ』の未完については、こうも語っていた。

「マンガを描く側からすると、ドキドキさせたいとかハラハラさせたいとか思うわけじゃないですか。でも、マンガ読んでる人って“マンガ本を持ってる”じゃないですか。いくらハラハラして「怖い!」とか思っても、マンガですよ。そんなの怖くないですよ。その枠を超えたかったっていうのもありますね」

衝撃の未完で世間を驚かせ、クラウドファンディングという形で、ただ“漫画本を持って読んでいる”だけだった読者を動かすこととなった『クリームソーダシティ』。生きもののように読者と社会と作者をも突き動かすこの物語が、一体どういった形で完結するのか。読者のひとりとして楽しみに待ちたいところだ。

そしてこのインタビューののち、『クリームソーダシティ』のクラウドファンディングは目標を「5話分制作資金200万」から「完結までの制作資金500万」へと上方修正。すでにサポートをおこなった人へは支援金額を問わず、完結までの作品を必ずお届けすると発表された。未来の漫画の形の大きな前例となりそうなこのプロジェクトに参加したい方、『クリームソーダシティ』の結末を知りたい方は、『FUNDIY』の下記ページをご覧あれ。プロジェクトは7月10日まで続行中だ。

FUNDIY『長尾謙一郎「クリームソーダシティ」続編制作プロジェクト』
https://fundiy.jp/project/eOvjCaErcxxthC3X

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記者:

デザイナーと記者の二足のわらじ。ふだんはホラー通信(http://horror2.jp/)で洋画ホラーの記事ばかり書いています。好きなバンドはビートルズ、好きな食べ物はラーメンと角煮、好きな怪人はガマボイラーです。

TwitterID: _reinus

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