【規制バスター】運輸局がワンコインタクシーの営業を妨害? 『最高乗務距離規制』のカラクリ
世の中いろいろとおかしな規制が存在します。そんなおかしな規制について一緒に考えてみませんか。毎回さまざまな業界の不思議な規制をご紹介する『規制バスター』シリーズ。今回は「タクシー業界」の2回目です。前回はこちら。
●登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ガジェット通信)
●関西のタクシー運転手さんは体力がない?
ふかみん:とはいえ、既に決まってしまったタクシー再規制強化。運用もはじまっていますから、今さらどうしようもないような。
原:再規制強化は2年前に国会で通ってしまったものです。私自身、この再規制に疑問を持たないでもありませんが、今さらそこに対してなにか言っても詮無い話です。しかし、2年前に国会議員の人たちが解決したいと考えた問題と、現在の再規制強化の運用を見比べて、本当に当時の問題意識に対応した再規制強化になっていますか? ということを検証したいんです。国会議員が実は結果的にだまされたんではないだろうかと。
そのひとつが最高乗務距離規制ですね。これは、運転手さんが一日に運転する距離について制限をかけている。普通の労働法制だと労働時間に対する規制があるんですが、タクシーの運転手さんの場合は、時間の規制プラス距離の規制があるんです。
今回の再規制強化の中で、最高乗務距離についての規制も強化されました。これは国の組織である地方運輸局が決めています。関東、中部、九州は270キロ、北海道は広いですから280キロ。なぜか不思議なのが近畿運輸局なんです。関西だけ250キロ(日勤勤務者の場合)。しかも高速道路を使う場合も含みます。他の地方は高速道路ははずしているんですよ。なぜなら、高速にのったら、すぐ何十キロも走ってしまいますから。
ふかみん:高速道路使って空港往復してたりするとすぐにその距離に到達しそうですね。しかも乗車率が高くなるような工夫・営業努力をすればするほどこの規制にひっかかる。
原:そもそも地域ごとの距離の違いがまずわからない。これは、“タクシー運転手さんを守る”という規制強化の主旨からすると、なんなのかというのがよくわからないんです。それじゃぁ、関西の運転手さんは特に虚弱なのか、と。
ふかみん:そんなことないと思いますけど……昔関西に住んでましたけど、東京に比べたら逆に元気いいぐらいな。おしゃべり大好きな運転手さんも多いですし。ずーっと喋ってたりとか。
原:考えたら距離に差が出る根拠なんてどこにもないんですよね。これはどういうことかというと”ワンコインタクシーつぶし”じゃないかと考えざるを得ないんですよ。
ふかみん:うわ、出た?!
原:特に関西では、そういう割安タクシーが増えてきている。たとえば有名な『MKタクシー』とかは、ながしでお客さんをつかまえるより予約対応に力をいれていて、長距離のお客さんをのせる工夫をしている。
ふかみん:そうですね、空港に行きたい人をジャンボタクシーにまとめて乗せて格安で行けますよ、というサービスありましたね。しかも予約対応に力をいれればそれだけ効率がよくなるわけですから、乗車距離も伸びてしまう。
原:工夫して効率のよいサービスをしてるとすぐその距離を超えちゃうわけですよ。
ふかみん:空港は結構遠いですもんね。特に関西空港は本当に遠いですし。まさに、それをターゲットとした規制ということなんでしょうか。
原:狙いうちしたってことじゃないでしょうか。昔ながらの大手業界の人たちが役所に駆け込んで、目ざわりなやつがいるんでなんとかしてくださいと言って、お代官様になんとかしてもらったと。そういう世界なんだと思いますよ。
ふかみん:またですか。この規制に関する連載で毎回出てくるパターンですね。こういった、古くからある利益団体が役所駆け込んで、という構造でおかしな規制ができるという繰り返しってなんとかならないんでしょうか。たとえば、新規参入してきた若い人達や利用者が安くサービスを利用できるように工夫している人達もかけ込める場所があってほしいと思うんですが。そういうわけにはいかないんでしょうか。
原:そこはやっぱり政治力なんですね。昔からやっている人達は政治力があるんだと思います。さんざん政治献金してきたとか。ほんとはそういう情報を全部情報開示したらいいんですけどね。ともあれ、おそらくいろんな力があって、こういう制度改革がまかり通ってしまう。
ふかみん:残念です。
原:そんなわけで、『ワンコインタクシー』はなくなりそうになってます。
ふかみん:この連載で以前話題にした1000円10分カットの床屋さんでは、まったく使わないのに洗髪台を設置させるという無意味な規制が新規参入をはばんでいましたが、タクシーの場合は短めに設定された最高乗務距離規制が格安のサービスをはばんでいる、ということなんですね。どちらにせよ利用者のメリットが置き去りにされちゃってますね。
(つづく)
※原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。
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(編集サポート:モカ)
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トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
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