【二郎がなぜうまいか?】第二部 ~スープ~(Cooking Maniac)

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【二郎がなぜうまいか?】第二部 ~スープ~(Cooking Maniac)

今回はブログ『Cooking Maniac』からご寄稿いただきました。

【二郎がなぜうまいか?】第二部 ~スープ~(Cooking Maniac)

さて、前回の記事「【二郎はなぜうまいか?】第一部 ~麺~*1」にて、二郎の麺は、

“強力粉”によって、麺のコシが強い
“精製度が低い”によって、小麦の香りが強い
“低加水率”によって、小麦の密度が高く、弾力が強い
“超極太麺”によって、歯応えが強い

という【4強】の麺である、ということを説明し、
「これだけの強い麺にあわせるスープとなると、この麺に負けないような強さを求められる。
それだけの強いスープをどうやって作ったのか?」

ということを書いた。

*1:「【二郎はなぜうまいか?】第一部 ~麺~」 2015年03月23日 『ガジェット通信』
https://getnews.jp/archives/877198

さて、二郎のスープについてCooking Maniac流に「科学的な視点」を含めて考察してみよう。

【二郎がなぜうまいか?】第二部 ~スープ~(Cooking Maniac)

[スープ]

まず、二郎のスープの作り方だが、至ってシンプル。

<二郎のスープの作り方>

(1) 豚のゲンコツと、背骨、背脂、にんにくを6時間程度煮込み、途中で『豚』用の豚腕肉を加えて90分~2時間煮込む

(2) 醤油とみりん風調味料を混ぜたタレに(1)の『豚』を90分漬け込む

(3) (2)のタレに化学調味料とスープを加える

なんです。
これもまた、ラーメンのスープ作りに苦心されている方々は、
「え!!!?鶏がらは入れないのか!?玉葱を入れないと甘みが出ないだろう!!」
と驚嘆の声が上がるかと思います。
これまた、この作り方がすごいんですよ。
今回もどうすごいのか4つの要素に分けて説明していきましょう。

<潔さ>

あのですね・・・ラーメンのスープ作りを研究してきた者にとって、上記のシンプルかつ、本質をガッチリ突いたあのレシピは本当に美しく見える・・・・!!

そう!まるで、アインシュタインの相対性理論が、
E = mc2
に帰結したかのような美しさ!!

さて、無駄な前段は置いときまして・・・

通常だとラーメンのスープというのは、
材料だけでも、昆布、魚節、干ししいたけ、煮干、玉葱、しょうが、にんにく、ねぎ、りんご、にんじん、鶏がら、モミジ(鶏の足)、豚背骨、ゲンコツ、豚足、豚頭、挽き肉・・・
って、とにかく色々なものを入れるんです。
しかも、魚節ひとつとっても、かつお節(枯節or荒節)、さば節、マグロ節、宗田節etc・・・と色々あって、さらに複雑多岐にわたっている。
その中で、色々な食材を組み合わせて、色々な味成分を水の中に抽出させて、複雑な味わいを作り出すのがスープ。
しかし、二郎の場合、ほとんど豚しか入ってない。野菜はにんにくだけ。それが一体どういう計算の元に成り立っているかを説明しよう。
まず、原料を列挙すると、

・豚ゲンコツ(豚の大腿骨)
・豚背骨
・豚背脂
・豚腕肉
・にんにく

そしてそれぞれの特徴と役割としては、

「豚ゲンコツ(豚の大腿骨)」
→ラーメンのスープ作りで鶏がらと並んで多様される部位。
豚ゲンコツに含まれる骨髄を溶かし出すことによって、”まろやかな旨味の抽出”、”ゼラチン質の抽出”を行なう。

「豚背骨」
→原価が安く、旨味が早く出る。
料理にもよく使われており、中華の「豚背骨のタレ煮込み*2」
や、沖縄で有名な「がじまる食堂*3」の骨汁

*2:「誰もが夢中になってしまう「豚背骨のタレ煮付け」が絶品 / 永利 池袋本店」 2014年11月17日 『ガジェット通信』
https://getnews.jp/archives/702357

*3:「がじまる食堂」 『食べログ』
http://tabelog.com/okinawa/A4703/A470304/47004805/

※がじまる食堂の骨汁は、午前中には売り切れるほどの人気商品で、食べたことがあるがめちゃくちゃおいしい!
スープに加えることで”シャープな旨味の抽出”を行なう。

「豚背脂」
→特に原価の安い食材。俗に言われるラードとは、この背脂を溶かして固めたもの。
スープに入れることによって”油脂分の抽出””ゼラチンの抽出”を行なう。

「豚腕肉」
→料理に使われることが珍しい部位。価格は安い。
繊維がしっかりしていて、脂身が少なく筋肉が多いため、旨味が濃いが、硬い。
スーパーなどでは、薄くスライスして小間切れ肉に入れている。
スープに入れることで”肉由来の旨味を抽出”し、豚自体は、『豚』として、具にする。

「にんにく」
→おなじみの食材。スープに入れて”豚の臭み消し”を行なう。

さて役割をまとめると、

“まろやかな旨味の抽出”
“シャープな旨味の抽出”
“肉由来の旨味を抽出”
“ゼラチン質の抽出”
“油脂分の抽出”
“豚の臭み消し”

で、もっと簡潔にすると、

【豚肉の旨味×3+ゼラチン+油脂-臭み】

これぞ、二郎’s方程式!!
なんとシンプルで美しい!!
Tシャツ作りましょうよ!!
この目的のために無駄が削ぎ落とされた潔さが、二郎の実直・剛直なスープの味の秘訣なわけです!

<乳化>

この乳化っていうのは、料理を作るとき、考える時、味をデザインする上で超超超超超!!重要です!!!
乳化ってどういうことか分かりやすく説明すると、
「油と水を混ぜ合わせる」
ってことなんです。

油というのは、水には溶けない。水に油を入れたら、2層になって、ぐるぐる混ぜると油が小さな球になるけれど、そのうちまた、2層に分かれてしまう、ってな風に決して溶け合わない。
しかし、水分中で小さくなった油の球をできるだけ長く小さな球のままにとどめておくことが”乳化”。
マヨネーズは、乳化の代表例で、酢とすっっっっごい小さくなった油の球が混ざりあってクリーム状になったもの。
そして、水と油を乳化させるためには「乳化剤」なるものが必要であり、乳化剤は水と油の球をくっつける作用がある。
マヨネーズは、酢(水)と、油を、卵が乳化剤となってくっつけているんです。

さて二郎における場合の”乳化”とは?

【豚肉の旨味×3+ゼラチン+油脂-臭み】

この式の、
“旨味が溶けた水”と”油脂”を”ゼラチン”が乳化剤となって、くっつけている。
わけです。
でもただ、水と油脂とゼラチンを加えれば良いわけではなく、二郎ではぶッとい木の棒でひたすらスープをかき回し続けている。あの作業によってスープがどんどん乳化していく。

じゃあなぜ、乳化させるといいのか?
それは、
「油をおいしく食べさせるため」
なんです!
マヨネーズで例えると、マヨネーズだったら食べれても、酢と、油をそれぞれ単体で食べることは難しいはず。
二郎も同じで、あの大量に含まれる油脂分をおいしく食べさせるための乳化なのです。
そして、スープを乳化させることにより「コク」がうまれ、またスープにも「トロミ」がつき、あの超極太麺にうまく絡むようになる。
乳化は実に偉大なのだ!!

<豚肉の旨味を使い尽くす>

これもホントにすごいんですよ。
使い尽くしてるんですよ。

使い尽くしているポイントは2つあって、

(1) スープとして煮出した豚骨で2番だしをとる
二郎にはスープ用の大きな寸胴が2つあって、1つはメインスープ、もう1つは2番だしスープ。
メインスープ寸胴の中で豚骨(ゲンコツ&背骨)を6時間煮出して、その豚骨を取り出して別の大きな寸胴に入れて、水を加えてまたスープを取る。これが2番だし。
メインスープはお客に出すためどんどん減ってくる。
そしたら、メインスープの中にまた新たな豚骨を入れるのだが、その時に水を加えるのではなくて、2番だしを加える。
このようにして、一つの豚骨から徹底的に旨味を絞りとっているのだ!
ちなみに、二郎の2番だしをとった後の豚骨を見たことがあるが、もうスッカスカ!ゲンコツなんかは、真ん中にぽっかり空洞があいているのだ。

(2) 『豚』を醤油ダレにつける
二郎では、スープの中で煮込んだ豚の腕肉を醤油ダレにドボンとつけて、その醤油ダレがしっかり使った豚の腕肉を『豚』として豪快にラーメンの上に乗っけている。
スープで煮た豚の腕肉をタレに入れることで、タレにまで豚肉の旨味を溶かし出しているのだ。
そう!二郎は一滴たりとも豚の旨味を無駄にしないのだ!

<旨味の計算>

この旨味の計算が本当に二郎は優れている。
今のところ二郎に含まれる旨味量を測った計測値はないが、計ったら物凄い値が出るに違いない。
二郎の名物のひとつとして、化学調味料をスプーンに山盛りドバーッといれる光景が挙げられるだろう。
それゆえ、「化学調味料をあんだけいれているからうまいんだろ?」と一言で切り捨てる輩がいるが、それは1割合っていて、9割間違っている!!
ならば、味噌汁に化学調味料をスプーン山盛り1杯いれて飲んでみればいい。舌が曲がるはずだ。

化学調味料とは「旨味成分”グルタミン酸”の結晶」である。
でも、化学調味料そのものだけで食べると”旨過ぎて”旨味だけが突出してキツイため、全体としてバランスをとることが不可欠である。
では、「あれだけの大量の化学調味料を入れて、全体のバランスをとる」にはどうしたらいいか?
あの化学調味料に負けないだけけの、圧倒的な旨味をぶつけてバランスをとるしかない。

そのために二郎では、豚のゲンコツも、背骨も、通常のラーメン屋の何倍も入れる。
そして、『豚』も大量だ。
二郎の『豚』=ラーメン屋の『チャーシュー』
であるならば、二郎の『豚』は軽く普通のラーメン屋の5倍~8倍くらいのボリュームがある。
その『豚』をスープとして使っているので、普通のラーメン屋より5倍~8倍の豚の旨味がスープに抽出されることになる。
これが秘訣だ!!

そして、豚肉の旨味は”イノシン酸”であり、”グルタミン酸”と合わせることにより、相乗効果がうまれて、それぞれを単体で味わうよりもはるかに強い旨味を感じることが出来るのだ。

この、
【常識外れの量の】グルタミン酸×【通常のラーメン屋の5倍~8倍以上の】イノシン酸
をぶつけたのが、二郎の旨さの秘訣である。

<脂肪分>

さて、最終項目の脂肪分だ。
実は、二郎の総カロリーは【約1600キロカロリー】。
そして、そのカロリーの60%が脂肪分由来なのだ・・・!
ちなみに、普通の醤油ラーメンの総カロリーは【500~600キロカロリー】で、脂質は39%
まさしく、ぶっちぎり!!

さて、ではなぜ脂肪が多いことが人気につながるのか?
それには、3つ考察がある。

(1) 人間は脂肪が大好き
人間が生まれてから初めて口にするものは?
それは母乳です。そして、母乳には脂肪分が多く含まれている。その本能的な潜在意識に働きかかるのが脂肪の味である。それに、原始に狩猟によって食物を得ていた人類は、長い冬を越すために脂肪を蓄えることが生死に関わるほど重要なことであった。そのため脂肪は特別に重要な成分である。

(2) 脳のメカニズム
人間は、大量に脂肪分を摂取すると、ドーパミンと、脳内麻薬:エンドルフィンが分泌される。
二郎は、その大量の油脂分によって単に「おいしい」だけでなく、脳の「快感」にもつながる体験を提供しているのだ。これが、俗に言う「二郎中毒」の秘密。
二郎ほど、大量の油脂分を摂取できる食べ物はそんなにないから、二郎によって得られる脳の快感を求めて、また後日どうしようもなく二郎が食べたくなって仕方なくなるのだ。

(3) 乳化によって食べやすくなる油脂分
人間がいくら脂肪分が好きだからって、中毒になるからって、サラダ油を直接飲むことは出来ない。
その脂肪分を乳化させることにより、脂肪の球を極めて小さくし、口当たりを軽くすることで食べやすくしている。過言ではあるかもしれないが、ある意味では二郎は脂肪をおいしく食べさせることが徹底的にデザインされたラーメンと言えなくもないかもしれない。

脂肪大好きな人間が、”脂肪を大量に食べるタブーを犯せる場所”。
その駆け込み寺てきな役割を担っているのが二郎なのかもしれない。

<総論>

ふぅーーーーーーー!!!
昨日の[麺編]も長くなったが、それを超したな・・・汗
おれが文章をまとめるのが下手なのか、それともそれだけ書かせる二郎がすごいのか・・・!

さて、総論としては二郎のスープというのは、

【豚肉の旨味×3+ゼラチン+油脂-臭み】という式によって成り立ち、
その各項の値がとてつもなく大きい!
それらを一つにまとめて一体感を生む”乳化”
それによって、”中毒性”を生み出す!

もっとシンプルに言うと、

極大の旨味×極大の脂肪分/乳化=中毒性

なのかもしれない!!
さぁ、この方程式をTシャツにプリントして街を練り歩こうぜ!!

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執筆: この記事はブログ『Cooking Maniac』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2015年03月23日時点のものです。

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