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【残念な地方自治】10分1000円ヘアカット店に未使用の洗髪台があるのは規制のせいだった!(1/2)

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登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ガジェット通信)

原さんプロフィール:
原英史(はらえいじ) 1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングをスタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社) 10年10月、国際情報誌『SAPIO』にて連載開始。

●”洗髪台条例”が突然全国に広がっている理由

ふかみん:今回も興味深い話ですね。テーマは「散髪にまつわる規制」ということで。まぁ、僕はハゲで髪の毛薄いからあんまり関係ない分野ですけれども。

原:はい……。10分1000円ヘアカットの話をしましょうか。使ったことがある人も多いと思うんですけれども。

ふかみん:僕も1000円ヘアカット使ったことあります。あまりヘアないですけどね!

原:えぇ……時間がない時、便利ですよね。髪洗ったりしてると、どれだけ簡単にすませようと思っても、散髪には30~40分はかかってしまいますよね。

ふかみん:僕はまあ、すぐに終わっちゃうんですけれども。丸坊主なので。丸坊主にするだけで何千円も払うのはしゃくなので、こういうのができてすごく良かったなーと思っています。

原:時間も短縮できるし安くすむし、良いことずくめのようなんですが、今回取り上げているのは、こういう10分1000円の理髪店が、実は存亡の危機にありますという話なんですね。

ふかみん:一体どうして……。

原:ああいうところってご存知のように髪を洗わないわけですよ。

ふかみん:そうですね。掃除機みたいなのでシューッとやりますね。

原:そうそう。シューッと吸い取るんですね。だから早くすむって話なんですけれども。昔ながらの床屋さんだったら、必ず洗髪台があって、シャワーで流してくれましたよね。あれがもう、置いていないわけです。

ふかみん:別にあそこで髪を洗う必要もないし、僕も1000円カット登場以前から散髪のとき洗髪を断ることもありました。

原:1000円カットのところって髪を洗わないというのが前提になっているから、最初から洗髪台をつけていない。それはもうひとつ意味があって、洗髪台をつけるとやっぱりスペースをとっちゃうんですね。店舗面積が広くなっちゃう。どうしても。

ふかみん:工事も大変ですしね。お湯が出るようにしたり、下水を通したり。

原:洗髪台のコストもかかりますし。あとはたとえば駅の中に出店しようと思った時に洗髪台をつけるとなったら、水道が通っているところを探さなければならない。そういうので立地条件の制約になったりもするわけですよ。だから、たとえば今、1000円カットの最大手の『QBハウス』などは、そういう洗髪台をつけない。店舗面積は思い切り効率化する。そのことによって、お客さん向けに一番良いサービスを効率的に提供していく。それを追求しているわけですね。

ふかみん:なるほど。

原:今回の規制の話は何かというと、今、日本のそこらじゅうで都道府県による条例が作られていて、その中に“洗髪台を床屋さんには必ず作らなければいけません”という規定があるという話なんです。

ふかみん:急にそんなことが決まったんですか?

原:うん。ここ2~3年で急にそういうのが作られるようになって、今、全国で23かな、北海道と22県で作られてます。

ふかみん:もうそんなにできたんですか? でき始めたっていうニュースは見た記憶が。

原:でき始めて、それがもう一気に広がっていっているんです。

ふかみん:もう日本の半分ぐらいは洗髪台の規制で覆いつくされてるんだ。

原:もう今半分まできていて、千葉県なども議論が進展しているんですね。

ふかみん:う~ん。それはなぜなんでしょう。

原:この表向きの理由――なぜそんな条例ができたのかというのを考えてみます。たとえば県庁で“こういう条例を作りましたよ”という説明資料を載せているものを見ると、“公衆衛生の観点からこういう新しい規制を入れることにしました”ってことをいうわけです。公衆衛生のためって、要するに“不潔だ”っていうことですね。髪をちゃんと洗わないと不潔だということなんだけれども、ちょっとピンときませんよね。だって髪、ちゃんと吸い取っているじゃないですか。それで、何の違いがあるのかさっぱり分からない。

ふかみん:何が不潔なんですか? よくわからないな。

原:それをさらに聞いていくと、県議会議員たちは“こんな事例がある”といって問題にしているらしいんです。例えば、。“『QBハウス』から出てきた子どもが公園で髪の毛を洗っていた”(笑)。

ふかみん:たはは(笑)。

原:それとか、1000円カットのお店から出てきた人が帰りにレストランに寄ったら、髪の毛がたくさん落ちて汚らしかった――そんなケースがあったらしいというんだけど、どう考えたってウソでしょ。だって、この人は『QBハウス』帰りの客だなんて、レストランの店主だって分からないですよ、絶対に。普通の床屋さんから出てきたって、髪の毛の切りくずが残っている人ももちろんいるし、全然床屋さんとは関係なく抜け毛が多い人だっているわけですよ。

ふかみん:そうですね。抜けますよね(笑)。わかります。

原:何の関係があるのかと。

●1000円ヘアカットへの圧力を狙った条例を各都道府県がつくっている

ふかみん:それって、誰が見てどこに話を持ち込んでいるんですか?

原:たとえば県議会議員とかのところに、裏で条例を作ってくださいといっている人たちがそういう話を持ち込んでいるという話なんですね。で、その裏にいるのはだれかというと、要するに理容組合とか、美容組合とか……昔ながらの床屋さんや昔ながら美容院の組合なんですよ。これらの理容組合とか美容組合とかって、法律に基づく組合なんですね。

ふかみん:え、そういう法律があるんですか。

原:自主的にやっているわけではなくて、法律上の同業組合。これはもともとは1957年(昭和32年)に作られた法律で、環衛法(環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律)というんですけれども、これがもともと何だったかというと、戦後直後に理髪店とかクリーニング業とかで、過当競争が生じてしまったために、カルテルを作っていいですよ、ということを決めた法律なんです。

ふかみん:そういう歴史があるんだ。

原:この法律に基づいて同業組合を作って、たとえば料金を決めたりとか、営業時間を決めたりとか、定休日もみんなで一緒に決めましょうね、と。

ふかみん:なんか休日も一緒だからおかしいな、とは思っていたんですよ。そういうことなんですか。

原:そうそう。だから昔は料金もだいたいみんな一緒でしたでしょ、地域で。ああいうのも、全部これが根っこなんです。

ふかみん:なるほどー!

原:こういうカルテルを結んでるっておかしいよね、ということが1990年代くらいから言われ始めて、同業組合が作る適正化規定は、もう今はさすがに廃止されたんです。廃止されたんだけれども、組合自体はなぜか残って、活動を続けているわけです。どんな活動を続けているのかっていうと、今みたいな話。各県で、県庁や県議会に対して、1000円カットみたいなところが出てきて、不潔なことをやっているらしいから、何とかしてください、と。理髪店たるもの洗髪台がないなんてありえないですよ、つけるように義務付けてくださいよ、というようなお願いをしてまわっているという話なんです。

ふかみん:そうなんだ……でもそれって……。

原:まあ、これって、普通の人が聞けば明らかに分かるとおり、“1000円カットつぶし”なわけですよ。だけど、さすがにこの条例も、洗髪を義務付けるっていうところまではやらない。そんなことをされちゃったら、みんな怒るでしょ(笑)。さすがにそこまでバカな条例は作れないなとみんな分かっているわけ。そのかわりに、洗髪台は必ず作ってくださいというわけです。『QBハウス』にこの間聞きにいったら、しょうがないからバックヤードに作っていますって言っていました(笑)。

ふかみん:どこかにあればいいと?(笑)

原:バックヤードに一応洗髪台を作って、絶対使いませんよ、と。この23道県では、そんな状況になっています。

ふかみん:あほらしいなぁ、使いもしないものを設置するんだ。その洗髪台は店舗に1つあれば良いんですか?

原:1つあればいいんですけれど、1つとは言っても、そのぶんスペースを食っちゃったり、立地条件が制限されたり、そういうことで、1000円カット店にとってはかなりの制約になるわけですよね。『QBハウス』なんかは、使わない無駄な投資だと分かっていても洗髪台を作っていますが、もうちっと規模が小さい店だと、出店をあきらめているんですよ。

ふかみん:”洗髪台”といわれるための要件は法律で決まっているんですか。

原:条例に、“温水が出なければいけない”とか、そういうことがいろいろと書いてあります。

ふかみん:ほんとにくだらないなぁ。じゃあ、ほんとに最小限のものを置いてしのいでいると。無駄ですね。

原:そうやって既存業界が、コストを上げたり、いろんな制約を課して出店させないように、新しい1000円カットのお店を排除しようとしている、単にそれだけですね。

(つづく)

TBSラジオ『Dig』でこの問題が採り上げられ、原英史さんが出演しておられます。ポッドキャスティングでの視聴もできますので、興味のある方はどうぞ。理容業者の団体である全国理容生活衛生共同組合連合会の大森利夫理事長が電話出演し、連合会側からのこの問題についての説明がなされてます。

原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。

(書き起こし:ニコラシカ)

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ニュースサイト『ガジェット通信』発行人。未来検索ブラジル代表。東京産業新聞社代表。ハリウッドエンターテイメントビジネス誌『Variety Japan』Senior Editor。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラクターに興味がある。好きな食べ物はシュークリーム。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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