MeCabがiPhone,OSXに載っていると言うのは止めようと思う

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きまぐれ日記


オープンソースの形態素解析(自然言語の文を意味を持つ最小単位に分割してそれぞれを判別する)エンジンで検索や辞書機能、かな漢字変換にも応用されているMeCab。今回はその開発者である工藤拓さんのブログ『きまぐれ日記』よりご寄稿いただきました。

MeCabがiPhone,OSXに載っていると言うのは止めようと思う
『iPhone』のSDKの条項に変更が加わり、『Flash』のクロスコンパイルを含む純正開発ツール以外で作成されたバイナリの配布が禁止となるようです。世間でも散々言われていますが、この変更は正直とても残念です。

Apple的には「製品のクオリティーが保てないから」という理由だそうですが、 Windows版『iTunes』が意味もなく『QuickTime』入れたり、Windows非標準のUIを使いまくっていて、お世辞にもクオリティーが高いとは言えないのを棚にあげて、クオリティー云々(うんぬん)と言い訳できるのでしょうか。アプリなんて所詮玉石混淆(ぎょくせきこんこう)。決めるのはユーザーです。

MeCab*1 は以前GPL/LGPLでした。Appleを含む複数の方からこのライセンスでは使いにくいと言う指摘をうけ、前職の同僚と協議をしながらBSD/LGPL/GPL のトリプルライセンスにしたという経緯があります。結果としてこの変更はうまくいきましたし、AppleがOSXや『iPhone』にMeCabを搭載できるようになりました。私はこのことをとても誇りに思っていましたが、今回の件以降、矛盾を感じずにいられません。他人にはオープンだBSDだと「オープン路線」を要求するのに(実際Appleの製品は数多くのオープンソースプロジェクトで構成されています) 。自分は、開発者の囲い込みで「クローズド路線」を追求しています。そんなにクローズドでやりたいのなら、MeCabなんて使わないで自社開発すればいいのに。技術力不足の部分をオープンソースで補い、それ以外は厳しい審査ってのはムシが良すぎます。

私がオープンソースで公開しているソフトウェアは基本的にクロスプラットフォームで動作します。たとえば手書き文字認識エンジンのZinniaは、様々な方がLinux,Android,iPhone,Windowsといったプラットフォームで動作させています。私自身、ユーザーの自由度を最大化するために、そして自分がつぶしがきかなくなるのを避けるために、特定のプラットフォームに特化したコードなんて書きたくありませんし、極力プラットフォームに中立な立場をとっています。MeCabを苦労してクロスプラットフォームで動くように作ったところ、Appleはそのうま味だけを(ライセンス変更要求付きで)搾取し、逆にクロスプラットフォームで動く『iPhone』上のアプリは「気にくわないから」という理由だけで排除する……。営利目的だと分からなくもないですし、多くの一般ユーザーにとってはどうでもいいことかもしれませんが、私のようなオープンソースを(金銭の絡まない)ライフワークにしている人間にとってはなんとも理解しがたいです。

私にはどうすることもできませが、MeCabが『iPhone』やOSXで使われているということを、 MeCabのプレゼンなどではもう言わないと思います。いやMeCabをC#で書いて、Objective-Cに変換すればいいのかな。いずれにせよ残念。

編集部注*1:MeCab
・MeCabホームページ『MeCab: Yet Another Part-of-Speech and Morphological Analyzer』
 http://mecab.sourceforge.net/index.html
・『ウィキペディア(Wikipedia)』「MeCab」
 http://ja.wikipedia.org/wiki/MeCab

執筆: この記事は工藤拓さんのブログ『きまぐれ日記』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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