産経新聞が発達障害についての俗説を広め、偏見を助長しようとしている件について
誤った知識による報道が偏見や差別をもたらしてしまう。そしてそれがたくさんの人々を追い込んでしまう。今回は罪山罰太郎さんのブログ『俺の邪悪なメモ』からご寄稿いただきました。
産経新聞が発達障害についての俗説を広め、偏見を助長しようとしている件について
『Twitter』でも叫んだんですが、心底腹が立ちました。
産経のこの記事。
【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう – 『MSN産経ニュース』
http://sankei.jp.msn.com/life/education/100419/edc1004190041000-n1.htm
発達障害について書かれてるのですが、間違いだらけで本当にヒドいのです。
たとえば、記事には
——
発達障害は2歳までに発見して対応すれば治り、3歳までなら5分5分、4歳以上では困難になるという。
——
【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう – 『MSN産経ニュース』 より引用
と、「早期治療で発達障害が治る」という意味のことが書いてありますが、これは明確な誤りです。
発達障害は、生物学的・遺伝的要因により現れる社会生活に困難をもたらす個性です。病気ではないので「治療」することはできません。
発達障害児に対しては「治療」ではなく、特別支援学校(養護学校)へ進学するなどして、その個性がうまく社会に適応して自立できるように支援する「療育」を行うのです。
上の引用部分は、さいたま市教育相談センターの金子保所長がいってることなんですが、さいたま市のことがかなり心配になります。
また、記事の中で脳科学の専門家として登場する澤口俊之氏は、実証されてない奇妙な自説を展開する本を何冊も書いているトンデモ学者。この記事でも快調にフカシてます。
この記事のように「発達障害は適切な治療をすれば治る」といったウソがばらまかれると
「発達障害は治療すれば治る」 → 「発達障害児の親は治療を怠っている」 → 「自己責任ドーン!」
という、完全に間違った認識を生み、偏見を助長してしまいます。
これは障害児やその親を追い詰めることになりますし、「○○教育法で障害が治る!」といったインチキ商法をはびこらせることにもなり問題です。
で、俺(おれ)がこの記事で特に腹立たしいのは、間違ってるだけでなく、書き手(明星大教授・高橋史朗氏)の障害者への差別意識が垂れ流されているところです。
例えばこのくだり。
——
ちなみに、特別支援を要する子供が1割を超えるアメリカでは、障害者法によって、障害の程度と性質を勘案した個別プログラムが策定され、それに準拠した教育サービスの提供が義務づけられている。そのための教育予算の不足が問題になっている。
——
【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう – 『MSN産経ニュース』 より引用
アメリカの例を出して、「障害者にきちんとした手当をすると、教育予算が不足して問題になる」と主張してるようにしか読めません。
以前別のエントリで書きましたが、障害は個性であり社会の状況により何が「障害」になるかは変化します。つまり障害が「障害」になるのは社会の都合であり、社会の側が障害者に手当をするのは当たり前なのです。上のアメリカの例で問題があるとしたら、障害者に手当しようとすると不足する予算配分の方です。
更にヒドいのはこのくだりです。
——
発達障害児にテレビやDVDなどのない生活を用意し、豊かな言葉がけを行うよう保護者に指導したところ、大きく改善した。また「あやし」「笑わせ」「たかいたかい」などを実施したところ、子供が喜び、言葉が出て、人間性が回復することもわかった。
——
【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう – 『MSN産経ニュース』 より引用
前半は、典型的なメディア有害論ですね。しかしテレビやDVDのせいで発達障害になることは100%ありません(発達障害と、子どもをテレビやDVDにどのくらい触れさせるかは、関係のない別の話です)。
が、本当にヒドいのは最後の「人間性が回復」という言葉。
この人は、発達障害で上手く言葉が出てこない子どもは人間性が欠落してるといってるんですよ!
ふざけんな! まずテメーの人間性からなんとかしやがれっ!
これは、いくつヒドいを重ねても足りないくらいヒドいと思います。
ただ、この記事からは、書き手が意図してないであろう部分で、障害児をめぐる問題を読み取ることができます。
まず最初に示されるこのデータ
——
埼玉県教育委員会が平成17年に発表した調査によれば、通常学級に在籍する特別な教育的支援の必要な子供は、小学校で11・7%に及んでいる。
——
【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう – 『MSN産経ニュース』 より引用
書き手は、障害児が存在すること自体を問題視してますが*1、むしろここで危惧(きぐ)されるのはこの11・7%の子どもたちに「必要」とされている「特別な教育的支援」がされているのか? ということ。
この中には、本来なら特別支援学級などで療育を受けるべき子が間違いなく含まれていると思うのですが、その場合、普通学級に在籍してること自体が問題となります。
障害への偏見の強い日本では、親が子どもの障害を認めず、必要な療育を受けさせないケースが非常に多く、そういったケースを減らす為にも、正しい知識は必要なのです。
そして後半示される児童虐待と障害児に関するデータ
——
あいち小児保健医療総合センター心療科の統計では虐待を受けた子供の57%に発達障害が認められ、広汎(こうはん)性発達障害(自閉症とアスペルガー症候群)が25%、ADHDが23%と報告されている。10年で6倍に急増している虐待が発達障害に与える影響の大きさに気づかせ、虐待を防止するための「親育ち」支援に国を挙げて取り組む必要がある。
——
【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう – 『MSN産経ニュース』 より引用
これはたぶん、やや雑なデータ*2だと思うんですが、障害児が虐待を受ける率が有意に高いのは事実です。このことは、それだけ障害児を持つ親が追い込まれやすく、ストレスを抱えやすいことを示しています*3。
このような状況で、記事が主張する『虐待を防止するための「親育ち」支援』をするとすれば、発達障害について正しい知識を共有し、偏見をなくしていくことが必要なわけですから、まずはこのような記事が新聞に載らないようにするべきなのだと俺(おれ)は思います。
*1:論外です
*2:虐待を受けた子は、健常でも発達障害に似た症状を示すことがあり、これが統計に含まれることがあります。また虐待の増加について10年で6倍というのは、必ずしも実数の増加ではなく、社会的な理解の変化により、それまで「しつけ」として見過ごされていた暗数が出てきた部分が相当数あることにも注意する必要があります
*3:もちろん、だからって虐待して良いということじゃありません
執筆: この記事は罪山罰太郎さんのブログ『俺の邪悪なメモ』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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