マーケティング的なるものは人々をインスパイアしない

金融日記

人々の行動を分析してそれに合ったことをするよりも、自分を信じて行動することが人を動かす、そうかもしれませんね。今回は藤沢数希 さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。

マーケティング的なるものは人々をインスパイアしない -民主党の支持率低迷から考えたこと-
民主党政権の支持率が下げ止まらない。最近の多くの調査で30%を切る危険水準に陥っている。

しかし、これは見方によっては非常に皮肉なことではないか。民主党政権は人気につながることなら何でもいうし、何でもやろうとする超ポピュリズム政権だ。そこには長期的な日本の国益のビジョンはまったくなく、つねに世論におもねり、マスコミに媚(こ)び、大きな票田を持つ利権団体には平身低頭で接する、徹底した大衆迎合だけが存在するのだ。

たとえばAとBという政策があったとき、民主党政権が気にすることは、どちらを選べばより支持率が上がり、より選挙に有利になるかということだけである。しかし、今、国民からそっぽを向かれているのが、その民主党政権なのである。

このようなポピュリズム政権が、その意図とは裏腹に、どんどん人気を失っていくことはなんだかとても不思議だ。しかし、実はこれは不思議でもなんでもなく、ビジネスでも、投資でも、そして私生活でも非常によくあることなのだ。

携帯電話なんてみても、それぞれの要素技術は優秀で、膨大なアンケート調査などで人々が要求する機能を調べあげて、それらを次々と追加し、莫大(ばくだい)な広告費を投入した日本のメーカーの携帯電話は世界でパッとせずに、一気に市場を制したのはある意味嫌な奴で傲慢(ごうまん)な独裁者のスティーブ・ジョブス *1 が自分のこだわりで自分が欲しいものを徹底的に作ったiPhoneだった。

そこにはマーケティングにより市場の声を聞いて、消費者に合わせるという発想が全くない。「これが俺(おれ)のプロダクトだ」と傲慢(ごうまん)に押し付けるだけだ。しかし、人々はそれに熱狂した。
*1:「スティーブ・ジョブズ 偶像復活」ヤング,J.S.著/サイモン,W.L.著/井口 耕ニ訳『東洋経済新報社』
http://www.toyokeizai.net/shop/books/detail/BI/8929be82dde9ad1d0d2b4af06e06b664/

人気のある個人ブログなどを見渡してみても、サーチエンジンの最適化とか、アクセス増加のためのテクニックなどを必死にやっているところなどどこにもない。人気ブログは、作者が書きたいものを書いているのだ。だからこそ読む人は面白いのだ。読者におもねる必要など全くないし、むしろそんなことをしてはかえって面白くなくなる。

投資の世界でも同じだ。

つい最近、行動ファイナンスや最先端の金融工学の有名教授や、スター・ファンド・マネジャーを集めて運用されていたゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの旗艦クオンツ・ファンドが多額の損失を出して密かにクローズされた *2 。
*2:「米ゴールドマン、クオンツヘッジファンドのGEOを昨年閉鎖-関係者」『Bloomberg.co.jp』
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=aZ9sGG4QE03E

こういったファンドは、過去の市場の動きやマクロ経済データなどを徹底的に分析して勝率の高い戦略を採用する。世界最高の頭脳が、最先端の金融理論を用いて巨大ファンドを運用していたのだ。しかし、アカデミックな最先端の理論と過去のデータの分析では、そこからどういう戦略が採用され、どういうポジションを取っているかというのは、わかる人から見れば簡単に推測できてしまう。これでは丸々と太った豚が、狼の群れの中を歩いているようなものだ。自分の手札を見せながら大金を賭け続けるポーカー・プレイヤーはどうなるのか?餌食になるだけである。

過去のデータをどれだけ精密に分析しても、未来がどうなるのかなんて誰もわからないのだ。未来を見抜くのは、トレーダーの動物的な感性なのだ。過去データの分析ではない。

また、デートのことなんて思い出してみよう。

さまざまな雑誌が、女性がどういうデートが好きなのか、どういうレストランが好きなのかというようなアンケート調査をしょっちゅうやっている。そういった雑誌を入念に研究して、今、東京で一番イケてるデートコース、みたいなプランを作って、それを実行したらうまくいくと思うか?
そんなマニュアル男に、彼女達は全く魅力を感じないだろう。

「この店とあの店、どっちがいい?」「プレゼントは何がほしい?」などと女性に聞いて、その通りに実行したら、その女性が満足すると思うか?そんなはずはないだろう。

彼女達が求めているのは、自分でも気付かなかった、自分の欲望なのであり、そんなことを教えてくれる男なのである。「私、本当はこういう人が好きだったの?」というサプライズだ。

世の中にはマーケティング理論の発達とともに、安易なアンケート調査が溢れかえっているし、インターネット・ビジネスに限れば、アクセス数だの検索キーワードだの詳細な定量分析がリアルタイムで可能になっている。

市場調査を代行したり、きめ細かなマーケティング戦略 *3 を練る業者も山ほどある。しかし、こういったものは全く役に立たない。
*3:「これからの広告会社には、ファンドマネージャーのような姿勢が求められていく – 田端信太郎」『アゴラ』
http://agora-web.jp/archives/898596.html

結局、このようなマーケティング的なるものは、人々をインスパイアしないのである。

もし、あなたがある分野で何かを成し遂げようとするなら、常に自分の感性を信じて、自分の直感と、自分の欲望に応じて行動していかなければいけない。

リーダーというものは、常にそれだけの自信を持っていなければいけないのである。

A man must believe in himself and his judgement if he expects to make a living at this game.
Jesse Livermore
(もしこのゲームで食っていこうというなら、まず自分自身を、そして自分の判断を信じなければいけない)

執筆: この記事は藤沢数希 さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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