株式投資で儲からない理由
投資した額にとらわれてしまうと、損が出てしまったときにちゃんとした判断ができなくなってしまいます。株価以外でもありますね、こういうこと。今回はぐっちさんのブログ『投資十八番』からご寄稿いただきました。
株式投資で儲からない理由
株価が回復してきました。
年度末の3月末時点の株価は1万1089円で昨年度末比37%も上昇しています。下がっているときは総じて悲観的ムードになり株式投資は危険だから手を出すなといわれますが、上がり始めると一転して、「株は今が買い!」的な論調が雑誌等でも増えてきます。しかし、株式投資で儲(もう)かっている人はわずかだといわれます。友人知人や雑誌に乗せられて投資を始めてはみたものの、大抵の人は数カ月、長くても数年で損して撤退します。そうなってしまう理由は、第一に知識不足や戦略の欠如(資産配分、銘柄分散を考慮しない等)が挙げられますが、それ以外にも無視できない要素があります。
買った価格に囚われる
問題は、たいていの人は、株式や投資信託を買った時の価格に囚われるということに起因します。
金融商品を100万円で買った瞬間から、この価格を基準として何%上がった、下がったと一喜一憂します。これは投資収益率を計算する上でだれでもおこなっているものなのですが、買値である100万円という金額に強烈に囚われてしまうことが問題となります。
-サンクコスト
経済学でサンクコストという概念があり、過去の支出のうち絶対に戻ってこない回収不可能な費用のことを指します。例えば、100万円で買った金融商品が80万円になれば、その時のサンクコストは20万円となります。
しかし、このサンクコストはあくまで含み損なので、現実の損失として確定していないと考えがちです。そのため、いくら値下がりしても、その後に市況が回復するだろうから損失はいつか回避できるはず、という根拠のない心理が働きやすくなります。
-損失は先延ばし、利益は早期確定
人間は、目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先して一刻も早く利益を確定させたくなり、損失を目の前にすると、損失そのものをリスクを取ってでも回避しようとする傾向があります。
また、利益を上げた時の喜びよりも、損をした時の苦痛の方が2倍強烈に感じるといいます(プロスペクト理論)。そのため、たとえば100万円の金融商品が110万円になるとリスク回避のため利益確定する一方で、逆に50万まで下がり続けたケースでは、場合によってはナンピン買い *1 を繰り返しながら保有を継続したりします。
*1:ナンピン買い・・・保有している金融商品の価格が下がったときに、さらに(リスクを取って)買い増しをして取得し、平均価格を下げること。
-利益は少なく、損失は大きく
つまり、多くの人は、利益は少なく、損失は拡大するような行動を知らずのうちにとっているのです。
サンクコストを現実の損失だと認めず、苦痛を先延ばしする一方で、利益は早々に確定させていたのでは儲(もう)かるわけがありません。重要なのは、将来どうなるかであって、買った価格がいくらかではありません。その金融商品は現実の時価である80万円の価値があるものなのか。買った値段である100万円のことはきれいさっぱり忘れて判断する必要があります。もし、80万円の価値がないと思うのであれば、直ぐに売却するべきです。
集団心理に惑わされる
集団心理も人間の本能のようなものなので、よほど注意しないと惑わされます。その点はアリと同じです。
——
働きアリのコロニーを観察していると、たまに何匹かの働きアリがコロニーから離れて動き出す動き出すことがある。全てのアリは単純なルール(前のアリについて行く)に従って行動しているだけで、コロニーから離れようなどと考えているわけではない。しかし、働きアリの集団が十分に大きくなると(転換点を超えると)、その集団は旋回運動を始め、アリは死ぬまで前方のアリについて歩き続けることになる。こうした旋回運動は丸2日間も続き、外周が1200フィートにもなり、一周するのに2時間半もかかる。最終的には、何匹かのアリが休息をとるために列から離れ、やがて円が崩れていくのである。
——
「投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い」 著者 マイケル・J・モーブッシン / 発行元 日経BP社 より引用
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P45510.html
-流行に乗って、散る
大多数がある方向に向かっているからといって、それに乗っていい結果になるとは限りません。オランダのチューリップバブル以来400年間、人間は何度もバブルに踊り、そして散りました。金融工学が発達した現代においても、多くの人は全体的に株価が値上がりしてしばらくすると、ブームに乗り遅れまいと株式投資を始め、いつしかバブルを作り上げ、そして散ります。既存の投資家でも、A国が急速に経済発展しているから株の買い時だと盛んに雑誌やテレビで取り上げられるようになると、これまでの損失を取り戻そうとして慌てて飛び乗り、結局、損失を広げてしまうことが多いのです。
-多数の愚か者の輪に入って一緒に踊り狂う
集団心理は、多くの人が自分自身の考え方とは関係なく他人に流されることで発生します。この心理から自分だけは完全に超然とすることはできませんが、いくつかの手がかりはあります(山崎元氏の新著「お金とつきあう7つの原則」 *2 でも、バブルの見分け方について少し触れていました)。
もし、投資で成功させようと思うのであれば、少数の愚か者ではなく、多数の愚か者の動向を注意深く観察することです。投資を焦って行う必要はありません。自分も多数の愚か者の輪に入って一緒に踊り狂うのであれば、アリと同じ結末が待っています。
*2:「お金とつきあう7つの原則」 著者 山崎 元 / 発行元 KKベストセラーズ
http://www.kk-bestsellers.com/cgi-bin/detail.cgi?isbn=978-4-584-13213-5
・・・・・・・・・・
このように、投資で失敗するのは、人間の抗しがたい本能にも原因があります。著名な新古典派経済学者であるフィッシャーは、1929年の株式市場暴落の数日前に「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(Wikipedia) *3 と根拠不明なこといい、自身も富の大半を失っています。
知識も知性もある合理的な経済人あるはずのフィッシャーでさえも、自分を律することが難しかったのです。そして、彼が大暴落前に言ったことと同じようなことが、10年ほど前のITバブルでも言われていました。IT革命によって生産性が向上し経済は持続的に成長するから、株価も未来永劫(えいごう)上がり続けると。
*3:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「アーヴィング・フィッシャー」
http://ja.wikipedia.org/wiki/アーヴィング・フィッシャー
それくらい株式投資は難しいものなのですが、本能に惑わされない方法はあります。
A:インデックスファンド等を機械的に買い付け、上がっても下がっても売却しない方針を徹底的に貫くこと。
B:初めから株式投資を行わないこと。
このいずれかの選択を取れば本能の呪縛(じゅばく)からは開放されます。ただし、Aは儲(もう)かる保障がなく多額の損失を抱えていても「長い目で見れば」と言い訳する、B を選択しても持たざるリスク *4 からは開放されません。
*4:ブログ『投資十八番』 2010.01.21 「「現金」は果たして安全か?」
http://stockkabusiki.blog90.fc2.com/blog-entry-1011.html
この二つ以外の選択を取るあきらめの悪い人たちは(私を含めて)、人間の本能に果敢に立ち向かっていくしかありませんね。無理をしない程度でw
執筆: この記事はぐっちさんのブログ『投資十八番』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
******
ガジェット通信では、皆さんの原稿を募集しています。
https://getnews.jp/post
******
■最近の注目記事
鳥は自分の名前を知らない
このままだとニュース番組はNHKしか生き残らない
日本にはマスメディアの危機なんてない。あるのは社員の高すぎる給料だけだ
ガジェット通信はデジタルガジェット情報・ライフスタイル提案等を提供するウェブ媒体です。シリアスさを排除し、ジョークを交えながら肩の力を抜いて楽しんでいただけるやわらかニュースサイトを目指しています。 こちらのアカウントから記事の寄稿依頼をさせていただいております。
TwitterID: getnews_kiko
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。