御札はどうして売れるのか

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御札はどうして売れるのか

今回はmedtoolzさんのブログ『レジデント初期研修用資料』からご寄稿いただきました。

御札はどうして売れるのか

神社の御札は、機能がないのによく売れる。構造は簡単で、恐らくは寸分違わぬコピーを量産することも容易であって、神社で販売されている本物にしたところで、売っているのは本職ではなくアルバイトであることも多い。

熊野神社の牛王符宣誓あたりになると、そもそもあれは和紙に印刷された木版画であって、同じ品質、同じ材料で、レーザープリンターで何枚でも量産できる。同等の機能を持った安価なコピー品をいくらでも作れるはずなのに、神社の御札を求める人達は「本物」を求めて、山奥にある神社までわざわざ出向く。

映画であったり音楽であったり、同等機能を持ったコピー品が安価に出回る昨今にあって、神社の御札にはなんのコピープロテクトもかけられていないのに、コピー品を求めるユーザーがどこにもいない。あれはヒントなのだと思う。

宣誓は大事

熊野神社の熊野牛王符は、お守りとして飾られる場合と、誓約書として使われる場合とがあって、願をかけたり、何か目標を宣誓するときに、ああいう「本物」が必要になってくる。

宣誓とは何かといえば、「自分に向けられた見知らぬ誰かの視線を感じる状況にあって、自らの意思を表明する機会」なのだと思う。

コピー品を使った宣誓には重みがないし、信頼されない。それがコピーなのか本物なのか、周囲の人からは判別不可能であったとしても、自分自身は騙せない。神社の御札には、「それが本物である」ということ以外に実質的な機能はないに等しいけれど、宣誓は自分自身の価値を担保に行われるものだから、そうした状況を偽物で飾りたい人はきっと少ない。

神社のお参りは宣誓で、宣誓の場では本物が求められ、コピーの御札を安価に販売しても意味がない。たとえばロックスターのライブ会場に、偽物のグッズを身につけて参加する人はたぶん少ない。ああいう場所はたぶん、参加した人にとっては一種の宣誓の場でもあるから、周りの人は「それがコピーかどうか」なんて気にしないだろうけれど、コピー品はたぶん、その場から自発的に排除されてしまう。

個人的な場では機能が求められる

親しい人しかいない状況は、何かのファンを公言するにしても宣誓には遠い。

学校では昔から、漫画が交換されたり、同級生でCDを貸し借りしたりが行われていたけれど、あれをやるのに罪悪感を持っていた学生はほとんどいなかっただろうし、借りたCDはカセットテープにコピーして、個人でそれを楽しむぶんには、実際問題としてコピーで十分満足できた。

コピーは容易に高品質になって、楽しみかたは個人的なままに大きく変化することもなく、結果としてたぶん、コピーされた海賊版に対する満足度は、昔に比べて大きく向上したのだろうと思う。

本物と何も変わらない、完璧なコピーが容易になった状況で、ユーザーからお金を得る機会を増やそうと思ったら、技術や道徳、規律でユーザーを縛るのではなく、宣誓の機会を増やすことを考えないといけない。

アイコンを販売してほしい

Line のスタンプが成功しているそうだけれど、あれも一種の御札なのではないかと思う。

FaceBook は個人的に過ぎ、2ちゃんねるはお互いの顔が遠すぎて、Twitter はたぶん、宣誓の空気に近い。ああいうサービスに、自分が書き込んだメッセージにごく小さな画像を貼れる機能をつけて、企業や作家の人たちが、アイコンに使える「本物」の画像をAmazon 経由で販売すれば、案外馬鹿にならないお金が動くのではないかと思う。

せいぜいが縦横1cm 程度の小さな画像に品質は関係ないし、画像のコピーは容易であって、アイコンに使える画像なんて、ネットには無数に公開されているけれど、自分の言葉のすぐ横にコピー画像を貼って満足できる人は、きっとそんなに多くない。

それがアニメの小さな画像でも、あるいは矢沢永吉の顔写真でも、何かのファンを自分のID に紐付けて公言する人は、自分の忠誠や帰属の証しとして、そうした場所に本物を求める。「本物であること」は、コンテンツそれ自体の機能よりもむしろ、これから先は大きな意味を持つのではないかと思う。

執筆: この記事はmedtoolzさんのブログ『レジデント初期研修用資料』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月12日時点のものです。

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