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なぜ『Gumroad』や『PayPal』が日本から現れないのか

考える日常

今回はkazutomiさんのブログ『考える日常』からご寄稿いただきました。

なぜ『Gumroad』や『PayPal』が日本から現れないのか

『Gumroad』*1 まわりが面白くなってます。足りない機能を補う『Gumroad Search』*2 が出てきたり、リンクを隠す『GumSafe』*3 が出てきたり、さらに GumSafe がコンテンツ URL を自分の方に抱えることで事実上『Gumroad』の決済機能だけを利用できるようにしたり、面白くてたまりません。

「gumroadの決済URLが割れてもコンテンツURLの隠匿性を維持できる機能を追加しました」2012年02月21日『gumsafe 開発ブログ』
http://gumsafe.hatenablog.com/entry/2012/02/21/104559

というわけで関連する情報を目にすれば興味を持って読んでるうちに、

はっきり言ってこんなサービス、やろうと思えばどこの会社もすぐできたはずなんです(実際そのように言っていた方も見かけました)。それをなぜやらなかったか?

「Gumroad の問題点についてもう少し掘り下げてみました。」2012年02月05日『見て歩く者』
http://wildhawkfield.blogspot.com/2012/02/gumroad_15.html

という疑問を見かけました。

実は私も類似のサービスを数年前に思いついて、起業できるか考えたことがあるので、この疑問には答えられます。

答:やってみようとすればわかる(苦笑)。

いや、規制のせいです。ほんとそんだけ。

以下、起業家の視点で、この手のサービスがどう規制に阻まれてしまうかを書きます。正確なところは法律家に聞いて下さい。関連する法律はこんな感じ:

・出資法(1954年)
・銀行法(1981年)(施行令、施行規則)
・プリペイドカード法(1989年)(施行令、施行規則)
・犯収法(2007年)(施行令、施行規則)
・資金決済法(2009年)(施行令、資金移動業者に関する内閣府令)

ちなみにプリカ法が資金決済法に変わりました(プリカ法は2009年に廃止)。あと外為法とかも関係してくるけど面倒すぎてやってられん。

なぜ『PayPal』は日本から生まれなかったのか

ディジタルコンテンツ売買決済をサービスしようとすれば、およそ以下の3方法が考えられます。

(A) 買い手からあらかじめお金を預かっておいて、それを代金に充てる
(B) 買い手がポイントを購入しておいて、それを代金に充てる
(C) 売買に応じて対価を送金する(現金を運ぶのはナンセンスなので、現金は運ばない=為替取引になる)

『PayPal』は(A)と(C)をやってます。

ここで、日本でお金を扱う商売をするときの大原則を見ておきましょう。これ豆知識な。

・商売で人からお金を預かっちゃいけない(出資法)→ (A) は禁止
・為替取引は、銀行しかやっちゃいけない(銀行法)→ (C) は禁止

『PayPal』使ってる人は知ってると思うけど、2009年まで日本で正式サービスしてませんでした。それまで――資金決済法ができるまで――違法だったからです。そして資金決済法ができても、(A) は資金移動業者に許されてません。だから『PayPal』で“入金”しようとすると、日本ではダメって言われるでしょ。

日本から『PayPal』が出なかったわけは、『PayPal』のサービスが違法だったから。簡単。

この時点で、何が「自由のもたらす恵沢」(憲法前文)だ*%#@!、とか私などは思うんですが、まあともかく (B) のポイント制は残ってる。

なぜニフティ @pay はサービスをやめたんだろう

(B) のポイント制は、プリカ法の(多分)改正前だったらできた。でも資金決済法施行直前の時点(2009年)では、ポイントをあらかじめ購入してそれを代金に充てるという (B) のサービスは、登録許可制になってしまっていました。条件いっぱい。そのひとつは純資産が1億円あること(ポイント発行残高と同額の資産でよくね?)。さらに犯収法との関連で、本人確認が義務付けられた。

上で参照したエントリでニフティの『@pay』サービス終了に言及されてます。私は『@pay』って知らなかったんだけど、理由は想像つく。『@pay』が (C) の為替をやってたらそもそも違法行為なのでそれに気づいたか、(B) のポイント制をやってたらプリカ法が改正されて(あるいはすでに改正後で)規制に引っかかることに気づいた、ってところでは。ニフティは本職のユーザ登録では本人確認してないんじゃないかな。

参考:「インターネット法制度を知る!|第7回 電子マネー!」2005年01月11日『Biz-IT』
http://www.ntt.com/bizit/contents/ec/law/07.html

現状はプリカ法に代わって資金決済法が施行されてます。そして今、(B) のポイント制による少額決済は日本で完全に潰されました。なぜいわゆる“ポイント”は換金できないんだろう? と思ったことはありませんか。最近話題の『Grow!』*4 はもらったチップを現金でなくアマゾン商品券にしかしてくれないんでしょう?

それは、資金決済法がポイントの換金(払戻し)を禁じているからです。つまり、一度ポイントを買ったら、それはお金以外の“物”になってしか相手に渡らない。

いま日本で可能なネット決済は (C) の為替のみです。

なぜ日本で『Gumroad』が生まれないのだろう

資金決済法は「資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資する」(第1条)ためにできたことになっています。そして確かに、それまで銀行法で禁じられていた為替を“資金移動業者”が行えるようになりました。じゃあそれになればいいんですよ、とりあえず。

しかしそれは登録許可制です。その登録を得るためには、(どんなに少額の決済をやろうとしても)一千万円以上の保証資金を用意し、どんな社内体制で、どのような方法で商売をするのか説明し、さらに状況が悪化した時でも収益が見込めると(投資家ではなく!)政府を説得しなければならないのです。信じられん。失敗する自由がないわけだ。

そして晴れて登録が受けられても、本人確認が待っている。100円の決済をするのに 『Gumroad』のように35円が得られるとします。本人確認のための人件費と郵送費はそれで賄えますか。無理です。最初の壁が超えられません。

『Gumroad』と同じサービスを日本でやろうとすれば、それは明らかに違法です。(C) の為替をやるのに本人確認をしないという一点からだけで分かる。だから『Gumroad』は日本からは生まれないのです。

ちなみに『Gumroad』のサービスそのものは違法じゃないです。資金決済法にこうある:

第六十三条  第三十七条の登録を受けていない外国資金移動業者は、法令に別段の定めがある場合を除き、国内にある者に対して、為替取引の勧誘をしてはならない。

「為替取引を提供してはならない」じゃなくて、ですよ。ここ試験に出ます(笑)。

なぜ今『PayPal』は日本でサービスできるのか

『Gumroad』と違って『PayPal』はちゃんと登録を受けたようです。こんな記事↓もあるし。

「送金業務の規制緩和を睨み、異業種の陣取り合戦が本格化」2009年04月15日『Diamond ONLINE』
http://diamond.jp/articles/-/6956

この記事では、『PayPal』が日本市場の規制緩和に努力し、緩和されたら一気にスタートみたいに書いてあります。でも私に言わせれば全く違う。『PayPal』は1998年にスタートしていて、日本人は(銀行以外は)2009年まで誰もスタートが切れなかった。2009年の時点で日本人は大きなハンディキャップを負っているのです。

『PayPal』がスタートアップ時に今の日本の法規制をクリアしてサービスを始められたか? 少なくとも、今の『PayPal』がやるよりは比較にならないほど困難だったと思います。それはつまり、今の法規制がスタートアップを阻害していることに他なりません。

そしてその法規制は、『PayPal』自身が意図してるかどうかは別ですが、『PayPal』の既得権益を保護するように働いているのです。スタートアップの参入は困難で、参入できるのは銀行やクレジットカード会社などプラットフォームと体力があって登録のコストを引き受けられるところばかりでしょう。しかしもうけは薄い。本業でもうかっているなら(そしてその本業も法規制で守られている)もうからない分野に参入する動機は弱いでしょう。

いつものパターン?

日本経済の歴史はまったく詳しくないけど、これ同じことを繰り返してるんじゃないかなと思うのです。日本で規制されている間に『Gumroad』あるいは類似のサービスが海外で大きくなり、日本と世界を席巻する。『Gumroad』を『PayPal』に置き換えてもそうだし、きっと“クレジットカード”もそうじゃないのかな。

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