串に刺さない”鶏焼き肉”って何?伊勢海老から松阪牛の希少ホルモンまで、女神のお膝元で美味しいものを食す三重グルメ旅
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江戸時代、庶民の夢だった『お伊勢参り』。天照大神は太陽の女神、豊受大神は食物と産業の女神として、古くから多くの人の信仰を集めてきました2016年に伊勢志摩サミットが行われた際は、各国首脳も伊勢神宮を訪れたのは記憶にあたらしい所です。サミットから約1年。今年は『お伊勢さん菓子博』が行われるとのことで、女神のお膝元、三重県で美味しいものを訪ねてみました。
4年に1度のお菓子の祭典『菓子博』とは
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(画像はhttp://www.kashihaku-mie.jp/より引用)
菓子博は、明治44年の第1回から現在までほぼ4年に1度、行われているお菓子の博覧会です。正式名称は『全国菓子大博覧会』。会場には全国からお菓子が集まり、優秀な菓子には大臣賞などが受賞されます。お菓子屋さんにとって、この菓子博で受賞することは大変名誉なことだそう。また、菓匠による芸術的な工芸菓子も見どころの一つです。
会場は開催ごとにかわり、前回(2013年)は広島、今回(2017年)は三重県伊勢市で初開催。その愛称が『お伊勢さん菓子博』。”お菓子がつなぐ「おもてなし」を世界へをテーマに、三重県営サンアリーナと周辺会場にて、4月21日から5月14日まで行われる予定です。
伊勢名物『赤福』&パティシエを目指す高校生たちのお菓子作り
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伊勢名物といえば『赤福』です。本店は多くのお客さんで大混雑。
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筆者の目の前でものすごい勢いで売れていき、売り切れ続出。
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おみやげ用は工場でライン生産されていますが、お店では手作りの赤福餅が食べられるのも嬉しいです。
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目の前には五十鈴川。畳のお座敷で赤福餅とほうじ茶を頂きます。
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(写真は赤福提供)
1707年の創業以来、伝統のスタイルを守り続けてきた『赤福』ですが、今回行われる『お伊勢さん菓子博2017』では白あんを使った紅白の赤福餅『祝盆(いわいぼん』が会場限定で登場。
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(写真は赤福提供)
また、こちらも菓子博限定で、江戸~明治時代を思わせる、黒砂糖を使った昔懐かしい味わいの赤福餅が復刻。白砂糖のものよりちょっとクセのある甘みだそうで、食べ比べてみるのも面白いかもしれません。
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『お伊勢さん菓子博2017』の見どころの一つが工芸菓子。絵画や彫刻をお菓子の作品で作り出す、一大アートです。地元の菓子職人が巨大工芸菓子を担当し、県内7つの高校・専門学校生たちも参加しています。そのうちの一つ、三重県立相可(おうか)高校にお邪魔しました。
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相可高校は公立の学校としては珍しく食物調理科を持ち、数々の料理コンクールで優勝する有名校。生徒たちが運営する常設レストランがあるのは、国内でここだけ。ドラマ『高校生レストラン』のモデルにもなりました。
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今回の工芸菓子の担当テーマは地元の野菜とのことで、生徒たちは一生懸命野菜を作っています。
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本物みたいですが、これもお菓子なんだそう。いろいろな素材を組み合わせて本物らしい質感や色合いを試行錯誤しています。
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色むらなども精彩に表現していますね。
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プロを目指すレベルの高い生徒たちですが、普通のお菓子づくりとはまた違った工芸菓子の扱いに、苦戦を強いられているそう。
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工芸菓子作りの経験がある菓匠などから指導を受け「そこから新しいアイディアがひらめいて、ドンドン自分たちでチャレンジして行くんです」と先生。ただ学習するだけでなく、吸収して発想に変えていく力。自発的でなんとも頼もしいですね。
正直、ろくに自分でお菓子を作ったこともなく、さらに工芸菓子がどういうものかもあまり良く知らなかった筆者にとって、高校生たちが真剣にお菓子作り(しかも工芸菓子)を頑張っている姿は眩しいかぎりでした。
コスパ最高!地元民が愛する手頃で美味しい『鶏焼き肉』
さて、お菓子もいいけど他のものも食べたい…という方にオススメなのが、肉です。
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松阪牛で有名な松阪市は、伊勢湾に面した三重県中部の市。同市でなんといっても有名なのが松阪牛です。でも、松阪市の人は普段から松阪牛をよく食べている…わけではありません。その代わり、よく食べられているのが、鶏焼き肉です。
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鶏焼き肉は一般的な焼鳥とは違い、甘辛の味噌ダレに漬けた鶏肉を網の上でドンドン焼いて食べます。焼いたあとは更にもう一度味噌ダレをつけるのがポイント。
「また味噌ダレつけたら辛くない?」と思ったのですが、焼いているうちに最初のタレは下に落ちるみたいで、再度つけて大丈夫。ご飯がすすむ味ですね~。
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もともと、卵を生み終わった鶏(廃鶏)を捨てるのがもったいない、というところから始まった鶏焼き肉。この廃鶏のことを地元ではヒネと呼ぶそう。
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若鶏とヒネ、どちらも味わいましたが、若鶏はあっさり淡白で柔らかく、ヒネは噛みごたえと味わいがあります。万人受けする若鶏に比べ、ヒネは好き嫌いがはっきり別れるとのこと。筆者は好きでしたけどね!その他、一般的な焼き鳥屋でおなじみの肝や鶏皮、クビ(セセリ)などもあります。
お皿いっぱいの鶏肉(2つの部位の組み合わせが選べる)、ご飯と味噌汁はおかわり自由。今日の小鉢とデザートがついて1000円は安すぎます。
市民にとって、安くて美味しい鶏焼き肉には身近なグルメ。ところが、市外・県外ではいわゆる一般的な串に刺した『焼き鳥』しかないことに驚く人も多いそう。筆者も焼き鳥はよく知っていますが、こんな風に鶏を焼いて食べるのは初めて。
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松阪牛以外の看板がなく、最近ちょっと元気のない松阪市を盛り上げるためにも、地元の有志がボランティアで鶏焼き肉を広める活動をしています。
鶏焼き肉店の条件は3つ。
・味噌ダレであること
・網焼きであること
・鶏焼き肉専門店であること(松阪牛などを扱っている場合は、メニューのトップが鶏であること)
松阪市内には条件を満たす鶏焼き肉のお店が約20店舗もある他、最近はご当地グルメグランプリなどにも出場し、徐々にその知名度を上げていっている所だそう。各地のグルメイベントなどでも見かける機会が増えそうです。
やっぱり松阪牛!ご当地限定の希少なホルモン焼きを食す
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(画像は四代目まつさか提供)
それでも三重と行ったら松阪牛!一度は松阪牛を食べたいけど、ちょっとお財布が心配…というあなたにおすすめしたいのが、地元でしか食べられない希少なホルモン焼き。
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(画像は四代目まつさか提供)
お肉の部分も最高級の松阪牛は、ホルモンだってハイクオリティ。雑味のない極上の脂がのった『とろホルモン』は、好きな人にはたまらない美味しさのはず。
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とろホルモン以外の盛り合わせ。コリコリ(心臓の大動脈)、ビシ(タンの奥にある希少部位。1歳をすぎるとなくなってしまう)、牛アワビ(ヤン)…。数ある希少部位も、焼いてしまうと何をどこに置いたんだかわからなくなるので要注意です。
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焼きはもちろん炭火焼き。三重県が誇る萬古焼の七輪です。素敵。火加減が強すぎるときは氷を置いて調節しますが、あまりたくさん置きすぎると火力が落ち、効率よく焼けないのでコントロールを要します。
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松阪牛がお高いのは当たり前ですが、ホルモンならお財布に優しい。ホルモン中心に食べつつ、少しは肉を奮発する…といった食べ方もできそうですね。ホルモンは何と言っても鮮度が命。地元ならではの珍しい味わいが詰まった焼き肉を堪能してみて下さい。
各国首脳が仕事そっちのけで飲んだ!?伊勢海老のスープ
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2016年の伊勢志摩サミットの舞台となったのが、志摩観光ホテル。実際に首脳たちが記念写真を取った場所や、食事をしたテーブルなども見られます。
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三重県は、難しいとされていたブルゴーニュ種(ポマティア)エスカルゴの養殖に、世界で初めて成功。これには本場フランスも驚いたとか。なかなか馴染みのないエスカルゴですが、食感は貝にそっくり。クセもなく上品な味わいは、”森のアワビ”の名に恥じない美味しさです。
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各国首脳が三重の美味しいものに舌鼓を打ったのですが、中でも一番人気だったのがホテル名物の伊勢海老のクリームスープ。いわゆるビスクスープですね。「あまり大きな声では言えませんが…安倍首相のお話中に、皆さん夢中で召し上がっていらっしゃいました」。ほぉ~!
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伊勢志摩サミットで出されたディナーやランチを、同じテーブルで頂けるプランも用意されているそうです。ランチでもお一人様3万円というお値段ですが、各国首脳気分を味わい方は是非。
海外観光客にも大人気!海女小屋で海の幸を堪能
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サミット効果で伊勢神宮の参拝客が増加したことは知られていますが、サミットをきっかけに世界中から注目されたのが海女漁。海女漁の歴史は古く、奈良時代には朝廷に海の幸を献上した記録がある他、万葉集にも海女の歌が読まれています。
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海女さんのように海に入って海産物を採る女性、というのは日本と韓国にしかいないそう。そのため、海外からは”ワンダー・ウーマン”として取り上げられ、イギリスBBCなどでも特集されました。日本では国指定の無形民俗文化財に指定されています。
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訪れたのは伊勢志摩国立公園内に位置する海女小屋『はちまんかまど』。外は浜風が吹き付けて寒いですが、海女小屋の中は炭火でポカポカ。
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海女さん達が和やかにおしゃべりしつつ、とれたての海の幸を手際よく焼いていってくれます。素早い!
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サザエ、ヒオウギ貝、アワビ、そして…伊勢海老!伊勢海老は1匹2500~3000円位だそう。海女さんに握られて大暴れ、網の上でも大暴れ。
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観念しておとなしくなりました。きれいないい色ですね~。
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プリっと伊勢海老の身を剥いてくれます
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炭火で焼かれて、湯気が上がるむき身の伊勢海老…こんな画なかなか撮れないよ!
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海女さんたちの一番年長のレイコさん。80歳まで現役でしたが、今は引退され、海女小屋で接客をされています。額の星は陰陽師・安倍晴明の桔梗門。海での安全を願うおまじないです。
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この土地では、女性は海にもぐれないと嫁げなかったそう。子供の頃から海で泳ぎ、中学生くらいからは素潜りを始め、海女さんとしての素質を鍛えていきます。
以前は夫とともに船で海へ出て、重りと命綱を付けて海女さんが潜り、獲物が採れたら船に引き上げてもらう『フナド』漁も盛んでしたが、今は旦那さんたちはサラリーマンなど他のお仕事を就いていらっしゃるそう。
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海女さんたちの明るい笑顔と楽しいおしゃべりで、誰もが和やかな気分になる海女小屋。素朴なたたずまいの海女小屋ですが、フリーWi-Fi完備にバリアフリー、ムスリムのための礼拝所設けるなど、幅広い観光客の受け入れにも力を入れています。伝統衣装を体験したり、海女さんとのおしゃべりを楽しんでみてはいかがでしょうか。
また乗りたい!見どころの多い観光特急『しまかぜ』
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最近テレビCMも多い観光特急『しまかぜ』。筆者は帰り、名古屋行きの『しまかぜ』に乗車。
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とにかくゆったりしたプレミアムシート。シートは本皮、フットレストのリクライニングもあります。
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展望車両。電車好きならずっと張り付いていたいような眺めです。お天気がちょっと悪くなってきたのが惜しい…。記念乗車券は英虞湾の風景でした。
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カフェ車両にも行ってみたかったのですが座席が気持ちよすぎて動けなくなってしまい、気がついたら名古屋でした…。『しまかぜ』また乗りたい特急です。
サミットから約1年、高級ブランドとご当地グルメの間にあるもの
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伊勢志摩サミットから約1年。観光客が増えたところもあれば、そうでない所もあり、三重県内でもそれぞれ違う様子が感じられました。松阪市で「松阪牛が有名すぎてそれ以外のものが目立たず、元気がない」の声を聞いたのも印象的です。
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伊勢志摩観光ホテルのメインのお客さんは50代以上、リッチなホテルや松阪牛や伊勢海老の美味しさをふんだんに味わうにしても、時間とお金に余裕のある方でないと難しい。その代わり、松阪牛ホルモンや鶏焼き肉などの身近で美味しいご当地グルメを知ることができたのは収穫でした。
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『お伊勢さん菓子博2017』の期間は4月21日から5月14日まで。お菓子はもちろん、三重県の美味しいものを味わいたい方は是非お出かけくださいね。
(参考:つづきは三重で http://www.mie30.jp/)
(写真下に表記のない写真は全て筆者撮影)
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