「甲状腺癌は実はその気になって探せばすごく多い」ツイートまとめ
原発事故によって被災地で増える可能性もあるのではと言われている甲状腺癌(ガン)。今後調査などが行われその実態がわかってくるとは思いますが、それらの調査の結果を見る前に知っておきたい話がTogetterでまとめられていました。放射線科医のPKAさんによれば、甲状腺癌には増殖がゆっくりで、発癌しても寿命が来るまで何も起こさないものがあり、それらはよく調べるとかなりの割合で見つかるという話があるそうです。そしてその数字は甲状腺疾患の専門書によれば「10〜28.4%」とのこと。かなり高い割合でこの何も起こさない甲状腺癌にかかり、そのまま寿命を迎えている人がいるということです。何も起こさないので、通常だったら知らないまま寿命を迎えるのですが、甲状腺癌の有無を調査するとこれらの人々が調査結果として数字にあらわれてくる可能性があります。以下、PKAさんのツイートを再度まとめてみました。
PKAさんによるツイートまとめ
※以下、PKAさんに許可をいただきツイートをまとめたものです。
確かに記憶にはあったのだけど、いまひとつ自信を持って言えなかった、わりと重要な話の証拠を大学で発見してきました。「甲状腺癌は実はその気になって探せばすごく多い」って話。
甲状腺癌で主流のタイプのものは、「癌」という名前のわりに増殖がゆっくりで進行のスパンが長い性質があります(ただし、この性質のせいで治療後相当時間が経っても「もう再発はないでしょう」って言えない)。そんなわけで、発癌しても寿命が来るまで何も起こさないやつが結構あるのです。この死ぬまで何もしない甲状腺癌が、病理解剖するとすごい高い確率で見つかるって話を解剖学講座のドクターから聞いた記憶があったんですよ。彼の話では「5人に1人くらい」という凄まじい頻度。相当前に聞いた話だし凄い割合なんで、「幾ら何でもそんなには」って思って言わなかったわけです。
そしたら今日、資料が見つかりました。「よくわかる甲状腺疾患のすべて」初版の甲状腺微小癌の項目。「ラテント微小癌の頻度は、わが国では10〜28.4%と報告されている」。iPod Touchのショボいカメラですが、読めますよね?
●資料の写真
http://t.co/76KA6Ama [リンク]
このテキストのソースには当たっていないですが、この書き方は「報告例によって揺らぎがあるが、少ない報告で10%くらい、最も多い報告では28.4%」と思っていいでしょう。この頻度は、よく言われる「甲状腺癌の有病率は0.1〜0.3%」というのとは大きく異なります。もちろんこれは剖検例で見つかったものなんで、ほとんどは高齢者。若い人には当然もっと少ないでしょう。また普通の検査で探しても見つからない場合もあるので、「生きてる人相手に頑張って探したら見つかる割合」はもっと減ります。ただ甲状腺癌は30代から急増して50代にピークがある、比較的若い人に多い癌で、20代の患者だってゴロゴロいます。成長が遅い分、発生から10年以上経過してから見つかる事例が多いと言われますんで、20代の患者は10代で既に癌を持っていた可能性が十二分にあるわけです。
要するに若い人が知らずに甲状腺癌を持ってる事例だって相当多いわけですよ。一例ですが、私が大学で学生実習の担当をしていた4年間、学生にお互いに甲状腺エコーの練習をさせていました。その中で4年分の学生約400人(大半は20代前半)から甲状腺癌を2例見つけています。もしかしたらもっといたかも。トントン拍子で甲状腺癌と診断がついたのが2人。要精査の人も5-6人くらいいましたが、その後の経過は知りませんので。要精査の人は多くは良性なので、ここは「癌はゼロだった」と見なしときます。
「若い人は癌の成長が早い」は悪性腫瘍の一般論ですが、甲状腺癌は変わってて、「予後良好因子」の1つに「若年発症であること」が挙げられる癌なんですね。成長の遅いタイプがむしろ若年発症型に多いんです。
●資料『甲状腺乳頭癌の主な癌死危険度分類法と予後』へのリンク
http://t.co/gtZle79H [リンク]
んでもって、なんでこんな「甲状腺癌って実はものすごく多いよ」「若くても油断できないよ」的なこと書いたかというと、脅かしたいからではなく、むしろ逆。今後おそらく出てくるであろう「被災地で甲状腺癌が増えた!」的な言説で無闇にビビってほしくないからです。
長期間潜在するタイプの病気に対してスクリーニング検査(特定の病気を見つけるための健康診断)をするようになれば、見かけ上のその病気の発生率は確実に増えます。むしろ増えなかったら「ちゃんとスクリーニングしろバカ」って行政を蹴っていいレベルのお話。そして注目されてるから報告もされます。報告されたら、嬉々として「スクープだ!」って騒ぎそうな人、いますよね? 一般マスコミはそこまでバカじゃないとしても、「インシデント報告が増えた」という話をあたかも「医療事故が増えた」かのように伝えた新聞とかも知ってるんで、「原発事故で増えた」って言い出しても全く不思議じゃない。ということで、これを読んだ皆さんには、報道や扇動に乗って騒ぐ前に、発表される数字の意味を考えてほしいんです。おそらく、原発事故後2〜3年以内に、スクリーニングの結果は出始めるでしょう。ただ、そこは原発事故由来の甲状腺癌が出るにはまだ早い時期なんです。
厳密なスクリーニングをしたら10年も経たずに見つかる可能性が高いとはいえ、もし原発事故が原因で発症する甲状腺癌があるとすれば、恐らくそれが発見されるのは事故から5年程度は経過してからです(特殊なタイプの甲状腺癌、特に未分化癌や髄様癌なら早いですが、そういうのは検査でわかります)。初回のスクリーニングは、それまで見つかってなかった事例を全部引っかける分、すごく多くなる可能性が高く、あまり参考になりません。2回目以降のスクリーニングで、「前回はなかったけど新たに見つかった事例」がどういう推移を示すかが鍵でしょう。
改めて書くと、私は現状程度の公衆被曝が目に見える形で癌を増やすとは全く思っていません。髪が抜けたりなんてのは「ありえない」と一蹴します。医療目的という大義名分のもとで患者に内部被曝をさせる特殊な仕事なので、自分のやってきた医療行為がどの程度のリスクなのかは熟知しているつもりです。それでも、放射線は避けるに越したことはないし、低線量被曝をした人に病気が出てないかどうかは確認しなきゃいかんわけです(「出てないことを確認する」と言い換えてもいい)。お祭りみたいに太く短く燃やすのではなく、年単位でじっくり取り組まないといけない問題なんですよ。科学畑の人間は人の生死すら数値化して「比較に用いる天秤の重り」として扱うので、冷たく思う人もいるかもしれません。しかし、科学を扱ってる時以外は普通に感情のある人間だし、目指しているものは「原発事故の悪影響を最小化すること」に他ならないことはご理解いただければと思います。
(編注:まとめるにあたって改行位置など文意に影響ない範囲での編集をおこなわせていただきました)
Togetterでのまとめ http://togetter.com/li/241058
@PKAnzug https://twitter.com/#!/PKAnzug [リンク]
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。