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こんなに若者が幸福な時代はない

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Stairway to Heaven

今回は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

こんなに若者が幸福な時代はない

この20年はほんとうは「幸福」だったのではないか、というエントリー*1 を書きましたが、それに関する興味深いデータがあるので、あわせてアップしておきます。

*1:「第8回 ほんとうは幸福だった20年?(橘玲の世界は損得勘定)」2011年10月26日『Stairway to Heaven』
http://www.tachibana-akira.com/2011/10/3401

上のグラフは、社会学者・古市憲寿の『絶望の国の幸福な若者たち』*2 に掲載された図をスキャンして、わかりやすいように着色処理したものです。同書によれば、古市自身もこのデータを豊泉周治『若者のための社会学』*3 で知ったとのことで、その後、一部の社会学者のあいだで話題になったようです。

*2:『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿 著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062170655/aic-22
*3:『若者のための社会学―希望の足場をかける』豊泉周治 著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4434144774/aic-22

このデータは内閣府の「国民生活に関する世論調査」によるもので、グラフを見れば明らかなように、20代男子の“生活満足度”は1970年~90年に比べて、この10年間で15%近くも急上昇しています。いまの若者は、1980年代のバブル最盛期の若者たちよりもずっと“幸福”なのです。

世間では、「グローバリズムによる格差社会で若者が不幸になった」と大合唱されています。だったら、なぜこんな奇妙な結果が出るのでしょうか。

古市はそれを、社会学者・大澤真幸の論を引きながら、次のように説明します。

「幸福」というのは相対的なもので、私たちが「今は不幸だ」とか「生活に満足していない」と感じるのは、「将来はより幸福になれる」と思っているからだ。これからの人生に「希望」があるひとにとっては、今の人生を「不幸」として否定しても、自分を全否定したことにはならない。

だが、もはや自分がこれ以上幸福にはなれないと思えば、ひとは「今の生活が幸福だ」とこたえるしかない。すなわち、若者の幸福度(生活満足度)が急上昇しているのは、2000年以降、彼らが将来に「希望」を持てなくなったことの裏返しなのだ……。

日本の若者が置かれた状況は、アメリカの若者たちが、将来に対してきわめてポジティブに考えていることを見るとよりはっきりします。

アメリカでは、1980年以降に生まれた世代を“新千年紀世代”と呼びます。“新千年紀(西暦2001年からの1000年間)に入ってからはじめて大人になった世代”のことで、2011年現在では18~30歳の若者たちにあたります。

この新千年紀世代の意識をアメリカの大手世論調査会社『ピュー研究センター』が調べたところ、X世代(1965~80年生まれ)やベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)と比較して、以下のようなことが明らかになりました(調査報告は2010年2月)。

アメリカの新千年紀世代に特徴的なのは、「人生でなにがたいせつだと思うか」という質問に対して、他の世代に比べ、「良い親になること」(52%)や「良い結婚をすること」(30%)という回答が際立って高いことです。

しかし彼らは、たんに保守化しているわけではありません。「移民はアメリカを強くする」とこたえているひとの比率は、30歳以上では4割ですが、新千年紀世代では6割に達しているのです。

さらに、「アメリカでは、いろいろなことがうまく進行している」という意見に賛成するひとの比率が、30歳以上(26%)に比べて新千年紀世代の若者が顕著に高い(41%)、という結果も出ています。(以上のデータは、山岸俊男+メアリー・C・ブリトン『リスクに背を向ける日本人』*4 より)。

*4:『リスクに背を向ける日本人』山岸俊男、メアリー・C・ブリトン 著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062880733/aic-22

アメリカの若者たちは、伝統的な価値観(よい家庭をつくる)を重視する一方でリベラル(移民は積極に受け入れるべきだ)でもあり、自分たちの将来にきわめて前向きなのです。

「ウォール街を占拠せよ」のような若者の運動がなぜ日本では起きないのか、という議論がありますが、その理由は日本とアメリカの若者たちの“希望”のちがいによってきわめてシンプルに説明できます。

日本の若者は、「将来にたいして希望は持てないけれど、いまはそこそこ楽しく暮らしていけるからとりあえずこれでいいや」と思っています。それに対してアメリカの若者は、「未来はもっとよくなるし、そうなるべきだ」と考えています。だからこそ、現状に対する不満が“運動”へとつながるのです。

それともうひとつ、“生活満足度”のグラフの大きな特徴が、この20年で30代~60代の幸福度が大きく下がっていることです(とりわけ2010年の調査では、50代の2人に1人が生活に満足していません)。

これは、彼らが将来に大きな“希望”を持っている(だから現状に不満だ)ということでしょうか。しかしこの説明は、あまりにも無理があります。

大澤のいうように、「ひとは希望をなくすにつれて現状に満足するようになる」と考えるならば、1970年代~90年代のように、年齢とともにに生活満足度が上がっていくのが通常の姿です(年をとると“先が見えてしまう”のです)。それが急激に下がっているとすれば、2000年以降、日本の中高年世代に“なにか特別のこと”が起きたと考えるほかはありません。

このことは、私が『大震災の後で~』で述べた、「1997年のブラックスワンが日本の中高年層を直撃し、累計で10万人を超える死者を出す“見えない大災害”を引き起こした」という仮説と整合的です。彼らは若者たちのような“漠然とした不安”ではなく、経済的な“リアルな危機”に見舞われているのです。

それともうひとつ、このグラフがきわめて示唆的なのは、現在の20代の若者たちが(おそらく)戦後もっとも“幸福”だとしても、その生活満足度は、今後、年をとるにしたがって急速に下がっていくだろう、ということです。そしてまた、いまよりもさらに“幸福”な若者たちが、登場することになるのでしょう。

執筆: この記事は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

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