狂気の世界に飲み込まれた少女は何を思う? 鬼才・丸尾末広の人気漫画を実写化! 映画『少女椿』公開中
あらためて言うまでもないが、人の心の中はきれいなものだけが詰まっているわけではない。
多い少ないの差はあれ、闇や憎しみやどうにもならない欲望を隠し持っている。
時折、そんな心の中の閉ざされた部分を刺激されるような作品と出会う。
映画『少女椿』もまた、そんな作品のひとつだ。
舞台は、昭和の日本。
母親を亡くし、ひとりぼっちとなった少女、みどりは、サーカス団の人たちと一緒に
暮らすこととなる。
サーカスにいたのは、奇妙な芸を持った人々。そして、そこに渦巻く愛欲の世界に
みどりはとまどいを隠せない。
そんな時、ワンダー正光という奇術師が入ってくる。
優しく接してくれるワンダーにひかれていくみどり。
しかし、この恋こそが、後に起こるおぞましい悲劇の始まりだった・・
ストーリーはほぼ、丸尾末広の原作に沿って作られている。
しかし、その原作に忠実に作るということがどれほど大変であったかは想像に難くない。
なぜなら、原作は一般に公開する作品(一応『R15+』指定ではあるが)としては、不適切なシーンが多いからだ。
これまで「実写化は不可能」と言われていたのは、その部分が大きい。
それを、ぼかしや、グロテスクなところはあまり映さず、それを観るものに想像させるなどの手法を使って、違和感なく見られるようにしたのは、演出の巧みさであろう。
劇中では、昭和モダンなセット、極彩色の映像、アニメーションの挿入など、独特の映像世界が繰り広げられる。
とにかく、全編に渡って漂う、幻想感・退廃感がたまらない。
つげ義春の『ねじ式』や、江戸川乱歩の倒錯した愛欲をテーマにした作品群、また、大槻ケンヂの手による筋肉少女帯の曲などに通じる妖しさや背徳感を感じる。
主人公みどりを演じた中村里砂がいい。
もはや、中村雅俊と五十嵐淳子の娘であるという肩書きは不要なほど、女優としての存在感を発揮している。
特に、彼女の目力の強さは見るものをひきつける。モデルとしての活動で培われたものでもあるのだろう。
そして、もう一人の重要キャストであるワンダー正光を演じるのが、風間俊介。
正直、映画を見るまでは、彼にこの役ができるのか疑問であった。
というも、原作でのワンダー正光は小太りでひげを生やした、かなり怪しい中年の男だからである。
しかし、実際に見てみると、意外にハマっており、時に狂気を感じるような役柄を見事に演じていた。
最後に、エンディングで流れてくるチャラン・ポ・ランタンの音楽。
これほどまでに、映像とマッチした音楽はないだろう。
映像に負けないほどアクが強く、映画の後もしばらくは耳から離れなかった。
映画を観終わった時、そんな奇妙な世界に憧れ、その中に入っていきたくなるような感情が生まれていたのも不思議な感覚であった。
ちなみに単なるカルト映画だと思って観に行った私は、いい意味で期待を裏切られた。
というのも、最初私は、平日午後の上映に行ったのだ。
イベントが組まれているわけでもなく、レディースデイでもない。しかし、30分前に劇場についたところ、既に満席で立ち見分も売り切れていた。
仕方なく、翌日の分を予約して、観ることができたが、この手の映画でこの人気は驚いた。
映画館の方に聞くと、多いのは風間俊介のファンと原作のファンの方だという。
シネマート新宿では、6月3日までの上映予定であったが、あまりの人気に延長も検討されているとのことであった。
興味のある方はぜひ劇場に足を運び、独特の映像世界を堪能してみてはいかがだろうか。
■映画『少女椿』は、シネマート新宿 他で上映中
※画像は、『少女椿』オフィシャルサイトより http://www.vap.co.jp/s_tsubaki/#0
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