【米光×中村 ぷよぴったん対談】その4:「ゲームデザイナーにはなるな」 “勃興期好き”な2人が若者に学んで欲しいこと

【米光×中村 ぷよぴったん対談】その4:「ゲームデザイナーにはなるな」 “勃興期好き”な2人が若者に学んで欲しいこと

『ぷよぷよ』『魔導物語』『バロック』などの名作ゲームを生み出した米光一成氏と、人気ゲーム『もじぴったん』シリーズのディレクター、プロデューサーを務めた中村隆之氏。現在、米光氏は立命館大学で講義を持ち、電子書籍を対面販売する“電書部”を主宰、中村氏はバンダイナムコゲームスを退社して現在は講演を中心に活動するなど、ゲーム業界とは少し離れたフィールドにも軸足を置いて活躍しています。“国産2大パズルゲーム”を世に送り出した2人は、今何を教え、ゲームについて何を考えているのでしょうか。ガジェット通信はこの2人の対談を企画、このとき初対面という2人に「遊び」「学び」「ゲーム」「電子書籍」をキーワードに語っていただきました。第4回は、まじめなお話としてはここで一応ひと区切り。ゲーム業界で“勃興期”を経験した2人が、ゲーム業界を目指す人を含む、これからの人たちに学んで欲しいことについて語ります。

聞き手:ガジェット通信 宮原俊介(shnsk)

第3回「【米光×中村 ぷよぴったん対談】その3:「ゲーム屋さんがやるべきお仕事」 電子書籍でゲームデザインを教える意味」はこちら( https://getnews.jp/archives/96967 )

・「ゲームデザイナーにはなるな」

中村:いつの間にか話が発散しちゃいましたね。どっちも熱く(笑)。

米光:僕、すぐ拡散させる……(笑)。

中村:すみません、僕も若干そういう傾向がある(笑)。

宮原:ゲームを作ってたお2人が、なぜ今こういうことをやってるのか、みたいなところにうまくつながるといいんですけど……。例えば、お2人がゲームの作り方を人に教えるっていうのは、なぜなんですかね。ゲームを作ってもらいたい?

中村:違いますね。

宮原:別にゲームデザイナーになって欲しいわけじゃない?

中村:僕はどちらかといえばゲームデザイナーにはなって欲しくない……と(笑)。こんなこと言ったらゲームの専門学校とかで教えてるんでアレなんですけど(笑)。

米光:一緒です(笑)。今、「ゲームデザイナーとは何か」によっちゃうけど、「○○○みたいなゲーム会社に入りたいです」って言われると「え~、今~?」みたいな(笑)。

中村:僕、本当にいわゆる、「ゲームが大好きで、ああいうゲームが作りたいんです」みたいなのは「あーちょっとな」と思っちゃうんですよね。だいぶ前ですけど、『Rez』とかを作られた水口哲也さんがNHKの番組で、自分の母校の小学校に里帰りして教える授業みたいなのをやっておられて。

米光:『課外授業 ようこそ先輩』って番組。

中村:そうですね。その番組で、水口さんが小さい時にはゲーム業界というもの自体がなかったと。小学校の皆さんには、まだ「なんとか業界」ってのがないものを作って欲しいと。そういう未来を自分たちで想像して、新しい「こんなのがあったらいいな」みたいなのを皆で発明しましょう、みたいなことをやっておられて、僕はそれ凄く「あ~それいいな」と思って。

僕は今39歳なんですけど、中学くらいでファミコンが出て、ゲームで育ってゲーム会社に入ってゲーム作ったんだけど、ここにきてやっぱりそうじゃなくて。いわゆるゲームじゃない、今どんな名前が付いているかわからないけど、ゲームならではの技術とかノウハウみたいなのがあるはずだから、これを使って新しい産業みたいなのを生みだす人っていうのが生まれて来てほしいとすごく思っていて。

『塊魂』の高橋慶太くんとか、今イギリスで公園作ってたりするんですよ。ちょっとキテレツで面白い遊具を作ったりとか。遊びをテーマにするなら、エンターテインメントをテーマにしたものを作りたい、という志向はずらさなくてもいいと思うんだけど、純粋なゲームじゃなくて、もっと次の産業のレベルのことをやって欲しくて。そのためには、もう既に僕らが学んだことは「もう君たちはこれ学ばなくていいよ」っていう意味で教えたいっていう気持ちがあるんですよね、ちょっとね(笑)。

・「勃興期好きなんです」

米光:僕もゲーム業界がなかったとき、いわゆる“ゲーム勃興期”にゲーム会社に入って、後からゲーム業界って言われる経験をしている。よく学生に話すのは、コンパイルって会社に入ろうとして、7人ぐらいだったんですよ、面接。で、4人ぐらいが採用される。もう倍率とかない感じで7人で4人ならほぼ全員。

落ちた人は「ゲーム全然知らないです」みたいな人だから、そんなに誰も行こうとしない時代。でもきっと未来が色々ここからあるなぁって予感でワクワクしていってる時代で。ある種、これくらいの年齢のゲーム業界にいる人は、そういうのが好きな、“勃興期”好きなんです。単に(笑)。

でもそうじゃない人もいっぱいいるんじゃないかと思っていて。僕はどうしても“勃興期”好きだから、「お前ら今からゲーム業界って考えるよりも、もっと新しいものがあるだろ!」って言っちゃう。「そっちの方が絶対いいよ!今ゲーム業界って大きい会社で働こうと思ったら競争率こんなだよ」、みたいなこと話すんだけど。

でも、もしかしたらゲーム業界のことが好きで行きたい、っていう人がいるんなら、それはそれでいいのかもしれないという思いもあって。それを「新しい産業へ」って言うのも、ちょっともしかしたら、偏った、自分の趣味すぎるんじゃないか、っていう不安もある。

中村:車好きだから車メーカーに行きたいですっていうのを否定するみたいなもんですよね。

米光:僕ずーっと言ってきたんだけど、何年間か。でも徐々にさ、それだけあんまり言いすぎるっていうのもアレかなと(笑)。今ある続編大作的ゲームを作りたい人もいてもいいし、そういう方向に行ってちゃんと頑張るっていうのもアリはアリかなと最近思って。ぐっと抑えてあんまり言わないようにして(笑)。「やりたきゃやれ、でも俺の授業は違う」と。

中村:何だろうなぁ、人によると思うんですけど、「今まであるようなものを作りたい」っていうタイプの人と、「今までにないようなものを作りたい」っていうタイプの人がいる。最終的に後者の方が絶対数は少ないんですけど、今までにないものを作りたいという、発明家とかそういうタイプの人が、世の中を変えてきてるっていうのを僕すごく思ってるんで。

僕がそういう人になれるかどうかは別にして、もっとそういうことに気付いてくれる人がいたらいいなと思いつつ。でも多分、米光さんと同じようなものなんですけど、それって自分で気付かないと。最終的には「自分がこういう人にならなきゃいけない」と。あるいは自分がそういう特性を持ってるから、「やっぱり俺がやりたいことをやろう」って気付いて初めて、多分そういうことをやるんだと思うんですよね。難しいですね。それなのに僕は何でゲームを教えてるんでしょうね(笑)。

米光:僕は自分が“勃興期”好きで、“電書”(電子書籍)をやってるのもそう。「自分ができることがいっぱいある!」っていう。教えることも、実はいま“勃興期”なんですよ。“教える”って激変してる、“教える2.0”になりだした(笑)。プロジェクターがあるとか、パソコンで表示できるとか、あとワークショップ的なやり方みたいなのが認知され始めて、今までは寺小屋的な教え方が中心だったと思うんだけど、そうじゃない教え方もできるようになってきて。それこそ僕の授業は全員『Twitter』やりながらだから。僕が教えてるんだけど、学生は『Twitter』やって、また学外の大人が「それこうだよ!」とか言って、講師が世界中にいるみたいな、変な授業光景があって。

中村:へー、面白い(笑)。

米光:それはある種“勃興してる”感じがある。教え方っていうのが変えられるんじゃないかなっていうのと、ちょっと前に話した教えることの矛盾っていうのが、うまく矛盾じゃなくなる瞬間って、できるんじゃないかっていう予感もあって。まあ単に「俺勃興期好き」ですよ、われわれ。“ボッコーズ”ですよ(笑)。“チームボッコーズ”(笑)。

それこそゲームを教える電子書籍の構想も、紙だとできない。新しい教え方で、その“教え方2.0”みたいなことが、電子書籍でできるんじゃないかっていう予感だから、そこは聞いててもワクワクする……癖なんじゃないですか(笑)。

中村:絶対そうだと思う(笑)。

・ゲームクリエーターがサラリーマンになってる?

中村氏(左)と米光氏(右)

宮原:勃興期好きな人が、今まではゲームの会社に入ってゲームを作ろうとしてたけど、今はそういう……。

米光:今はある種の、狭いゲーム産業っていうのは、成熟期に入っているから……。僕と関係ないわ、みたいな。

中村:僕もブログで少し書いたんですけど、ある方が「ゲーム会社にクリエーターが減ってサラリーマンが増えた」、みたいなことを言ってて、確かにそうなんですよね。ゲームを仕事っていうか、サラリーをもらうための仕事っていう風にとらえてる人は確かに増えていて。

ただ多分僕ら世代で、全員ではないけど、一部の人たちは純粋にクリエーターっていうか、そういうノリで入ってきた。「自分が勝手に面白いことやってたらお金もらえちゃうんですか」みたいな。それで入ってきてる世代もいるんで。ナムコに入ったとき完璧にそうでしたもんね、僕。すごい楽しくてしょうがなくて。

米光:例えば成熟期になったからサラリーマン的、と言ったらネガティブな風に聞こえるかもしれないけど、ある種成熟期の働き方に一致する人が入ってるし、作るものと一致してるから、別に“勃興期”好きなやり方じゃなくてもよくなっているんだと思う。それはそれでアリ。

宮原:ゲーム会社が大きくなって、ちゃんと雇用も生み出しているし。

米光:そこで面白いものを作って。

・“トイレ”にも浸透するゲーム

中村:そういう“勃興期”好きな人は、ゲームじゃないものをやり始めてるんですよ。岩谷さんはリハビリ……岩谷さんもたぶんリハビリだけとは考えてないんですけど、高橋慶太君は公園を作って……(笑)。

米光:ゲームは日常に拡散浸透していくから、どこにでも行ける可能性がある。

中村:凄く面白い事例ですけど、スウェーデンにゴミ箱があって、ゴミを捨てると「ピューーーー… ポタッ」っていう、それだけのゴミ箱があるという。そうすると皆が面白がって、自然にその公園のゴミを捨てに来ると。で公園がキレイになると。
(参考:『YouTube』 http://www.youtube.com/watch?v=cbEKAwCoCKw )

これって言ってみれば、ゲーム的なことによって「公園をキレイにする」っていう課題を、自律的に解決する手段になっている。そういうノリでいくと、あらゆるものがゲームになると思いますよ。戦争とか起きて世の中めちゃくちゃになっちゃったら違うかもしれないけど。僕が死ぬまでに……あと何年くらい生きられるんだろう(笑)。まあ50年は生きないかな。でもそれまでには楽しさを役立てる技術は、普通にゲームって言わない要素技術みたいな感じになると思うんですよね。

米光:セガもトイレでゲームができる『トイレッツ』を出しましたね。

中村:あれ、僕すっごい当たると思ってて(笑)。アリだなと。誰か考えてたかもしれないですけど。

米光:ゲーム作ってる人の飲み話なら、バカ話として出てくる話なんだけど、それがようやく現実としてできた、事業としてOKになったっていう。凄いよね、それって。

中村:ああいう大きい会社でも「事業にしていいよ」って言われるくらいになったというのが。

米光:浸透してきたことが社会的に、認知、許容量にようやく達したっていうとこはあると思うんですよ。

中村:あれだって絶対パチンコ屋さんに入るでしょ、ゲームセンターにも入るでしょ。多分需要があるからあれ結構ヒットすると思いますよ。

ああいう切り口がもっといっぱい出てきて、普通になるというか。ゲームとも言わない、けど楽しい遊びみたいな。本人は楽しいだけだけど、周りの、例えばトイレだったら清掃する人が助かってるとか、そういうことですよね。周りの人に役立ってて本人には楽しいっていう。アイデアの出しようで、世の中どんどんいい方向に変わっていくと思うんですよね。

次回は番外編です

※第5回は2月25日に公開を予定しています。


米光一成氏のブログ『こどものもうそうblog』
中村隆之氏のブログ『元もじぴったんプロデューサーの生の知恵ブログ』
【米光×中村 ぷよぴったん対談】その1:パズルゲームクリエーターの2大巨頭が出会う
【米光×中村 ぷよぴったん対談】その2:「世界は全部ゲームになる」 “米光予言”が示唆する新しい学びの姿
【米光×中村 ぷよぴったん対談】その3:「ゲーム屋さんがやるべきお仕事」 電子書籍でゲームデザインを教える意味

中村氏のお話で出てきたゴミ箱の動画はこちら

この対談は『エキサイトレビュー』との共同取材。また違った切り口で記事が公開されています。
「ぷよぷよ」と「もじぴったん」が対談! モンハン様にあやまれよー!(エキサイトレビュー)


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shnsk

宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

TwitterID: shnskm

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