第1回:森の図書室 森俊介さん(後編)
本と人を繋ぐ人、本を通して人と人を繋げる人。新たな人と本の関係を造り出してしている方々にお話を聞く連載です。
引き続き、「森の図書室」の森俊介さんのインタビューをお届けします。
読書感想文、そして新たなとりくみBOOK LOVER’ DAY
――それにしても凄い量の本ですね。何冊くらいあるのですか。
うーん、7千冊か。それ以上か。途中で数えるのを諦めちゃったので(笑)。
もともとは、自分が読書感想文を書いていた本が1000冊ほどあって、そのリストを元に購入していきました。それ以外にメディアでこの図書室が取り上げられてことで、献本してくれるようになった個人の方々とか、出版社さんも提供してくれるようになり、どんどん増えています。
――感想文、書こうと思ってもなかなか書けないですよね。
あるきっかけのお陰なのです。集英社の就職説明会の時のことなのですが、自分の目の前にメチャメチャ可愛い女の子が座っていて。「うわ、凄く可愛い。でもきっとこういう女の子はそんなに本なんてろくに読んでないだろうな。」と勝手に斜に構えていたら、質疑応答の時にその子が手を挙げたのです。
「私、凄く本が好きで、恐らく多読だと思います。でもどんなに読んでも、それが自分の力になっていると感じられないのです。読んだものを自分の力にする為にはどうしたら良いですか。」と、とんでもなく良い質問をして。
「なんだ、この子。素晴らしい。ほんとごめんなさい(笑)。」
それに対する集英社の方の答えがまた素晴らしかった。「それには記録に残すことだと思います。点数でもいいし、星の数付けるだけでも、短い一言でも良い。この本を読んでどのくらいのことを自分は思ったのだろうか、
ということを記録に残していくことが、読んだものを力にしていく上ではとても大事なことなのではないでしょうか。」
――素晴らしいですね。
それで、自分もmixiに付け始めたのです。しかも、後日談なのですが、去年集英社の方と仕事をしたときに、その話をしたら「その社員、誰だかわかるかもしれない。」と見つけてくれて、なんと先日ここに訪ねに来てくれたのです。とても嬉しかった。
――とてもいい話じゃないですか! ところでその読書家の女の子とは?
それが今の奥さんです、とか言ったらほんともっといい話になるのですが。残念ながら全くその後の所在は全く知りません(笑)。
最近はWebにみんなの読書感想文をアップしていくような取り組みを考えています。Book Lovers’ Day もその一環だったのですが、森の図書室でやっていることやこの世界観をネットを使うことでより多くの人と共有したいのです。
――お店はどんな方が多いですか。
年齢は20代から30代で女性が6割くらい。でも意外ともっと上の年齢の方にも来ていただいています。ひとりで本を読んで帰るかたが多いのですが、自分としてはもっと本好きな方々同士で話して欲しい、繋がってもらいたいのです。ここでしかできないこと、ここで提供できる価値がそういうことだと思うので。
あと思ったより渋谷以外、意外と遠方から来られる方も多いですね。ありがたいことです。自分自身そんなに誰とでもうまくやれるタイプではないのですが、ここに来てくれるお客さんはほんとに素敵な、大好きな人ばかりです。
よく図書館関係の方々も視察等で来店されるのですが、先日も「破損本、紛失してしまった本の弁償・対応はどうしているか。」と聞かれました。 「実はそういったことはほとんど無いので特に対応策はないです。」と返答するとものすごく驚かれるのです。というのは、その方の勤めている公共図書館では1時間に1回くらいの頻度で利用者と弁償する、しないのやりとりをしているそうで。それを聞いてここに来られる方は本当にマナーの良いお客さんが多くて幸せだな、と感じました。
――お店の内装、雰囲気があってとってもいいなと思っているのですが。
有り難うございます。裏コンセプトは「僕の部屋」なんですけど。既製品は椅子くらいしかなく、他は全部オーダーです。本好きな人って大きな本棚に憧れますよね。しかもなるべく縦の梁をなくして、横一直線に棚が並んでいる作りがしたくて、こういう型でお願いしました。
内装のイメージを施工業者の方に伝えるのが大変でした。絵が苦手なので、ホームセンターで材料を買ってきて模型を作ってみせたりしました。
――同じ本が複数冊あったりして、面白いですね。
1冊は自分が購入したものですが、それ以外はお客さんの献本です。何故か『モモ』(ミヒャエル・エンデ)が一番多い。献本してくれた方の推薦がつているものもあるので、それを読むと、いろいろな『モモ』の読み方を知ることができて楽しいですよね。
リクルートから転職してみて一番違いを感じることは、今はエンドユーザーの方々、一人一人と繋がっているということです。はっきりどういう人たちなのか、リアルに感じることができる。元々演奏家とかコックさんとか、目の前の誰かを楽しませるような職業に憧れていたので、この仕事は自分に向いていると思うし、幸せです。
――最後に森さんがお勧めの作家、本を教えてくれませんか。
このコースターを見てください。ここに僕のおすすめの本が書いてあるのです。
最近は泣かせる本を読みたいですね。実生活で泣くことって殆どないので、本で思いっきり泣いてみたい。何かおすすめがあったらぜひ教えてください。
(プロフィール)
森 俊介
1984年生まれの30歳。子供の頃から外で遊ぶよりも家で本を読むのが好きで、中学生の頃に読んだ本に出てきた「田舎に私設図書館をつくったおじいちゃん」に憧れ、いつか自分の図書館を作ることができたら、とこっそり夢を持つ。早稲田大学を5年間かけて卒業後、リクルートに入社。ホットペッパーにいた4年間で20キロ増量。退職後2年弱、留学やNPOのお手伝い、ももクロの追っかけ日本一周旅行などを経て、2014年7月、渋谷に「森の図書室」をオープン。
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