【シェアな生活】Cycle&Music 僕はプラスマイナスゼロでいい――『レンタサイクルかりおん』柴山竜介さんインタビュー(2/2)

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『レンタサイクルかりおん』店長 柴山竜介さん


利用形態や利用時間帯の違う会員間で自転車をシェアする“サイクルシェア”。京都・出町柳の『レンタサイクルかりおん(以下、『かりおん』)』は、国内でほとんど例のない個人経営でのサイクルシェアを行うレンタサイクル店だ。第2回目のインタビューでは、店長・柴山竜介さんが『かりおん』を始めた頃のお話から聴かせていただいた。お店のキャッチフレーズ「Cycle&Music」に秘められた柴山さんの思いとは? 日本一(もしかしたら世界一?)ロックなレンタサイクル店の原点をじっくり聴かせていただいた。

登場人物:
柴山:柴山竜介(しばやま りゅうすけ)。『レンタサイクルかりおん』店長
聞き手:ライター・杉本恭子

出町柳駅から『かりおん』をのぞむ

●売上は2000万円、月給は20万円でプラスマイナスゼロ!

――柴山さんが『かりおん』を始めたきっかけについて教えてください。

柴山:僕は前のオーナーから店を引き継いだんです。前のオーナーは、ドイツの方で実施されているサイクルシェアのことを知って、3人で『かりおん』を有限会社として起業されたそうですが、儲からないので別の仕事をするようになり、店長を雇って店を任せるようになった。最初、僕はその店長のもとで「座っているだけ」のバイトを時給500円でしていたんです。もうその頃は、店をたたむ方向に動いていたから自転車も60台くらいしかなくて。サイクルシェアの会員も30~40人しかいませんでした。5年前、人づてに『かりおん』が閉店すると聞いて「僕に『かりおん』をやらせてください」と前のオーナーにお願いしに行きました。いつか自営業をやってみたいと思っていたので。

――5年間で、自転車も会員数も10倍以上に増やしたことになりますね。

柴山:当時の料金は、レンタル1日利用1000円、サイクルシェア月額3750円。そうじゃないと店が回らなかったんですね。僕が引き継いだとき、『阪急レンタサイクル』の1日利用300円に対抗して、『かりおん』も300円まで値下げして、サイクルシェアも月額2000円にしました。僕が生きて行く経費から計算するとこの値段でもやっていけるとわかったので。お客さんにはビックリされましたよ、半額近い値下げでしたから(笑)。でも「大丈夫です! 僕、お金使わないから。その代わりお客さんを紹介してください」ってお願いして。すると、利用者が増えただけでなく、雑誌などのメディアからの取材も多くなって、どんどん人が集まるようになりました。

――自転車の台数も、会員数に合わせて増やしていったんですか?

柴山;はい。お客さんが入会したら1台ずつ買いに行って。もしくは、月極駐輪場を探している人が来たときに「その自転車を買わせてください」とお願いして買い取ったり、学生や留学生が引っ越すときに引き取ったりもしました。今は、自転車を安くで買って壊れたら使い捨てる人も多くて、「別に愛着ないからいいですよ」と譲ってくださるんです。「じゃあ、僕が愛してあげよう」と思って大事に使わせてもらっています。

――価格破壊と言っていいほどの料金設定ですが、経営は成り立っているのでしょうか。

柴山:最初は、僕ひとりが働いて生きていける範囲の料金設定でしたが、お客さんが増えたのでスタッフを雇う人件費が必要になって。お客さんが増えれば増えるほど儲からなくなってしまったんです。苦渋の決断で、1日レンタル利用を500円に、サイクルシェアを2500円に見直しました。僕は貧乏生活ができるけれど、他のスタッフは同じ生活ができるわけじゃないから(笑)。

『かりおん』店内。自転車のメンテナンス中。

――それでも十分安いとは思いますけども。今の経営形態は法人ですか?

柴山:自営業です。スタッフの福利厚生のことなどを考えると、そろそろ法人化したほうがいいなと考えています。今の『かりおん』だと、「生活が安定していなくてもいいから夢を追いかけたい」ちょっとロマンティックな人しかいられない。でも、彼らもいずれは家族を持つだろうし、そうなると安定志向にもなると思うんです。それに、グループにはロマンティックな人も、安定志向の人も必要だと思うし、いろんな人にいてほしいから。

――ちなみに、今の年間売上はどのくらいなのでしょう。

柴山:2000万円以上あります。「あれ、けっこういけてるやん!」と思うでしょう? でも、お店の家賃、人件費、自転車の維持費などの経費や税金を差し引くと、僕の手元に残る純利益は毎月20万円(笑)。今まで、何人かの人が「サイクルシェアをやってみたい。やり方を教えてください」と訪ねてこられましたが、「僕の給料は月20万円です」と言うと、肩をがっくり落として帰っていかれました。

――えっ、2000万円以上のお金が動いて、柴山さんの手元に残るのは月20万円?

柴山:あははは(笑)。僕は生きて行くのに必要なお金だけで全然満足だからね。いいんじゃないかな、お金は使うためにあるんだし。ただ、僕のアイデアを世の中に生かしたいという欲望はあります。人のためと自分のためをごっちゃにしているかなぁ。「会社にしたほうが従業員が安心して働ける」とか考えて喜んでもらうのが僕の「悦」です。彼らがいないと僕は生きていけないし、いろんなアイデアも浮かばないですから。

オープン時に柴山さんが思いをこめて書いた「Cycle & Music」

●Cycle & Music――ギターを自転車に持ち替えて

――ちなみに、柴山さんは『かりおん』以前は何をしていたんですか?

柴山:学生時代から『ちぇるしぃ』というバンドをやっていて「ロックで食べていこう」と思っていました。メジャーレーベルからオファーがあったんだけど、当時の僕は「それはロックじゃない」と思って断ったんです。「ロックっていうのは、メジャーレーベルじゃない。会社員じゃないんや、俺たちは」って。

ちょうどその頃、結婚をして幸福感に満ち溢れてしまったんです。それで、結婚生活を一生懸命やることになって『ちぇるしぃ』を解散しました。今思えば、ちょっと頭がパニックになってたんじゃないかと思います。僕の考えるロックにこだわり過ぎて、融通がきかなくなってメジャーの話を断ったのに、奥さんと幸せな結婚生活を送っているのもロックではない。いったんは会社員になって結婚生活を選択したんだけど、やっぱり夢を捨てきれなくて。3年後に、「やっぱり俺はロックで食っていきたい」とミュージシャン仲間の多い京都に戻ってきて。そんなときに見つけたのが『かりおん』のアルバイトだったんです。

――じゃあ、会社を辞めてミュージシャンとしての活動を再開されたんですか?

柴山:そうですね。新たに『ジョイフル』っていうバンドを結成したんですが、ライブ中に高いところから飛び降りたら両脚を骨折して2か月入院することになって。退院後もどん底に落ちて、「どうもいつも幸せに近づけるんだけどなんかいつもおかしい」と考えたんです。たぶん自分のやり方が間違っているんだろうと。自分の好きなようにやってきたはずなのに何か間違っている。何かを修正しないといけない。僕が望むのはうれしい世界なのに、そうならないのは自分のやり方が間違っているからだと気がついたんだと思います。自分では「俺はめっちゃええやつやのに、何で人に迷惑かけてるんだろう」と思ってたんだけど、周囲に聞くと「竜さんはもう大変な人で……」みたいな感じで。「本当の僕をわかってもらえてない」と思っていたけど、ある時「むしろ人が見ている僕がホントの僕や」と気がついたんですね。

――今も、『かりおん』をやりながら音楽活動を続けているんですか。

柴山:していませんね。最初の頃はライブもしていたんだけど、どんどん『かりおん』の比率が高くなってきて、ギターを持っても何も出てこない。忙しいからかなと思っていたけど、「いや、こっちがやりたいんや」と思うようになりました。結局、僕がギターを弾いたり歌ったりして表現していたことを、いま『かりおん』で表現できてるんですね。歌もステージも好きだけど、今はここ以上のアドレナリンは出ないと思います。

今の僕の夢は“キング・オブ・ポップ・レンタサイクル”なんです。分け隔てなく何も断らない。全部受け入れていきたいし、何でも良いように転換していきたい。ロックって、ちょっと悪いことやと思っていたけど、ひねくれるにしても良いひねくれかたをしたい。自分らしさを失わずに、ブレないで世の中にメッセージを発していくことがロックなんじゃないかと。ロックに対する考え方がちょっと変わってきていますね。いずれにせよ、ロックは僕の人生にはずっとつきまとっているんです。

『かりおん』の前で。いつもお客さんとの会話がたえない

●人生すべて“貸し借り”という哲学

――断らない、すべて受け入れるという考え方は『かりおん』を始めてからのものですか?

柴山:そうですね。取材も、いろんな人のオファーやアイデアも一度は聞いてみて、幸せになる方向を見つけてやっていこう。そういう意味での「断らない」です。僕はやっぱり、『ちぇるしぃ』時代のことを悔やんでいるんですね。僕が自分を全部捧げたのは『ちぇるしぃ』が初めてで、それ以来初めて自分を捧げたのが『かりおん』なんです。当時は、誰の話も聞かずに「俺はこうだ!」と自分の世界を突き進んでいくのがロックだと思っていたんだけど、それはただのわからず屋です。あの時の挫折感をバネにして、自分のメッセージを出していくチャンスだと思っています。

――じゃあ、お店のキャッチコピー「Cycle & Music」もまた大切なメッセージを含む言葉なんですね。

柴山:あれは、オープンの日に、素直に自分の気持ちを書きました。自分の気持ちに素直に店をしていこうと。「Cycle&Money」じゃないんですよ。自転車は命を預かる道具なので「Cycle」はピシッとそろっているんです。でも「Music」はちょっとこう、揺れているくらいのほうがいいというのを表現しているんです。僕の好きなロックは、人間らしさ。無人化に対抗して有人化しますから。人を雇ったら経費がかかるって言われたら、「そこはかけたいです」って言います。もういろんな人と関わっちゃっているから、自分ひとりでは成り立たないし。その関わりのなかで自分の幸せを考えたい。

僕、昨日の夜から考えていたんだけど、すべて“貸し借り”なんじゃないかな。だって、この体はお父さんとお母さんからもらったものじゃないですか? こうやって、人間が生きていけるのも、地球から賃貸しているだけで(笑)。すべて、貸し借り。友達も親も奥さんも。貸し借りのバランスが崩れると人間関係も地球との関係もつぶれる。2500円の月額利用料に見合わないサイクルシェアなら怒られるし、見合っていれば「ありがとう」と言われる。僕らも、借りていただいているし貸させていただいていると。年間2000万円の売り上げがあっても、僕の月給は20万円でプラスマイナスゼロ(笑)。僕は、これでいいと思っています。
 
柴山竜介さんプロフィール
1974年生まれ。1998年同志社大学工学部卒業。学生時代に結成したロックバンド『ちぇるしぃ』でギターを担当するが、2000年メジャーデビューを目前に解散。2003年、再びロックバンド『ジョイフル』を結成(ボーカル)。2006年より『レンタサイクルかりおん』オーナー兼店長に。
http://carillonkyoto.com/
 
 

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Kyoko Sugimoto

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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