【シェアな生活】駅前の一等地12坪を540人でシェア――『レンタサイクルかりおん』柴山竜介さんインタビュー(1/2)

『レンタサイクルかりおん』店長 柴山竜介さん


京都・出町柳は、高野川と加茂川の合流地点。ひとつの流れになった川は、鴨川と名前を変えて市内を南へ流れていく。この地にある出町柳駅は、大阪と京都をつなぐ京阪電車の終着駅と比叡山方面へ伸びる叡山電鉄の始発駅を兼ねるハブステーションだ。叡山電鉄改札口を出ると、『レンタサイクルかりおん(以下、『かりおん』)』の手描き看板の前をひっきりなしに自転車が行き交うのに気がつく。

『かりおん』は、“個人経営”による“サイクルシェア”を行うレンタサイクル店。サイクルシェアとは、「24時間利用可能な月極レンタサイクル」で、利用形態や利用時間帯の違う会員間で自転車をシェアするしくみである。国内で普及しているサイクルシェアは、鉄道会社が駅に併設する例がほとんどで、民間業者しかも個人経営でのサイクルシェアは非常に珍しい例だ。現在、『かりおん』のサイクルシェア会員は約540人。しかし、自転車の保有台数は350台と会員数より少なく、見たところお世辞にも広いとは言えない店舗にそんな多くの自転車が置けるようには見えない。「この狭い店に350台置けるの? とか、500人の会員に対して350台しかないの? とか、疑問だらけになるでしょう。マジックがあるんです」と柴山竜介さんは笑う。まずは〝『かりおん』マジック“の種を明かしていただこう。

登場人物:
柴山:柴山竜介(しばやま りゅうすけ)。『レンタサイクルかりおん』店長
聞き手:ライター・杉本恭子

柴山竜介さんプロフィール
1974年生まれ。1998年同志社大学工学部卒業。学生時代に結成したロックバンド『ちぇるしぃ』でギターを担当するが、2000年メジャーデビューを目前に解散。2003年、再びロックバンド『ジョイフル』を結成(ボーカル)。2006年より『レンタサイクルかりおん』オーナー兼店長に。
http://carillonkyoto.com/

叡山電鉄出町柳駅改札 『かりおん』へは徒歩1分以内

●店舗は12坪、自転車350台、会員は540人

――まず、『かりおん』のサイクルシェアの仕組みから聴いてみたいと思います。『かりおん』では、レンタサイクルとサイクルシェアの両方を展開しているんですよね。

柴山:はい。もともとは本店で両方やっていたのですが、業務が全然違うので駅の北側に新しくレンタサイクル専門のブラジル店をオープンして、本店はサイクルシェアだけにしました。

――ブラジル店? なんで京都なのに“ブラジル店”なんですか?

柴山:あはは(笑)。店長が『イーリャダスタルタルーガス』というサンバチームの若頭で、日本とブラジルを行ったり来たりしている人なんです。やっぱり、自分を出していったほうがいいということで“ブラジル店”という名前になりました。ただ、自転車は一緒に使っています。

――現在の自転車保有台数とサイクルシェアの会員数はどのくらいですか。

柴山:本店が350台、ブラジル店が150台。サイクルシェアの会員数は、出町柳駅近くに住む“ホーム”会員が約160人、大阪方面から出町柳駅を経由して通勤・通学する“アウェイ”会員が約370人、合わせると約540人になります。

出町柳駅前を出るとすぐ目に入る『かりおん』の看板

――540人の会員数がいるのに、どうして350台の自転車で回せるんですか? 

柴山:あはは、そこには“マジック”があるんです。まず、アウェイ会員で毎日使う人は7割程度(約260人)、ホーム会員は8割くらい(約130人)だから、1日に利用する会員の数は540人中390人前後。それに、アウェイ会員とホーム会員は利用する時間帯が違います。ホーム会員は7時台には家を出て、『かりおん』に置いていった自転車を、電車に乗ってきたアウェイ会員が8時台以降に使う。で、学校や会社が終わってアウェイ会員が返却した自転車に、ホーム会員が乗って家に帰っていくというわけです。

だから、毎日すべての自転車が店に戻ってくるわけではありません。ここには平均100台くらいが残っていて、不規則な需要に対応するいう仕組みです。話せばみんな納得してくれるんですけど、説明するのはなかなか難しいですね(笑)。

――なるほど。ホーム/アウェイの2種類の会員が自転車を必要とする時間帯の差をうまく利用して、自転車がグルグル回っているんですね。自転車は、会員さんの家や職場に分散しているから、すべてが店に戻ってくることはない。

柴山:そうそう。うちの店は12坪しかありませんから、みんなが乗らなくなったらパンクするし、みんなが乗って行ってもパンクします(笑)。配車がなかなか難しいんですよ。観光客が多くレンタサイクルの需要が多い週末や祝日などは本店の自転車をブラジル店に持っていき、サイクルシェアの利用が多い平日は本店に戻したり、学生さんの長期休暇のときはさすがに自転車が余るので、倉庫を借りて持って行ったりもします。

――サイクルシェアを利用すると、どんなメリットがあるのでしょう?

柴山:出町柳駅に出るバスや叡山電鉄の本数が少ないので、自転車で来たい人が多いんです。でも、自転車利用者に対して駐輪場が圧倒的に不足しています。『かりおん』でサイクルシェアをしたら、周辺の駐輪場代と同じ値段で自転車が付いてくる(笑)。もうひとつは、駅から1分以内にある土地の有効利用ですよね。『かりおん』は全部で12、3坪しかないのですが、駐輪場にしたら立体駐輪場でもせいぜい50台しか置けない。それを、500人以上で使っているってすごくないですか? シェアしているのは自転車だけじゃない。駅前の地価の高い土地をみんなでシェアしているとも言えますよね。

『かりおん』の自転車の名前は「シリア」「トミー」「ジョージ」に「ふぐ」…

●自転車の名前は『ジョージ』に『大吉』!?

――自転車にユニークな名前をつけているそうですが、350台ある自転車1台ずつに名前をつけているんですか?

柴山:そうそう。「ジョージ」とか「ウッド」「大吉」とか、たまに「読書」とかわけのわからないのもあります。その自転車が『かりおん』に来た時に横にいる人が5秒以内に名づけるルールになっていて。お客さんには「ジョージとかだと友達に笑われるからいやです」って言われることもありますが(笑)。

――本当に、自転車を大事にしているというか、愛しているんですね。

柴山:引き受けた以上はね。このごろ自転車を大事にしない人が多いですよね。安い自転車を買って、壊れたら修理もしないで放置して使い捨ててしまう。僕は、モノを使い捨てにする感覚は、いずれ人を使い捨てにする感覚に通じていくと恐れているんです。実際、人も使い捨てにされる時代が来ていると思うし、それが進んでいくのはたまらないし食い止めたいという思いもあります。

『かりおん』の手作り伝言板

――モノを使い捨てる感覚がいきすぎると、人を使い捨てにしても平気になってしまうということですか?

柴山:そう。昨今、修理すれば使えるものをみんな使い捨ててしまいますよね。お金がかかっても、買うより修理した方がいろんな意味でいいと思うんです。もちろん、地球にもやさしいということもあるけれど、日本は古来から「モノにも魂がある」という感覚で、モノを大切にしてきたはずなのに、今は忘れ去られつつあります。食べ物やモノを粗末にしてひたすら消費する感覚がエスカレートすると、人間も大事にできなくなって、最後は自分を粗末にしてしまうことになると思うんですよ。

――『かりおん』が今後店舗展開するとしたら、そんな柴山さんの哲学も含めたやりかたで広げていくことになりますか?

柴山:もちろんです。このスタイルでやりたいですね。他府県でサイクルシェアが成立する駅前にいい立地があれば、出していきたいです。PFI(Private Finance Initiative)みたいな形で、行政と協力し合うのもアリだと思っています。東京・練馬区には、無人のサイクルシェアがあるんですけど、それは僕のやりたいことではないですね。たとえ時代の流れに逆行していても“血の通ったシェア”をやりたい。でも、少し前まではどんどん電子化して自動化するのが時代の流れだったけど、これからは僕らのように立ち止まって「自転車は修理して長く使おう」と考える人たちと二極化するんじゃないかな。僕は、ずっと〝生き物系”で。人間が人間にしかできないことをやるサイクルシェアでやっていきたいです。
 
 

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Kyoko Sugimoto

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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