“Mobile is Here.” 米アドビ社のプロダクトマネージャーがFlashプラットフォームのスマートフォン展開を語る

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“Mobile is Here.” 米アドビ社のプロダクトマネージャーがFlashプラットフォームのスマートフォン展開を語る

12月4日、Flash関連製品のユーザーグループが主催するカンファレンス『FITC Tokyo 2010』が開催され、Flash関連の最新技術や先行事例が発表されました。ガジェット通信は、この日のスピーカーとして来日した、米Adobe Systems社のFlashプラットフォーム主席プロダクトマネージャーであるMike Chambers氏にインタビュー。Flash Playerやアプリケーション実行環境『AIR』のAndroidへの対応など、スマートフォン分野に広がるFlashプラットフォームの動向についてお話をうかがいました。


ガジェ通:Androidに対応する『Flash Player 10.1』の普及は、どれぐらい進んでいるのでしょうか?

Mike:(取材日は12月4日)最近発表した数字では270万ダウンロードを記録しています。アプリマーケットからダウンロードされた数が270万で、HTCやモトローラといったOEMからプッシュ型でプリインストールされているものはこの数字に含まれません。実際にインストールされている数はもっと多くなります。

ユーザーからのマーケットでのレビュー数は5万5000、評価は4から5を獲得しています。この反応に対しては嬉しく思っているという状況です。

ガジェ通:『AIR for Android』の方はいかがでしょうか。

Mike:2~3週間前に開催されたイベント『Adobe MAX』で『AIR for Android』を発表したのですが、インストール数は25万。まだ出て2~3週間といったところでその数になっています。レビューの評価は4.5と高い評価になっていますね。

ガジェ通:『AIR for Android』により、Flashで制作したコンテンツをAndroidアプリ化できるようになりましたが、こちらを使って制作されたアプリの数はどれぐらいあるのでしょうか?

Mike:『MAX』の後すぐに確認したところ500強といったところでした。現在ではもっと多くなっていると思います。

特に『AIR for Android』はFlash開発者から大変受けがよく、いろいろなスマートフォン用コンテンツを制作できるということで反応がよいです。

ガジェ通:どんなジャンルのアプリが中心になっているのでしょうか。

Mike:今スイートスポットといえるアプリケーションはゲームだと思います。スマートフォンを使って何をやるのかということで、自然な流れでゲームになるだろうと。

現在、ウェブアプリケーションの開発フレームワークである『Flex』のモバイルバージョン、コードネーム“Hero”というものを開発しています。こちらを使えば『AIR for Android』のアプリの数がもっと増えてくると思います。

アプリマーケットで公開されているゲームを見ると、小規模で軽量なゲームが多いんです。おそらく開発者が最初は小規模のゲームを開発してプラットフォームへの理解を深めていこうとしているんだと思います。その後、よりリッチな深いゲームへと進んでいくと思うので、今後数か月には大規模なゲームが出てくると思います。

ガジェ通:『Flex』のモバイルバージョンについて、もう少し詳しく教えてください。

Mike:どんな『Flex』のバージョンでもFlashのコンテンツになりますので、制作したコンテンツはスマートフォン上でも動作します。現在の『Flex』はモバイル環境での実行を想定して開発されたものではないので、アプリを実行できてもパフォーマンスがよいとは限らないんです。次期版の『Flex Hero』は、パフォーマンス、メモリー、ユーザーのインタラクションが最適化されています。

ガジェ通:モバイル向けアプリケーションのユーザーインタフェースがコンポーネント化されている、ということでしょうか。

Mike:そうです。スワイプできる、ドラッグできるなどモバイル向けの新しいコンポーネントが実装されます。ほかには“スクリーン”というインタラクションモデルで、異なるビューの間を遷移することができます。『Flex HERO』のプレビュー版は『Adobe Labs』(http://labs.adobe.com)で公開中です。

ガジェ通:日本のスマートフォンではまだ、『Flash Player 10.1』や『AIR』が動作するAndroid 2.2対応端末が少ないのが現状です。2.1以下のOSに対応していくとさらに日本でも普及が進むと考えられますが、その予定は?

Mike:今のところAndroid 2.1をサポートする予定はありません。開発にはGoogleと緊密な関係を持って作業を進めていて、2.2でサポートするAPIを使う形でハードウェアアクセラレーションやビデオのパフォーマンスを維持することを担保しています。

ガジェ通:一方で、Android 2.2を搭載していても、一部のスマートフォンでは『Flash Player』や『AIR』が動作しないものがあるようです。一般のユーザーは「Android 2.2=Flashが使える」というイメージがあり、現状は動作する環境がどれなのか分かりづらいのではないでしょうか。

Mike:Android向けの『Flash Player』が動作するには、システム要件を満たしている必要があります。Android 2.2が搭載されていることはひとつの要件なのですが、それだけではなく特定のプロセッサが必要になります。具体的には、『ARM』プロセッサのv7以上。アメリカではアドビのサイトで、動作する端末のリストを公開していますし、端末メーカーが「Flashが動く」と広告で表示しています。日本でもそのように情報を出していくべきだと考えています。

中には、実際に『Flash Player』が動作しても、アドビの方では認定しないというものもあります。動くには動くけれどもパフォーマンスが悪いもの、テストを合格しなかったものなどがありますので。我々はきちんとユーザー体験を担保したいので、認定したものだけをリストに載せています。

ガジェ通:Android OSはOSの進化が早く、バージョンアップの頻度も高いですよね。バージョンアップごとに製品を対応させていくのは大変だと思うのですが、アドビのAndroidのバージョンへの対応方針を教えてください。

Mike:これは、考え方はパソコン(PC)と同様といえます。モバイルOSの方がバージョンアップの頻度が高いですが、PCでも新しいバージョンがどんどん出てくる。ベンダーと密な関係を持って進めていきます。PCならマイクロソフトとアップル。モバイルであればGoogleと密な関係を持って、新しいバージョンを出すときに『Flash Player』や『AIR』がきちんと動き、検証されている形でアップデートしていく、それが我々の取り組みになります。

ガジェ通:アップルの規約変更により、FlashからiPhoneアプリを書き出す『Packager for iPhone』を使ったアプリが許諾されるようになりました。一時は『Packager for iPhone』の開発を中止したそうですが、現状はどうなっているのでしょうか。

Mike:ご存知のように、『Packager for iPhone』発表直後にアップルはコンパイラによるアプリの開発を禁止したため、『Packager for iPhone』の開発も停止していました。その後規約が変わり、サードパーティ製ツールによりアプリを開発してもよくなったので、既に開発を再開しています。現在はよりiOSのサポートとパフォーマンスを改善することに取り組んでいます。

ガジェ通:Mikeさんはご自身でもFlashからスマートフォン用アプリを作られていて、サンプルコードとなる『Simple Game Framework』というものを公開されていますよね。どのようなものなのか教えてください。
※Simple Game Framework: https://github.com/mikechambers/Simple-Game-Framework

Mike Chambers氏が自作したゲーム『PewPew』

Mike:1年半前まで、私はFlashでのアプリケーション開発をしていましたが、『Packager for iPhone』を開発するまでゲーム開発の経験がありませんでした。そこから始めていったんです。一番最初に作ったゲームは『PewPew』というものなのですが……(発射音が「ピューピュー」と鳴るシューティングゲームを見せる)。

当時の最新の『iPhone』は『iPhone 3GS』でした。ターゲットにしたのはオリジナルの『iPhone』だったのですが、これでよいパフォーマンスを得るにはかなりの最適化が必要だということが分かりました。私がやってみた中で学んだこと、最適化しやすくする手法をほかの開発者にも活用してもらえるように作ったものなんです。名前が語るように、シンプルなゲームのフレームワークなんです。とてもシンプル。

開発者の方でしたら、プッシュボタンエンジンなどフルのフレームワークが欲しいと思うんですが、私のものはとても小さなフレームワークになります。これに関しては、今はあまり積極的に活動しているものではありません。だれかがバグを見つけたり機能を追加するときに作業しますが、あまり時間を費やしているものではないです。

ガジェ通:Android向け『Flash Player』や『AIR』の日本市場への展開に対する期待は。

Mike:個人的には、世界の中でもクールな日本のコンテンツが見られるようになることを期待しています。モバイルであってもPCであっても、環境を越えて一貫してFlashのコミュニティが作ってきた優位性の高いものが使えるようになっていく。最初の時期はアメリカでもそうだったように、ゲームが作られていくことになると思います。

ガジェ通:最後に、日本のFlash開発者へメッセージをお願いします。

Mike:我々のメッセージは「Mobile is Here. モバイルの時代が来ている」ということです。業界全体でモバイルへ大きなシフトが起こっています。マルチプラットフォーム、マルチスクリーンに動いています。開発者も新しいコンテンツを作る際にまずモバイルを考えて作り、それをPC向けに広げていくという考えが必要になると思います。

今はその転換期の最初にいるということだと思います。人々のコンピュータやデバイスの使い方が変わっていきます。現在スマートフォンを使う人の割合はそれほど高くないですが、これから2~3年のうちに多くのユーザーがそういったデバイスに乗り換えていくでしょうし、デバイスのスピードも上がっていく。より多くのOSがデバイスをサポートしていくと思います。一般の方たちのデバイスの使い方が変わっていくということは、それに向けてのコンテンツの作り方も変わっていく。そういう時期の今初めにいるということだと思います。

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宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

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