FlashのAndroid対応に注目集まる アドビが最新技術とトピックを紹介するイベント『Adobe MAX 2010 RETWEET』開催
アドビ システムズは、10月23日から27日にかけて米国で開催されたカンファレンス『Adobe MAX 2010』から、最新技術とトピックを日本ユーザー向けに紹介するイベント『Adobe MAX 2010 RETWEET』を11月25日に開催しました。ここではFlash Playerの開発中の新機能や、開発ツール次期版の機能などを、ユーザー事例を交えて紹介。ブラウザ上で動作するFlash Player 10.1やアプリケーション実行環境『AIR』がAndroidに対応したことにより、スマートフォンを含むさまざまなプラットフォームでFlashコンテンツを動作させるマルチスクリーン環境に関するトピックが目立ちました。
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イベントのレポートをお届けする前に、FlashのAndroidへの対応状況を整理しておきます。Android OSの2.2から、『Flash Player 10.1』のアプリをインストールすることにより、ブラウザ上でPCと同様にFlashコンテンツの利用が可能になりました。アプリケーションの実行環境となる『AIR 2』は、やはりAndroid 2.2に対応し、AIR形式で書き出したファイルを、Androidアプリとしてインストールできるパッケージファイルに変換できます。開発環境となる『Flash Professional』『Flash Builder』で制作したコンテンツは、swf形式で書き出せばAndroid端末でも動作するウェブコンテンツになり、AIR形式で書き出せばAndroid端末にインストールして利用できるアプリにできるという仕組み。同じFlashコンテンツが、スクリーンサイズやユーザーインタフェースの調整により、比較的に少ない工数で複数のデバイスで動作することが、アドビのマルチスクリーン戦略の狙いとなります。
・既に実現している“マルチスクリーン”
基調講演では冒頭で、アドビ システムズの轟啓介氏とアンディ・ホール氏が、FlashやAIRのコンテンツが動作するデバイスのトレンドについて解説。2014年には全世界のインターネット利用者数でモバイル環境がデスクトップ環境を抜く見通しであること、回線速度も3G/4G/LTEを含むモバイル環境が、ケーブルやDSLによる接続速度を上回ることを挙げ、今後はモバイルへの対応が求められていくと説明。その際、バッテリーのエネルギー密度は今後飛躍的に伸びる見通しではないことから、消費電力への配慮が必要になること、スクリーンサイズはパソコンで高解像度化が進む一方、スマートフォンやタブレット、テレビなどさまざまなデバイスのスクリーンサイズへの対応が必要になることを注意点に挙げていました。
今後マルチスクリーンでコンテンツを展開していく際には、最初からコンテンツの再利用を考えることがポイントとなると解説し、事例としてサイバーエージェントの『アメーバピグ』をマルチスクリーンで動作させるデモを発表しました。
テレビで動作する事例は、ソニーの『Google TV』で実演。搭載するOSはAndroid 2.1ですが、通常は2.2から動作するAndroid向けのFlash Player 10.1を特別にカスタマイズして搭載しているとのこと。
続いて、スマートフォンで動作する例としてドコモの『GALAXY S』上で実演。PC用サイトをそのままブラウザ上のFlash Playerで表示する場合、ボタンが小さいなど利用しづらい面があることに言及しました。
このため、サイバーエージェントは『AIR』で開発したAndroidアプリ版『アメーバピグ』を開発。タブレット端末『GALAXY Tab』で動作するデモにより、タッチパネル向けにユーザーインタフェースを改善していることを紹介していました。
・スマートフォンは“革新的なインターネットデバイス”
続いてNTTドコモ スマートフォン事業推進室 アプリケーション企画 担当部長の山下哲也氏が登壇。スマートフォンが今後果たす役割について、将来像を交えながら解説しました。2年後、スマートフォンの出荷台数は全世界で4億5000万台と、PCを上回る見込みであるとのこと。進化し続ける汎用デバイスであること、24時間ネットに接続していること、加速度センサなどセンサが標準装備されていること、タッチパネルによる独自の操作性を持つこと、『GALAXY S』で39~49MFLOPSと、過去のスパコン並みの卓越した処理能力を持つことを挙げ、ドコモが考えるスマートフォンとは“革新的なインターネットデバイス”であると定義しています。
「それは“ケータイではない”」と、従来の携帯電話とは異なる役割を果たしていく可能性を示唆し、さらに今後7インチや10インチのAndroidタブレットが「PCでもなければスマートフォンでもない、大きな存在になる」と、タブレット端末への期待も表明していました。同社は2011年にさまざまなタブレット端末を提供していくようです。
続いてあらゆるデバイスがつながる環境、テレビのオンデマンド視聴や電子書籍の台頭、『Twitter』や『Facebook』を通したバイラルな流通にシフトしつつある音楽配信など、情報端末をめぐる環境の変化について触れ、この変化に対応するキーワードとして、新しい環境に適応した「構造」、context(文脈や前後関係)に応じた「最適化」、魂を振るわせる「Emotionalな価値・経験」を挙げ、これらを表現する「“Presentation”が鍵を握る」というメッセージで講演を終えました。
・新機能をハイライト
これを受けて、再びアドビにより“Presentation”を実現する環境やツールの紹介に入ります。Flash Playerの次期版10.xで搭載される新機能のトピックは、新しい3D API(Application Programming Interface)の採用と、描画時にGPUによるハードウェアアクセラレーションを利用したCPU負荷の低減。3Dゲーム『MAX RACER』を使って、高精彩な3D描画処理を高速に実現している一方、CPUの処理は0%で済むことを実演しました。
『AIR』の新版2.5のトピックは、動作するデバイスが増えたこと。Android 2.2に加えてAndroid OSの次期版『Gingerbread』に対応するほか、BlackBerryスマートフォン、テレビ上で動作する『AIR for TV』に対応します。新しいAPIとして、PC向けにはCSSウェブフォントに対応するほか、モバイル向けにはマルチタッチやジェスチャーによる操作、加速度センサやGPS、カメラやビデオに対応するほか、アプリケーション上でウェブページを表示する『StageWebView』などが追加されています。テレビ向けには、リモコン操作のサポートなどが追加されました。
ユーザーが制作したアプリを収益化する仕組みとして、『Adobe InMarket』が紹介されました。これは、ユーザーがアプリにSDK(開発キット)を組み込んで『InMarket』ポータルに登録すると、アドビが提携する複数のアプリストアで販売できるようにするもの。現在はインテルのアプリストア『AppUp』に対応を予定で、ほかにも複数社と交渉中とのこと。売り上げをダッシュボードで確認する機能も予定しています。
続いて、ウェブアプリケーション開発フレームワーク『Flex』の次期版『Hero』で、スマートフォンなどタッチスクリーンデバイス向けのユーザーインタフェース用コンポーネントが追加されたこと、コンパイラを強化してビルド時間を短縮したこと、コード開発者向けFlashコンテンツの開発ツール『Flash Builder』の次期版『Burrito』でもマルチスクリーンに向けた機能追加やパフォーマンスの改善が図られたことが紹介されました。
『Flash Professional』は次期版のコードネームは未定。こちらもマルチスクリーンに向け、作成する新規ドキュメントの種類やテンプレートが増えたほか、ファイルを書き出す際に重くなるMP3ファイルの処理やデザインファイルの処理をキャッシュして書き出し処理を高速化する機能、使用中に『Flash Professional』が落ちるトラブルへの対応として、オートセーブやオートリカバリー機能が追加されたことを発表しました。
基調講演の最後には、Android端末向けに制作したコンテンツを実機で動作検証できるサービスを紹介。Androidタブレット端末を輸入・販売するネクストファンが、実機を検証用に利用できるレンタルルームを1日300円で提供しているとのこと。この料金は“出世払い”も可能ということなので、Android端末を持っていない開発者には喜ばれるサービスになりそうです。会場では同社から8インチのタブレット『APAD IMX515』が提供され、来場者から抽選で1名にプレゼントされるというサプライズもありました。
・先進事例の数々も紹介
イベントでは基調講演の後、最新技術を利用したユーザーによる事例紹介のセッションが、Flash開発者向けとFlex開発者向けに会場を分けて開催されました。筆者はFlash開発者向けセッションに参加したので、その内容を簡単に紹介します。
ブログ『ClockMaker Blog』( http://clockmaker.jp/ )を運営する開発者の池田泰延氏は、「スマートフォンアプリ開発とFlexフレームワーク”Hero”入門」と題したセッションで講演。最新の『Flex SDK Hero』と『Flash Builder Burrito』を用いたAndroidアプリ開発について、スマートフォン向けユーザーインタフェースやアプリ上でのウェブページの表示、カメラアプリなど、コードサンプルやデモを交えて紹介しました。これからFlashベースのAndroidアプリを開発してみようと考えている方には仕組みや流れが分かりやすい内容なので、興味ある方は『ClockMaker Blog』で公開されているスライドとコードサンプルをチェックしてみることをオススメします。
ブログ『cuaoar.jp』( http://cuaoar.jp/ )を運営する上条彰宏氏は、「Flash Player描画機能の最新情報」と題するセッションで講演。ビデオコンテンツをFlashで描画するコンテンツに重ねて表示する『StageVideo』機能や、新しい3D API『MoleHill』、GPUによるハードウェアアクセラレーションを利用した描画について、デモを交えながら内部処理まで詳しく解説。今後Androidスマートフォン向けにも高性能なGPUが提供され、高速でCPU消費の少ない動作が可能になっていくことを示唆していました。
サイバーエージェントの浦野大輔氏と切通伸人氏は、「アメーバピグ for Android の作り方」と題して講演。基調講演でも紹介された『アメーバピグ』のAndroidアプリ化について、開発の経緯とプロセスを紹介しました。最初はAndroidスマートフォンのブラウザで『アメーバピグ』を使ってみたところ、ブラウザのアドレスバーが邪魔になること、ボタンが小さく操作しづらいことなどから、アプリに移植することを決定。汎用性のある設計で、もともと低スペックのPCでも動作するように作られていたので、機能の移植は簡単だったとのこと。このプロジェクトではデザインに時間を割いたそうです。
デザインのポイントは、画面を横に固定する、文字とボタンを17~25ピクセルと大きくする、メニューを開閉式にする、機能をアイコン化する、アプリ内でウィンドウ表示をやめる、多機能なユーザーインタフェースを簡略化する、ピンチ操作を追加する、といったもの。スマートフォン向けデザインの勘どころを、実例を交えて解説していました。今後はGPSや傾きセンサなどスマートフォンならではの機能を追加したり、海外向けに展開している『Ameba Pico』のアプリ化などを検討しているそうです。
Flex開発者向けセッションについては参加できなかったため、ここでは講演者とタイトルを記載します。
「Deep Dive into Flex 4.5 (Hero) Preview」 廣畑大雅氏(taiga.jp)
「進化するデザイン/開発ワークフロー:Flash Builder “Burrito” + Flash Catalyst “Panini”」 有川榮一氏(AKABANA)
「Flex 4.5 (Hero)による モバイルアプリケーション開発とサーバ連携」 横田聡氏(クラスメソッド)
今週末の12月4日(土)には、Flash関連製品のユーザーグループが主催するカンファレンス『FITC Tokyo 2010』が東京・大崎のゲートシティ大崎 ゲートシティホールで開催されます。こちらでも最新技術や先進事例の発表が予定されているほか、今回登壇したサイバーエージェントのセッションが予定されているので、興味ある方は参加してみてもよいでしょう。チケットは12月3日(金)までイベントのウェブサイト( http://www.fitc.ca/events/about/?event=112 )から申し込むことができます。
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宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます
ウェブサイト: http://mogera.jp/
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