KANA-BOON、2ndAL『TIME』から聴こえる現代音楽シーンへの“拒絶”と“関与”を紐解く
そのことばかり強調されるのもバンドは嬉しくないだろうけど、やはり作品を聴く限りそこから触れざるを得ない。2013年にメジャーデビュー、20代半ばにして同世代のロック・バンドの中でも頭ひとつ抜けたブレイクを果たした大阪出身バンド、KANA-BOON(カナブーン)。その急浮上の裏側には“四つ打ちロック”あるいは“ダンス・ロック”と呼ばれる現行のメジャー系バンドの主流を汲んだ彼らの音楽性が、現代のシーンの現場=踊るフェス文化に強く訴求した側面があった。
もちろん同様に“四つ打ち”を取り入れながら、彼らほど成功していないバンドも多いことを思えば、成功の理由をそこだけに求めるのはフェアではないし、むしろ、それ以外の差異の方が重要だったと考えられる。それでも、タイミングよくシーンのアイコン的存在になった彼らに、踊るフェス文化と距離のあるリスナー層を中心とした批判票が集中。さらに、2000年代以降の邦楽ロックをルーツに持つバンド全般への音楽的バックボーンの偏向についての議論もないまぜに行われ彼らにのしかかった印象があった。
KANA-BOONのメジャー2ndアルバム『TIME』は、自らに向けられたそうした批判に対する回答、というか応戦のような「タイムアウト」から幕を開ける。BPM170を超える高速の“四つ打ち”ビート(ただし、ノリはあくまで縦ノリなので、“変形8ビート”と呼ぶのが妥当かも)にギターのリフを組み合わせたアンサンブルの成り立ちや、曲の中にいくつも展開を設けて聴き手を飽きさせない楽曲構成はこれまで通り。加えて前作よりさらに低音が強調され、よりラウド・ロック寄りのサウンドになっているという印象だ。そして、その歌詞は<はい、もうタイムオーバーだ/体系立てる時間が無い>という初っ端のフレーズに象徴的なように、先述の批判を明確に意識したもの。さらに、これもしばしば批判の対象となるBPM170を超える高速ビートというバンドの十八番を、差し迫った時間(の無さ)の表象として提示するという力技なクリシェも展開している。
2曲目の「LOL」は更に露骨で、<口を開けば戯言ばかり/人の努力を嘲笑うやつがいる>というフレーズに始まり、<はいはい聴こえてるよ/わかってる君に劣ってるよ/毎回刺さってるよ>と皮肉を吐き捨て、<架空の姿、虚構の立場、批評家気取りのあんた>と言い切る、強い拒絶の姿勢が打ち出されている。
冒頭2曲がそういうキリキリとした曲なので、つい全体のイメージもそっちに引っ張られてしまうが、実際ところアルバム全体はそれほど攻撃的な性格の強い作品ではない。多少の自意識過剰さまで含めてロック・バンドの正統というか、リスナーを鼓舞し、あるいは諭し、積極的にその感情にコミットしようとする意志が強く出た作品だ。作品全体に通底するある種の虚無感を自ら否定し、リスナーと希望を紡ごうとする「結晶星」はその極北だし、恋愛について3つの異なる視点から綴った「生きていく」、「スコールスコール」、「愛にまみれて」もそうだろう。陳腐な言い方だが、彼らの支持層が思春期のリスナーを中心に形成されているなら、売れるべくして売れているバンドだと思う。
ただ、このアルバムで最もクリエイティブな瞬間は、冒頭2曲の“拒絶”と4曲目の「結晶星」以降の“関与(コミット)”の間に置かれた3曲目「ターミナル」にある。音楽性だけ見れば同曲はKANA-BOONのメンバーが最も影響を受けたバンドとして度々名前を挙げるASIAN KUNG-FU GENERATIONのスタイルに最も近い曲だ。その歌詞は、<もう一回、挑戦だ、ゴールまで/精一杯、走って改札飛び越えるんだ/白線の向こう側、戦場に乗り込めよ>という具合に、電車をメタファーとしてロック・シーンないし音楽業界で勝ち上がっていく決意をバンド自身とリスナーに誓うというもの。だが、その中でも気持ちの揺らぎ(<降りたいな、逃げたいがまだダメだ>)や、自己への疑義(<カーブで揺れる電車/一緒に揺らぐのは僕の理想なんだろうか?>)の瞬間が訪れる。アルバム中で唯一、拒絶でも関与でもない、言わば“不関与”の可能性が示された曲なのだ。
ある意味ではこの箇所をテコに、アルバムは前述のようにメッセージの舵を切り直す。だが、ここでもう一度その歌詞をほじくり返し、<一緒に揺らぐのは僕の理想なんだろうか?>という箇所を、近年のバンドの多くが“乗っかって”きたダンス・ロックのスタイルへの疑義でもあると解釈すれば話は更に面白い。もちろんスタイルそのものに良いも悪いもないが、自己批判もなくそこに拘泥することほど非音楽的ことはない。根本的に音楽とはそこに主体的に関わる全員を解放し得るもの、自由なものだからだ。若きリスナーに呼びかけるロック・バンドらしいメッセージ以上に、不関与の可能性が示されていると強調したいアルバムだ。
Text:佐藤優太
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