女性活躍推進で訴訟リスク増加の恐れ、企業ができる予防策

現職の国家公務員が男女の昇進差別を理由に提訴に踏み切った

女性活躍推進で訴訟リスク増加の恐れ、企業ができる予防策

10月21日、厚生労働省大臣官房統計情報部で働く50代の女性係長が、昇進で女性差別を受けたとして、国に損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こしました。女性係長は、1988年に国家公務員Ⅱ種試験に合格し、翌年、旧労働省に入省。96年に係長になるまでの昇進は、Ⅱ種採用の同期男性職員と同程度だったものの、それ以降、18年以上、同じ部署の係長から昇進できず、同期男性職員が昇進する中、係長職に留め置かれているのは不当な女性差別を受けているとして、昇進していれば受け取れたはずの賃金約670万円の損害賠償を求めています。さらに女性係長は「女性差別を解消する立場の厚労省が差別を行っている」として、国に対し官報への謝罪文の掲載も求めています。

安倍政権によるアベノミクスの成長戦略で「女性の活躍推進」が柱の一つに掲げられている今日、女性の活躍を推進する動きは、企業環境をとりまく変革の「外圧」と表現しても過言ではないでしょう。そんなタイミングで、現職の国家公務員が男女の昇進差別を理由に提訴に踏み切ったニュースは、考えさせられるものがありました。

企業・組織が永続するためには「人」と「組織」を最大限効果的に機能させることが不可欠です。ここでは「人材管理」の観点から、この問題を考えてみます。

組織内部での人間関係が円滑であったのかには大きな疑問が残る

まず、この女性係長が所属する組織では、組織目標や価値観が共有化されていたのでしょうか?上司は自部門に責任を持ち、部下との対話を軽視せず、部下から信頼されていたのでしょうか?職場における人間関係は良好で、チームワークを実現する連帯感があったのでしょうか?この訴訟に対し、厚労省人事課担当者が「人事管理の問題は、通常まず人事院で公平審査するので、いきなりの提訴に驚いた」とコメントしているように、この女性係長と上司の組織内部での人間関係が円滑であったのかには大きな疑問が残ります。

一方、女性係長は「同期の男性職員は2004~06年ごろ課長補佐級に昇進した。約10年後輩で課長補佐級になった男性もいる」「私一人だけ昇進が遅いのならば能力がないが、他部局と比べて統計情報部の女性だけが昇進が一様に遅いのは女性差別」と訴えているようです。しかし、女性係長を筆頭に昇進が遅いとされる統計情報部の女性職員たちは、そもそも性別や勤続年数に関わらず、組織を担う管理職予備軍として、仕事に主体的かつ意欲的に取り組むことで自らを高め、管理職に求められる能力の涵養努力を行ってきたのでしょうか?客観的な見解に過ぎませんが、この女性係長の上司は、女性係長に対して、課長補佐級に求められる能力が何であり、なぜ係長以上に昇進できないのか明確な説明を行い、納得が得られるまで対峙していれば、この唐突な訴訟は回避できたと言えます。

基本に忠実な組織活動を営むことが、訴訟リスク回避の最大の予防策

最後に、女性活躍推進による訴訟リスクは、女性に限った話ではありません。政府による方針で女性管理職の割合の数値目標を決めてしまうと、能力が高い男性とそれより能力が劣る女性が候補に挙がった場合、数値目標達成のために、能力が劣るにも関わらず女性が登用され、男性であるがゆえに昇進のチャンスを奪われるという「逆差別」の危惧も忘れてはいけません。

性別に関わらず、組織目標の実現(究極的には永続)のために、従業員一人ひとりが「会社・組織」「職場・チーム」「仕事」にコミットメントした魅力ある組織であること。管理職は、人材たる従業員の評価や配置を適正に行い、従業員の能力を最大限に活かす施策をとること。この基本に忠実な組織活動を営むことが、企業・組織ができる訴訟リスク回避の最大の予防策と考えます。

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