JR西、初の全線予告運休 企業の危機管理としての評価
全線運休を予告し、約1200本の運休を実行。48万人の乗客に影響
10月13日の夜、大型の台風19号が暴風雨を伴って近畿地方を横断しました。JR西日本では前日に全線運休を予告し、13日の夕方以降は神戸線、宝塚線など近畿の全24路線で約1200本の運休を実行しました。一方、阪急、阪神などの私鉄は通常通りの運行を続けました。
今回の全線運休は48万人の乗客に影響を及ぼし、利用者からは「適切な対応だったと思う」「ほかの私鉄は動いていたので、動かせたのかな。できるだけ止めてほしくない」「用意周到な感じで、びっくりした」という様々な反応がありました。果たしてJR西日本の対応は、企業の危機管理として最善であったのでしょうか。
「タイムライン防災」実行の背景に福知山線の脱線事故も
JR西日本は今回「タイムライン防災」と呼ばれる、危機管理に対する事前計画を実行しました。「タイムライン防災」とは、台風の最接近から逆算して事前に立てる計画のことを言い、専門家からは危機管理には有効であるという声が上がっています。
13日は三連休の最終日とあって、通常であれば多くの利用者が見込まれる日であり、全線運休を実行することはかなりの決断が必要であったかと思われますが、今回の決断には平成17年に起こった福知山線の脱線事故が影響しているのではないでしょうか。この事故により多くの尊い生命が犠牲になりました。JR西日本は重大な事故を惹き起こしたことを厳粛に受け止め、二度と同じ過ちを繰り返さないという決意のもと「安全を最優先する企業風土の構築」を最大の経営目標として掲げています。
真の危機管理とは、ルールを守り、誠実なサービスを提供すること
近年、大企業であっても、一つの大きな事故や、誤った事故処理の対応等により事業活動の停止に追い込まれることは珍しい出来事ではなくなり、故にリスク管理やコンプライアンス(法令遵守)という言葉がそこら中にあふれかえる時代になりました。しかし、目先の利益にとらわれてしまうと、このような危機管理の意識もかすんでしまい、結局は企業の経営活動に終止符を打つことにもなります。
真の危機管理とは、社会のルールを守り、そのルールの中で企業が誠実なサービスを提供することから始まります。そして実現には、経営者が明確な企業理念と行動規範を持ち、安全が最優先であるという考えを従業員に浸透させていることが必要です。後は、事象に応じて経営トップがどれだけ早く決断できるかにかかってきます。普段から利用者や従業員の安全が第一という考え方が浸透していれば、緊急の災害であっても迷うことなく決断できるのではないでしょうか。
今回の対応は、都市型災害の被害拡大防止につながる
台風は、自然災害の中でも地震や活火山の噴火等と比べて、進路や雨量、風速の予測がある程度はっきりとしています。台風の影響により起こるかもしれない災害に備えて早めに手を打つことは、人々の生命を守るために非常に重要な意味があります。交通の中心である鉄道が運休すれば、駅周辺のお店や企業も同様に休業します。そうなると、多くの人々は外出を控えるようになり、都市型災害の被害拡大防止につながります。
今回の対応は初めての試みであり、また、全線運休があり得るということについての周知が不足していたため、混乱が生じましたが、安全を最優先した危機管理を継続していくことで、「住民を守る」ことにつながり、長いスパンでみると「会社を守る」「働く人々を守る」ことにつながっていくことになります。
JR西日本の行動に対する企業の危機管理としての評価は、今回の経験を活かし、今後もあらゆる災害に対して、経営的な損失をおそれずに同様の行動ができるかどうかで本当の答えが出てくるのではないでしょうか。
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