名無しの世代ですら、社会を信頼していないという(今更過ぎる)話

nanashisedai1

彼女たちの声にならない叫びが聞こえてくるようです。今回は新井ユウコさんのブログ『Busidea』からご寄稿いただきました。

名無しの世代ですら、社会を信頼していないという(今更過ぎる)話
あーもう、夜中にこんなもの読むんじゃなかった。目が冴(さ)えて仕方ない。
「消費しない20代が日本を滅ぼす!? 若者はサクセスストーリーを経験して積極的になれ!」 2008年9月1日『ダイヤモンド・オンライン』
http://diamond.jp/articles/-/4503

というわけで、今回はもう何度も再生産されすぎて反吐が出るほど見飽きた「若者はもっと夢を見ろ=金使え」言説について、もにょもにょと青臭い怒りをぶつけてみる。『Twitter』では割とストレートに語っているけれど、たまにはブログでも素直に、ね。

いろんな世代の呼ばれ方があります。団塊世代、団塊ジュニア、ロスジェネ(氷河期世代)、ゆとり。

ちょうど、このロスジェネとゆとりの間に落ちくぼんだ、売り手市場の数年間に私たちはいました。このくぼみには呼び名がないから、ここではとりあえず『名無しの世代』としておきます。

(大抵、社会的に不幸や問題とみなされることには名が付いて、いいと思われることには名が付かないもんだね。よほど大きなインパクトを持ち込まない限りは)

名無しの世代の私たちは、底冷えした市場を歩き回る前後の世代を見回しては「自分たちだけすみません」と頭を低くし生きています。積極的に自分たちのラッキーさを周りに話そうとはしません。少なくとも、私が話している人たちはみんなそう。あなたの周りも、ちょっと見渡してみてください。自分たちの就活が上手くいったこと、正社員として安泰な生活を送っていることを自慢したがっている23~25歳、近くにいますか?あんまり居ないと思うんだ。酒に酔ってバブルの思い出を語るおじさんと私たちには、それこそ日本海溝ほどの大きな隔絶がある。どちらも、自分が過ごした時代を語るという同じようなことなのにね。

名無しの世代がそういうことを周りに話さないのは、私個人の実感としては、まず自分たちが無用のやっかみを受けたくないというのもあるし、またいつ前後の時代のような苦労をもう一度するか分からないので、他人事とは思えず気楽に話せないというのもあります。そう、私たちは雇用の不安定さを社会に出るまでもなく肌身でずっと感じてきました。テレビや、近所の友達のお父さんお母さんの噂(うわさ)、学校に来なくなった友達の後ろ姿で。それと同時に、雇用が不安定でなかった世界を、一瞬たりとも体験したことがありません。

バブルを懐かしむ人がいます。やれ就活生を接待だ、隔離旅行だとやっていたみたいですね。へぇ。夢のような話です。まさしく夢の話です。私たちが生まれたのはバブル直前からバブルにかけてですが、私たちが学生をやり始めたころには失われた10年が始まっていたから、バブルなんて記憶にも実感にもさっぱりないのです。浦島太郎と何ら変わらない。むしろその奇妙さにかけては浦島太郎みたいな勧善懲悪、シンプルな話と比べるのもはばかられるほど一筋縄でいかないのですから、もっと実感を持ちづらいってもんです。

さらにいえば、私たちがいた数年間は売り手市場といわれ名がない時代ですが、そのときだって就活に苦労している子はたくさんいたのです。むしろすんなりいった子なんてほとんどいなかった。確かにロスジェネのころに比べれば相当楽だったとは思うけれど、それは私たちにとっては比較対象の問題でしかない。苦労はした。内定をもらった子を横目に見て焦り、夜寝る前に履歴書を手書きで書いて字を間違え泣きそうになった。朝お祈りメールをもらって愕然(がくぜん)とした。ミクロの視点で見れば、やったこと、悩んだこと、苦労したことは他の世代と変わらないのです。私たちも。

だからこそ、私たちの実感として、社会を100%信じ切って身を投じられるほどそこに余裕も信頼もなかったんです。今もありません。来年就職できないかもしれない。出来たとしても首を切られるかもしれない。現状のシステムが変わらない限りは、人数の多い上の世代を支えざるを得ない。こんな風では、大幅な収入アップなんて期待薄だ。現実的な判断でしょう?こんな状態で、逆に「今がチャンスだ」と思う変人の道行きはふたつです。ひとにぎりの天才と、大勢の愚か者。

このどちらにも振り分けられることをよしとせず、ひたすら「当たり前の生活をしたい」と求める人々は、だからこそ貯蓄に走り、こぢんまりと生活し、代わりにできる限りの自己実現を図る。充足するのにお金がかかる”物”ではなく、維持費用のかからない”心”を大切にする。大きくなる見通しの持てない身の丈に合った、賢い選択をしているだけです。

だというのに、懸命にに生きている人たちのことを亡国論の主犯に仕立て上げ、あまつさえお門違いのアドバイスまで押しつけてくる言説が世の中に当たり前のようにはびこっていること、本当に腹立たしく感じます。いや、もちろん分かってますよ?お金をもっと使って欲しい人からの要請で書いているんだろうってことは。企業や国の収入は、そうしなくちゃ増えないもんね。

でも、私たちには本当にそんな余裕はなくて、こと経済面に関しては夢なんて見ていられないということくらい、この消費傾向を見て分かってほしい。私たちは別に、車や酒を嫌っているわけではないのです。手に入るならほしい、けれど今の私たちにはその代償を支払う余力がない。ただただそんなシンプルな理由で避けているだけです。そんなこと、きっととっくに分かっているのでしょうけれどね。分かっていて知らぬ振りを決め込んでいるんだ。

そして、私個人として願っていることは、これ以上私たちにまとわりつかないでほしい、ということです。もはや、私たちや私たちに近い世代全員を助けろとは言わない。ただ、バブルという海溝の向こう側にいながら、私たちを『若者亡国論』の首謀者に仕立て上げようとするその企みを再生産しないでほしい。あなたたちが私たちを勝手に分類し、ラベリングして貶(おとし)め、過度な期待=重荷を負わせ、役立たないアドバイスを押しつけないでほしい。そういう言説を読む度に私はえらくしんどい気分になってしまって、たまにはこういう質の怒りをはっきり表明しておきたいと思いました。

今でもいっぱいいっぱいの僕らから、もうこれ以上、生き様や尊厳すら奪っていかないでほしい。ただそっとしておいてほしいの。

それに、若者から無理して搾り取るんではなくて、タンスの奥から引っ張り出してきたほうが、よほど金額としては大きくなると思いますよ。本当に、ええ。

執筆: この記事は新井ユウコさんのブログ『Busidea』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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