仏・国際漫画祭で出展中止の“日本側団体と宗教の怪しい関係
今回は『やや日刊カルト新聞』からご寄稿いただきました。
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仏・国際漫画祭で出展中止の”日本側団体”は幸福の科学がらみ
フランス南西部のアングレームで1月30日~2月2に開催された「アングレーム国際漫画祭」で、韓国側の従軍慰安婦ネタ出展に対し、日本の「論破プロジェクト」が「従軍慰安婦の強制連行はなかった」と主張するマンガの出展を予定していたものの、主催者側からの要請で中止に。産経新聞などが「韓国の政治宣伝はOKなのになぜ日本の政治宣伝はダメなのか」と声高に報道しましたが、そもそも「論破プロジェクト」は幸福の科学がらみのプロジェクトで、代表者も信者。メインキャラクターは幸福実現党幹部のマスコット。従軍慰安婦問題とはまた別の宗教的“政治宣伝”の側面を強く持っています。
■問題の多い宗教団体
「論破プロジェクト」の出展中止をめぐる騒動は、1月30日に産経新聞が〈「慰安婦漫画」韓国OK、日本ダメ 仏国際展 主催者「政治的な宣伝」〉*1と報じたことで、日本でも注目されました。
*1:「「慰安婦漫画」韓国OK、日本ダメ 仏国際展 主催者「政治的な宣伝」」 2014年01月30日 『msn産経ニュース』
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140130/erp14013021050006-n2.htm
31日、日本の政治家たちがこの問題に反応。岸田文雄外相が記者会見で不快感を表明すると、菅義偉官房長官は韓国政府が同漫画祭を主導していると批判。片山さつき参議院議員は、Twitterで「明日欧亜局呼びます早期事態収拾を!」と息巻き、ブログでも「論破プロジェクト」を擁護する発言をしています。
確かに、「韓国の政治宣伝はOKなのになぜ日本の政治宣伝はダメなのか」という議論や、そもそも従軍慰安婦問題をめぐる史実とは何なのかといった議論に火をつけて当然の出来事に思えます。
ところが、実は「論破プロジェクト」は、幸福の科学がらみの団体です。幸福の科学は、批判者や批判的な報道をしたメディアに対して威嚇訴訟や業務妨害行為を行ったり、施設建設に反対する周辺住民を恫喝したり、教育基本法で禁じられている政治教育を行うなど法的・倫理的に非常に問題がある学校「幸福の科学学園」を運営していたり、複数の大学の学祭で正体を隠して偽装伝道を行ったり、教祖・大川隆法総裁が存命中の人物の霊を降ろしたと称して批判的な人物を誹謗中傷したり恫喝したり、著名人の霊を降ろしたと称して勝手に書籍化して宣伝に利用したり。非常に問題の多い宗教団体です。
最近では、大川総裁は堺雅人の霊を勝手に降ろして喋らせました。私藤倉が堺雅人の所属事務所に確認したところ、「初めて聞いた。もちろん、堺雅人の名を使うことを許可していない」とのことでした。
こうした宗教団体がからんでいるとなると、政府や国会議員が従軍慰安婦問題を巡る議論だけを切り抜いて「論破プロジェクト」を支援するかのような発言を行うのは、歴史認識云々以前の部分で、国際的にも恥ずかしいのではないでしょうか。
■教団の関与を示す事実の山
「論破プロジェクト」は、今回の漫画祭での出展に向けて昨年9月頃に始動した団体。韓国が「アングレーム国際漫画祭」で従軍慰安婦問題に関するマンガを出展することに対して、「世界に「捏造された歴史」が流布される事は、許しがたい」「従軍慰安婦の強制連行はなかった」として、「真実の歴史に基づいた漫画」を出展するためにマンガ作品を一般公募していました。
作品を募集していた昨年11月の時点では、ウェブサイトに後援団体として、幸福の科学の政治団体である「幸福実現党」の名前を掲載していました。賛同人には『金田一少年の事件簿』で有名な、幸福の科学の信者と言われるマンガ家のさとうふみや氏も名を連ね、公募作品の選考委員長も兼ねていました。さとうふみや氏は、かつて幸福実現党から衆院選に立候補したこともあり、教団の宣伝マンガやポスターのイラストを手がけています。
またアングレーム国際漫画祭に出展予定だった作品のひとつに、「トックマ」というクマのキャラクターを主人公としたものがありました。このキャラクターは、「論破プロジェクト」のメインキャラクターにもなり、ウェブサイトのほか、アングレーム国際漫画祭で撤去された「論破プロジェクト」のブースにも貼り付けられていました。
カネ集めに余念がないトックマくん(「論破プロジェクト」*2より)
*2:『論破プロジェクト』
http://rom-pa.com/
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そしてこのトックマくん、実は幸福実現党の青年局長であるロック・ミュージシャン、トクマ氏のマスコットキャラクターだったのです。トクマは、2012年に尖閣諸島・魚釣島に無断上陸し、軽犯罪法違反(立ち入り禁止場所等侵入)容疑で書類送検された人物です(最終的に起訴猶予)。2012年の都知事選と2013年の参院選に幸福実現党から出馬し、選挙戦では「尖閣に上陸した男」とのキャッチフレーズを掲げ、トックマくんをプリントした街宣車やのぼり、たすき、着ぐるみを用いて選挙活動を展開していました。
本記事主筆の股間をまさぐるトックマくん(2013年参院選)
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「論破プロジェクト」は幸福実現党幹部のマスコットキャラクターを全面に押し出す形でアングレームに乗り込んだわけです。これはもう、従軍慰安婦問題に関わる「政治的宣伝」以前に、幸福の科学の政党の宣伝です。
幸福の科学では、政治も教義の一部だとしています。つまり「論破プロジェクト」の活動は、宗教的政治宣伝でもあるというわけです。
さらに2月6日発売の『週刊新潮』によると、「論破プロジェクト」の藤井実彦代表自身が、幸福の科学の信者とのことです。前述のトクマ自身が、週刊新潮の取材に対してそうコメントしています。
■報道しないマスメディア、特に産経新聞
アングレームでの騒動の第一報を産経新聞が報じた後、多くの新聞やテレビが後追い報道を行いました。しかし、その中に「論破プロジェクト」と幸福の科学の関連を報じたものはなかったように思います。産経新聞社は、騒動の前からニュースサイト『ZAKZAK』などで「論破プロジェクト」の紹介記事を掲載していましたが、そこでも幸福の科学との関係には言及していませんでした。
トックマくんを載せても「幸福の科学」には言及せず(産経新聞社ZAKZAK*3)
*3:「韓国、慰安婦問題で暴挙 国際漫画フェスに50作出品へ 日本側“倍返し”の構え」 2013年10月31日 『ZAKZAK』
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20131031/dms1310311811023-n1.htm
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特に産経新聞が幸福の科学に都合の良い報道姿勢を取っている理由については、「大量の広告を掲載して広告料金をもらっているから」と言われています。広告を載せているメディアはほかにもいくらでもあるのですが、産経新聞社の場合、幸福の科学との癒着がハンパではありません。
産経新聞社が発行する『夕刊フジ』という夕刊紙があります。2013年8月19日発売の同紙に、幸福の科学の教祖・大川隆法総裁が河野洋平・元自民党総裁や村山富市・元首相の守護霊を呼び出して喋らせたところ、河野氏(霊)の守護霊が「河野談話」について「根拠のない風評を公式見解としたものであるという驚愕の真相を明らかにし」、村山富市元首相(霊)が「村山談話を書いたのは某マスコミ」と語ったとする記事が掲載されました。霊の言葉をニュースにするとは驚きですが、実はこれ、通常の記事の体裁を装った、幸福の科学の偽装広告だったのです。
これが広告であることは、藤倉が電話をかけた産経新聞社読者サービス室の担当者があっさり認めました。
■関与の痕跡を消して回る教団
産経新聞社が「論破プロジェクト」と幸福の科学の関連を伏せたままアングレーム騒動を報道する一方で、幸福の科学側も、『ザ・リバティ』や『Are You Happy?』といった教団機関誌のウェブサイトで、教団との関係を伏せたまま「論破プロジェクト」を宣伝していました。
また当の「論破プロジェクト」自身も、ウェブサイトから「賛同人」「後援団体」等の一覧をいつの間にか削除し、教団との関係を隠蔽してしまいました。
教団側が発信する情報の中には、幸福実現党が「論破プロジェクト」を後援していると正直に掲載していたものもありました。幸福実現党のウェブサイト「HRPNewsFile」や、党員のブログなどです。また、ラジオ大阪で放送中の番組「ハッピージャパン」内で昨年12月、幸福実現党・総務会長兼出版局長の矢内筆勝氏が、「論破プロジェクト」がさも自分たちが行っているプロジェクトであるかのように語っており、その音声データはYouTubeで公開されていました。
「論破プロジェクト」を自身の活動であるかのように語った幸福実現党・総務会長兼出版局長の矢内筆勝氏(2010年・幸福実現党結党1周年記念大会で)
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ところが、いまではこれらがきれいさっぱり削除されてしまっています。党員のブログの削除日は不明ですが、「HRPNewsFile」の記事は少なくとも騒動の前日の1月29日まで掲載されていました。「ハッピージャパン」の音声データが削除されたのは、騒動後の2月4日頃です。
幸福の科学は、途中までは堂々と後援の事実を公表し、自分たちのプロジェクトであるかのような宣伝までしていたのに、騒動が起こって注目されると一転して、関与の痕跡を消し去ることに躍起になっていたのです。
■教団側の言い訳
しかし、いくら削除したところで、Googleキャッシュなどに痕跡がしっかり残っていたり、ネットユーザーによって情報が転載されていたりして、関与を完全に隠すことなどできなくなっていました。
2月4日には前述の矢内筆勝氏が自身のブログに釈明分を掲載。党が後援していた事実を改めて認めた上で、「幸福実現党による同プロジェクトへの後援は、昨年12月、翻訳と作品の出品完了をもって、終了しております」としました。
「「論破プロジェクト」のアングレーム国際漫画祭でのブース展示について」 2014年02月04日 『やない筆勝 』
http://yanai-hissho.hr-party.jp/info/2089.html
しかし、「論破プロジェクト」は今年1月20日まで作品の募集をしていました。昨年12月にアングレームへの「作品の出品」は完了していません。幸福実現党が「論破プロジェクト」に応募した作品の出品作業を12月に終了したのだという言い分と解釈することもできなくはありませんが、それなら、その作品はアングレーム国際漫画祭(1月30日開幕)に持ち込まれたわけですから、党は12月以降も「論破プロジェクト」と無関係にはなっていなかったことになります。
ましてや、プロジェクト自体を「後援」していた団体が、プロジェクトが終わっていないのに作品の出品作業が終わった段階で後援を降りてしまうということ自体、意味がわかりません。
要するに、どう解釈しても辻褄が合わない言い訳です。
また幸福の科学グループ広報局は、「論破プロジェクト」の藤井代表が信者であることを報じた『週刊新潮』の記事内に、こういうコメントを寄せています。
「当グループと『論破プロジェクト』は、翻訳協力以外、一切関係ありません」(『週刊新潮』2月13日号より)
翻訳協力以外の関係が一切ないなら、なぜ幸福実現党の幹部である矢内氏はラジオで、我が事として「プロジェクトを立ち上げました」などと語っていたのでしょうか。公共の電波でウソをついていたのでしょうか。それとも、騒動後の教団や矢内氏らの言い訳がウソなのでしょうか。
私、藤倉としては、「従軍慰安婦問題」をめぐる韓国側の主張が正しいのかどうかはわかりません。しかし自分たちの活動の履歴を改ざんしてしまう幸福の科学と「論破プロジェクト」が、いくら韓国側の主張を「歴史の捏造」と声高に叫んでも、あまり説得力はないのではないでしょうか。
【寄稿者プロフィール】
藤倉善郎(ふじくら・よしろう)
1974年生まれ。カルト宗教問題などを取材するフリーライター。2009年にカルト問題専門のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(http://dailycult.blogspot.jp/)を創刊し主筆に。近年は特に幸福の科学の取材に力を入れてているが、力を入れすぎたせいか、教祖・大川隆法総裁に勝手に守護霊を召喚され、無断で書籍化された。
執筆: この記事は『やや日刊カルト新聞』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年02月06日時点のものです。
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