ギャリコ『スノーグース』の魅力を凝縮! 画家・横田沙夜さんインタビュー「赤い舟を見送る場面が好き」
1940年代より短編の名手として活躍したアメリカの小説家ポール・ギャリコ(1897-1976)。中でも人嫌いの絵描きの男と少女の傷ついた一羽の鳥を介した交流を描いた『スノーグース』は代表作として知られ、繊細な心象描写が読者の心を掴んでいます。
そんな『スノーグース』の世界を画家の横田沙夜さんが描いた個展「ふたりの王女さま」が2013年10月4日から10月28日まで、東京・浅草橋のパラボリカ・ビスで開催されることになりました。
兎の頭を乗せた少女の水彩画が東京のアートシーンで注目を集めた横田さんにとって、今回の個展は2012年10月以来約1年ぶり。会期中には、『スノーグース』のアイテムが発売されるほか、2013年10月19日には朗読とライブペイントが行われるイベントも予定されています。
『オタ女』では、これまで描いてきた童話の世界観とは違った作品に挑戦することになった横田さんにインタビュー。ギャリコを題材にした理由や、作中に登場する少女フリスの魅力などをお話し頂きました。
--2012年にパラボリカ・ビスで開催された個展『私語する兎頭たち』から1年が経ちました。昨年の展示を振り返って、ご自身が得た収穫についてまず教えて下さい。
横田沙夜さん(以下横田):最初の個展の会場だったビリケンギャラリーとはまた雰囲気の違った会場でしたので、空間全体で絵を見せる事が出来た事が良かったと思います。どちらのギャラリーにもそれぞれの良さがあって、昨年足を運んで頂いた方々には二つの面を見せる事ができました。
--今回『スノーグース』がテーマとして選ばれました。これまで『赤ずきん』など童話から題材を取られることが多かった中、アメリカの作家の短編小説を選んだ理由は?
横田:ギャリコは3、4年前に『ジェニィ』を読んで、猫の動きの表現が非常にたくみで可愛らしい半面、切ない場面が多く愛おしくなる作品で印象的でした。それで、知人から『スノーグース』をテーマに描いてみてはどうか、と勧められたのがきっかけになります。
--『スノーグース』ではせむしの男ラダヤーと少女フリス、それに傷ついた渡り鳥”ロスト・プリンセス”が登場します。特に好きな場面はどこになりますか?
横田:ラダヤーとフリスが初めて出会った場面と、ラダヤーの赤い舟を見送る場面です。
--ラダヤーがヨットで出帆するシーンは、1940年代の戦争中のイギリスの状況を象徴していて、フリスの心の動きの描写と合わせて印象に残ります。これまでと違った世界観や情景を描かれる上でポイントとなったところを教えて下さい。
横田:フリスの表情や、画面の空の色などを意識して描きました。大丈夫だという保証はないけれど、ラダヤーにとって選択肢はなく、それをフリスは知っていると思います。フリスの確信をまっすぐな眼差しを表現しました。
--フリスは「ぞっとするほど美しい」「年齢のわりに大人びた」少女という描写があります。自身がお描きになる上で気をつけたところや、自身の絵の世界に入れる上でのポイントを教えて下さい。
横田:美しいけれども「上品」とも違うフリスですので、内面の無垢さやあどけなさと見た目の美しさのバランスには気を付けました。自分の絵には、こちらから歩み寄る形で近づけました。水彩をいつもより淡く、水彩の持つ透明感をより重視しました。
--フリスと、これまでお描きになってきた少女との共通点と違った点はどこになるのでしょう?
横田:今までは人の数だけイメージのある赤頭巾などのキャラクターや、自分で作り上げた感情を内側に秘めた少女を描いてきました。フリスは最初の頃それらに近かったのですけれど、ラストに近づいて感情が表に出てきて、私の中にある少女とは離れていきました。それがとても新鮮でした。
--今回の展示では、甘束まおさんの朗読とライブペイントも予定されています。
横田:最初、個展の期間が長いので何かイベントがしたいと考えて、『スノーグース』はグリム童話などとくらべると、誰もが知っているとは言い難いので、朗読を聞いて知っても貰えるといいなぁ、と思ったのです。朗読の中で、視覚的にも情報が入ると面白いということで、ライブペイントを思いつきました。木炭も初めて使うのですが、あくまで朗読のスパイス的に楽しんで頂ければと思っています。
--ぬいぐるみ作家の大村風生さんによる、『スノーグース』をイメージしたブローチも販売されます。大村さんの作品の魅力と、今回コラボが実現した率直なご感想をお願いします。
横田:大村さんのことは知人の紹介で知ったのですが、既に発表されているインコ等の鳥をモチーフにしたブローチを見て凄く欲しいと思いました。とにかく小さいのに細かくて、羽根の一つ一つが手縫いで表現されていたり、脚を曲げたりできるんです。私の描いた『スノーグース』の絵を実際に見て頂いてからブローチの製作をしていただき、本当に嬉しいです。
--また、『夜想』の最新号には「少女」にまつわる寄稿が掲載されます。
横田:詩は大学の頃からたまに書いていて、今回「好きに書いていい」ということだったので、その頃の気持ちで書きました。ある夜、自分に起こった話のような語り口調で書いてみました。
--新しい表現にも挑戦されているということでもアートファンの注目を集めることになると思います。最後に、個展に足を運びたいという方々にメッセージをお願いします。
横田:ポール・ギャリコの紡ぐ小さなきらめきの様な世界を知って頂き、その挿絵として私の絵を見て頂けると嬉しいです。
--貴重なお時間、ありがとうございました。
横田沙夜個展「ふたりの王女さま」
期間:2013年10月4日~10月28日
時間:月~金/13:00~20:00 土日祝/12:00~19:00
料金:500円(開催中展覧会共通)
会場:parabolica-bis(パラボリカ・ビス)
東京都台東区柳橋2-18-11
TEL: 03-5835-1180
横田沙夜「ふたりの王女さま」(夜想 yaso & parabolica-bis)
http://www.yaso-peyotl.com/archives/2013/10/hutari_ojo.html
乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。
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